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第6話:大地、動きます

 


「フフフフフ……いいわぁ。二人とも……いい。本当に理想的。筋肉の立体感と身長差も、素敵よ? キャンパスとしてとっても理想的………フフ」

 マジで……サイコさんだ。

 二人の全裸写真をネタに強請(ゆすり)をかけて、協力を強制しやがった。生徒会メンバーに送るわよと……最後の最後に恥をかきたくはないでしょう?―――そう……ニコヤカにほほ笑みながら……。しかも送信予約済みのスマホを見せながら。

 解除してほしければ、二人は副会長の言う通りにしないといけないわけで……。全裸で拘束された二人がコクコク頷いた瞬間、ふわりと微笑んだ副会長の笑顔は……オレの知る限り過去一綺麗だった。

「フフフ……別にBL的な展開を強制するつもりはないわ? 安心しなさい?」

 ……だそうだ。

「普段は成人したモデルを雇うのだけれども……それにも飽きてしまいまして。ご協力に感謝しますわ」

 なるほど。

 日ごろから、ねらってたってことか。この二人を。

 つまり長年にわたり、生徒会活動を一緒にしてきた会長と書記の二人を……この美女はキャンバスと見なしていたわけで。

 ……怖っ。いったい副会長の目には、人類が何に見えてるんだろうか……。

 ま、いいや。

 今のところ、オレに実害はないし。

 この星の命運を握ってる会長と書記には感謝しかない。

 マジで……尊い犠牲をありがとう。

「フゴー、フゴッフゴゴ」

「モゴっ⁉ モゴモゴ!」

 すまん二人とも。

 オレは助けにはなれない。

 何よりオレには、任務があるのであるからして。

「なぁ副会長さん。さっきの約束を守ってくれない?」

「フフフ……私の願い、だったかしら?」

「あぁ」

 解除条件1と2―――二人を拘束して、肉体をキャンバスにした立体画を描く。

 解除条件3はこれらとは違う……はずだ。

「これを見て頂戴?」

「これは……」

「えぇ。昨日、世界を駆け巡った情報よ」

 マジか……。

 これCan’t Stop Me運動のサイト、だ。

「このサイトのアート部門……サイト閲覧者が投票するコンペを開いているの。私の願いは、そこで金賞をとることよ。地球滅亡前、最も儚く偉大な芸術家として歴史に名を刻むの……フフフフフ」

「……そうですか」

 出たよ無理案件。

 てか、会長と書記の全裸アートおそらくモザイク添え……世界の品評会に出されるのか……。

 ご、ご愁傷様です。


『大地? 聞こえるかい?』

『ん? アマテラ? どうした?』

『いや、君が気づいているけど心の中でスルーしようとしている案件について、念のために確認しておこうと思ってね!』

『………ダイジョウブデス』

『ならばよし!』


 いや……わかってるよ?

 会長たちがこんな事態に巻き込まれてるのは、オレのせいってことだよな?

 ぶっちゃけオレが、Can’t Stop Me運動のスターターなわけだもんな? 

 オレがいなかったら、今、副会長が燃えに燃えてるコンペもなかったわけだもんな?

 それに……金賞ね。

 それってトップか、それに近い順位ってことだもんな?

 だとしたらある程度の知名度がないと無理じゃね? ってことだよな?

 副会長―――アート界じゃ有名なんだっけ? 国内のコンクールで受賞したって……全校集会で表彰されてたような……。

 でもぶっちゃけ、心もとない。

 世界的に見れば無名に等しい。

 会長と書記の知名度は、校内じゃ高いけど。

 もちろん世界じゃ無名だ。

 となると―――

『あぁ! やっぱり気がついてたようだね! 大地が生徒会長とやらの代わりを務めるが吉とみたよ!』

 デスヨネー。

 てかアマテ~ラさ~ん。オレが全力スルーしようとして、うっすら気がついてたけど気がついてないことにしてた深層心理っぽいところまでスッケスケに読めちゃうんだね?

『なぁアマテラ……これからしばらく、こっちの様子を見ないでね?』

 今は心が読まれるのは諦めよう。

 でも、部屋で桜餅食いながらオレの裸体鑑賞するのは止めてな?

