新兵 イチカ=シオン (3)
その夜、イチカは夕飯を作り、アストンとバップの三人で食卓を囲んだ。
ガストンとバップは朝からすでに10本以上酒瓶を空けている。
「いやー、イチカちゃん。若いのに料理も上手なんだねー」
「は、はい。昔から、病気の母の代わりに妹や弟たちの料理を作ってたんで」
「へー、立派だね。君みたいな子、お嫁さんにしたいな」
「はっ、、はは。ありがとうございます…」
(はあ、、まだ初日なのに疲れたな)
イチカはため息を吐きながら、ナイフとフォークで綺麗に肉を切り口元に運ぶ。
イチカと対照的に、二人は手づかみで肉をほう張り、食卓を汚していた。
その光景を見て、イチカは、自分がまだ入隊したばかりのころ、野営地の食堂でクロエに優しく話しかけられたときのことを思い出した。
『マナーはその人の心を映すの。イチカさんはとってもきれいな心をしているんですね』
クロエは、かつて第一師団の兵長を務めていたが、三年前の事件後、入隊直後のイチカと同じ第三師団の三等兵にまで降格させられていた。
大罪人の妹。
周囲の兵や上層部からも冷たい視線を浴びせられ続け、精神的に疲弊しきってもおかしくなかったはずだ。
それなのに、クロエはいつもイチカや新兵たちに優しく接してくれた。
クロエの静かで優しい眼差しを思い出した途端、涙がでそうになる。
「クロエさん、、」
そのとき、突然イチカの耳にかすかな雷鳴のような音が聞こえてきた。
思わず椅子から立ち上がる。
「どうした??急に」
「二人ともきこえませんでしたか?今の音」
「音?いやなにも」
(あれは、まさか…処刑場の方から)
「おい!どこ行くんだ!」
イチカは二人の声を無視し、食卓の扉を開け、外の廊下にでる。
建物から出る扉の前で立ち止まると、踵を返し、奥の部屋に向かった。
壁に飾った呪布の巻き付いた刀を手に取り、建物を飛び出す。
風とともにおぞましいほどの邪悪な気がイチカの肌にふれる。
(…本当に、蘇ったんだ。疫病神が)
怒りに燃えるイチカの瞳から涙がこぼれていた。
「疫病神、天音マヒロ…お前は私がこの手で裁く!」
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