イチカの記憶 (3) ―3年前、オーリの村の惨劇―
村の外れの河原までたどり着いた時には、すでに意識は朦朧としていた。
イチカは木の陰に隠れて佇む男の顔を見た。
その男の顔は間違いなく、自分が憧れたマヒロそのものだった。
「…なんで」
イチカは腰にさげた刀に手をかける。
その手は怒りと悲しみで震えていた。
「ご苦労だったなブラッド。任務は完遂したか?」
イチカが踏み出そうとした瞬間、川の方から声が聞こえて、とっさに身を潜めた。
木の陰から覗き込むと川には小舟がとまり、小船の上にはフードを被った男がいる。
その男の方にブラッドと呼ばれたマヒロの顔をした男が歩み寄り、小舟に乗り込んだ。
「反体制派組織、シラツキ。
アジトにいたメンバー12名全員、私が直接毒の魔術で葬りました。
しかし、カモフラージュのためとはいえ、関係ないたくさんの村人たちも犠牲にするってのは、
国王も残酷ですね。胸糞ですよ、スタンフィールド将軍」
「お前にも人の心はあったとは、驚いたな」
「ああ、別にこんな小さい村の人間が何人死のうがどうでもいいんですが、
大嫌いな団長の顔に化けなきゃ行けないことが胸糞悪くて」
そう言うと、ブラッドは自らの顔に手を当てる。
マヒロの顔が一瞬でもとのブラッドの顔に変わる。
薄れかける意識の中でもイチカはその光景を見逃さなかった。
「…あれは、、ブラッド副団長?」
川下の方に消えていく小舟を眺めながらイチカは意識を失った。
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