目覚めたイチカとマヒロ。二人の雪解け
イチカは目をあけると、周りは氷の湖だった。
いつの間にか自分の身体には毛布がかかり、目の前には焚き火がたかれイチカの身体を暖めていた。
「夢見てたのか…三年前の。あれ、そう言えば団長は?」
あたりを見渡すがマヒロの姿はない。
ブクブク・・
突然聞こえた泡音の方に目を向けると、分厚い氷に穴が開き湖の水面が剥き出しになっている場所があった。
ザバーン!!
マヒロがその極寒の水中から地面に上がってきた。
「な、何してるんですか、団長?こんな極寒の湖に潜って」
「…ああ、ちょっと頭を冷やしてた。もう大丈夫だ」
マヒロは自分の頬をパチパチと両手で力強く叩いた。
その顔からは、さっきまで自分を殺そうとしていた邪悪さは完全に消えていた。
「そうだ!イチカ!身体の調子はどうだ」
「あっ、、あれ?そう言えばもう全然平気です!何かしました?」
「さっき寝てる時に、免疫細胞を操作させてもらった。あと、ドーパミンと活性細胞を、、ってまあいいか。イビキかいて気持ちよさそうに寝てたし、もう熱もないから大丈夫そうだ」
マヒロは、イチカの額に優しく手を当てる。
「疫病神ってそんなことまで出来るんですね。
危うく殺されるとこでしたけど」
「…本当にすまない」
落ち込み肩を落とすマヒロにイチカは笑いながら言った。
「冗談ですよ」
「なあ、なんで信じてくれるんだ?俺なんかのことを。
君も見たんじゃないのか?あの日、俺の姿を」
「…ええ、見ました。猛毒がばら撒かれる瞬間も。…大切な人たちがたくさん死んでいくのも」
イチカは悲しげに呟く。
マヒロは怒りと悲しみで拳を震わせる。
「団長がこんなことするはずないって、信じたくなくて追いかけました。そこで、見たんです」
「見たって何を?」
「…ブラッド副団長とスタンフィールド将軍の姿を。
団長。あの日、あなたを陥れ、私の村を襲ったのはブラッドですよね?」
マヒロは、歯を食いしばりながら首を縦にふる。
「ああ、そうだ。俺はあいつらを絶対に許さない」
その言葉に、イチカの目から一筋の涙がこぼれる。
「よかった…ずっと団長の口から直接その言葉を聞きたかったんです。
あの惨劇の後、マヒロさんに代わって団長になったブラッドは、誰に対しても優しく信頼できる上官として、多くの兵から慕われていました。
今では、ブラッドはスタンフィールドに代わり将軍の地位にまでついています。
だから、私があの日見た真実を同期に伝えても、誰も信じてくれなくて。意識も朦朧としていたから夢と現実の区別がつかなかったんだろう、って。
そう言われると、あの日川で見た光景は、団長が悪者であって欲しくないって思いが見せた都合のいい幻覚だっだんじゃないかって、自分の記憶さえ疑うようになっていました。
だから、もし万が一団長が生きててくれたら、直接団長の口から真実をききたかった。私は…そのために、ここに来たんです」
安堵の息を吐くイチカの頭をポンと叩き、マヒロは優しく微笑む。
「ありがとう、信じてくれて。俺はあいつらだけじゃなく、いつの間にかこの世界のすべてまで憎んでいた。
君がいなかったら、俺は君みたいな罪のない人間の命まで奪うことも躊躇いすらしなかった。
感謝する」
「…いえ、そんな。てかちょっと顔近いです」
イチカは急に顔が熱くなり、まっすぐに見つめるマヒロから顔を背けた。
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