『善処しよう!』

 ……ま、期待せずに期待しておこう。

 でも、これで……解除条件1と2は、なんとか達成できそうか。

 これで仮に隕石が落下したとしても、地球が滅ぶような被害にはならないだろう。

 それでも……まだまだヤバいことには変わりないけど。

 なにせもともとが災害レベルⅧなわけで。多少、緩和されたとしても甚大な被害がでることは間違いない。

 やっぱここは、解除条件全クリを目指さなきゃダメだ。

 つまり、日本DK界のトップに君臨するキング―――このオレの出番。

 陸上の国際大会出場し、入賞経験も有る。オリエンタルな魅力を持つDKモデルとして世界の雑誌にもチラホラ取り上げられるこのオレ。

 しかも、SNSで広まってる、止めるな運動のスターター。

 こんな状況下でも、世界で知名度爆上がり中のオレこと沢渡大地。

 このオレのネームバリューを使うってことはすなわち、匿名じゃないってわけで。

 ……うん。

 腹を括るしかないよな。

 また会おうって翔との約束も守りたいし。

 この日常を失いたくはないし……。

 でも……初全裸披露は、大好きな人と二人きりってシチュが良かったなぁ。

 いきなり世界中に裸を晒すことになるなんて……。モザイクしっかりめでお願いします……。

「なぁ副会長。提案があるんだけど?」

「あら? 何かしら?」

 うわぁ……。

 生徒会長、既に全身真っ白ペンキ……。ちょっと涙ぐんでるし……。今からオレも、こうなっちゃうのか……。

「そのさ、オレが協力しようか?」

「それは……どういう意味かしら?」

 ニヤリとした微笑み。つまり、オレが言いたいことを察してるってわけだ?

 でも、オレの口から言わせたいわけね。てかいい性格してんな……マジで。

「つまり会長の代わりに……このオレが脱ごうかって言ってるんだけど?」

「それは―――」

「―――自信ねぇの?」

「……」

「オレの知名度、そしてこの肉体美があれば……注目されるだろ?」

「それは……そうね」

「で、どうなの? 自信ある?」

 プライドの高い奴は、煽るに限る。

「フフフフフ……つまり、あなたはこう言いたいわけね? 沢渡君の知名度で注目を集めたクセに受賞できないなんてことになれば、それはすなわち私の落ち度―――能力不足だってことになるわね」

 理解が早くて助かります!

「で、どうなの?」

「……答える価値のない質問だとは思わなくて?」

「じゃあ決まりで。あ、ちなみにオレ、仕事の関係でムダ毛は処理済みだから安心して」

 仕事で際どい写真を撮ることもあるから……大事なところの毛も、自分で処理してるし。そもそも体毛薄い方だし。

 なにより、副会長に体毛剃られるのは全力でお断りしたい……。

 だって佐藤君、泣いてたもん。

 副会長に、全身の至る所を丁寧に剃られてたもん……。無表情かつ、冷酷に……剃られてたもん。まるで毛を刈り取られる羊のみたいだったもん……。

 あまりにかわいそうで、最後まで見てられなかったもん……。

「あら? それは助かるわ。じゃあさっそく脱いでくれるかしら?」

「あぁ」

 いいか大地。

 仮面を被れ!

 役になりきるんだ!

 お前は歴戦の勇者!

 故に、別に人前で全裸になることくらい恥ずかしくない! 美女の前で脱ぐことくらい日常茶飯事朝飯前の勇者なのであるからして!

 うん……来た来た来た!

 役が降りて来た……!

 チャラくて挑発的な大人の色気たっぷりの今のオレは決してDのTではない!

 照れもなく、戸惑いもなく、ただ……解放すればいい。いつものように、己の、全てを……。

「フフフフフ?」

 ふと見れば、書記の佐藤氏と会長の立花氏が口を金魚のようにパクパクしてる件について。

 え?

 なに?

 なんなの?

 オレのJr.、なんか変なの?

 こんなに真正面から他人に見せたことないから、ちょっと不安になるんだけど?

 だってほら、セレブは銭湯いかないし。部活後のシャワーも個別だし。なんなら今まで行った温泉も貸し切りだし。それか個室に温泉ついてるとこしか泊まったことないし。修学旅行もスウィートを個室利用だったし。

「キングの肉体をキャンバスにできるなんて……光栄よ?」

「お世辞はいい。さっさと済ませよう」

「じゃあそこに寝ころんで……佐藤君と沢渡君でサークルを作ってくれるかしら? 佐藤君の足首に沢渡君の頭部が来る感じで……うん。そのまま上半身を少し開いて―――ウロボロスの輪から必死に脱しようとする表情で…片手を天にかざして……」


 って感じで………結局、大量の全裸ポーズ写真を撮られたわけで。

 ポーズが定まった後、副会長の手によって、全身に赤ペンキで紋様を記されたわけで。

 筆がくすぐったかったけど。

 塗り色にムラがないよう全身をくまなく触られたけども。

 まったく問題ない。

 伊達にオレは、魔法使い経由大賢者街道を驀進してはいないのであるからして。

 つまりオレは、簡単なものであれば魔法を使えるのだ。今回使った魔法は「コレはオカン」。これを心のなかで連続詠唱するだけで、血流を低下させられる。たいへんすぐれた魔法なのである。

 けど、かわいそうだったのは……佐藤。

 全身を無遠慮にペタペタ触る副会長の魔の手により、羞恥心や諸々が限界突破する状態異常―――いや状態正常になった佐藤君の佐藤君のせいで佐藤が途中でマジ泣き状態に。

 けどそれも、ウロボロスの輪から逃げたくて逃げられない苦悶の表情にピッタリだと、不敵に笑う副会長のテンションを上げる結果に繋がったわけで。

 結果、更にペイントを重ねられ、あれやこれやと無遠慮に触る大魔王神林の手によりますます佐藤君の佐藤君がたいへんな事態になったわけで。それでも止まらぬ魔神王神林が放つ美女故のチート攻撃により……最終的に佐藤君が苦悶と恍惚の表情により新たな扉を開いた瞬間……終焉はもたらされたのである。


 そんなこんなで結局、作品の締め切り時間ギリギリに投稿が完了したわけで。

 投稿前に、オレは最終チェックができなかったわけである。

 もちろん自宅に帰って、投稿済みの作品を恐る恐る確認しながら……オレはベッドで泣いたね。

 色を塗られて、かなりわかりにくくなってはいるけども。Jr.の位置や大きさは目を凝らせば判別可能な状態だった……。しかも立体アートって、画面を操作すればほぼ全てのアングルから作品を鑑賞可能なのである。

 佐藤君の佐藤君は、どのアングルからでも捻った太ももの陰に隠れて保護されてるのに……。

 解せぬ。

 ここまでいくと、もう悪意を感じるよね……。

 あの負けず嫌い美人めぇぇぇぇ! ちょっと煽っただけでこの仕打ちとは……解せぬっ。

「ねぇ! ちょっと大地! 見て! これ! 見てよほら!」

「……うん、良かったよね」

「もう! なにこんな時までこの子ったらクールぶって!」

「ま、オレはわかってたから。こうなるって」

 そう。

 このとき、オレは知ったのだ。

 隕石が奇跡的に軌道を逸れたという政府の公式発表を聞きながら。家族と最後の晩餐を囲みながら。

 見事、副会長の立体アートが金賞を受賞したことを……。

 そう。

 オレ的にはこっちの方が重大ニュースなわけで……。ちらっとサイトを確認した魔神王神林の作品は、閲覧数と投票数でぶっちぎりの1位を獲得してたわけで……。

 作品のコメント欄は……怖くて見れない。


 さらにさらにその後のこと。

 滅亡の危機を脱した地球が、もとの社会生活に戻るまで半月ほどを要した。

 けどその間、メディアはとてもお元気だった。それはもう、とってもお元気だった。

 止めるな運動のスターターで、地球最後のアート展とやらで美人女子高生の金賞受賞に貢献したこのオレの顔面と肉体は、ネタが尽きていたテレビ各局を席巻したのである。

 そしてそれは、国内に留まらないわけで。

 世界のメディアからの取材依頼にウハウハ応える事務所の方針も相まって……これまで同様、キングと呼ばれるようになった。

 しかし、その呼称の適用範囲は拡大された。

 これはまでは日本DK界のキング。

 しかし今のオレは、世界のDK界のトップに立つキング……らしい。

 学校に抜き打ち取材に来た世界各国のメディアに、クラスメートを勝手に代表してノリノリイングリッシュで答えた帰国子女の翔が放った暴露に、金賞受賞作の拡散が加われば……どうなる?

 そう。

 オレは世界的に有名な、伝説の聖剣エクスカリバーを有する歴戦の勇者ってことになった……。

 つまり、つまりつまりつまり、だ。大賢者に向けたオレの大航海は、更に速力をあげたことになる。

 この上なく順調に、なんの支障もなく……。

 追い風がガンガン吹くせいで、勝手にゴールを目指して進んでいるわけだけれども。今更それを自力で止める術もなく。現状、歴戦の勇者ぶってたけど実は初戦だったキングが秒殺されたなんて黒歴史の爆誕フラグが乱立するのを見守るしかないであるからして……。




今日もありがとうございました!

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