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第5話:キングと呼ばれし男




>>> キング(沢渡大地):プライベートアカウント


「学校のみんな。地球の最後が迫ろうとしているこの時に、オレの動画を見てくれてありがとう。さっそく本題な。オレから提案なんだけど……明日、9時に高校に集まろうぜ? 友だち、家族、べつに他校の奴でもいいし。いろんなヤツ誘ってさ。部活したり、試合したり、エンドレス休み時間で無駄トークしたりしようぜ! だって……おかしくね? 地球最後の危機が迫ってるからってさぁ……オレらの青春を止める必要なくね? オレらの人生止める必要なくね?……ってことで、この動画、拡散よろしく!」


>>>動画再生回数:5,228,952回


「なるほど……考えたね」

「あぁ」

 発想を変えてみたってわけ。

 オレが探すのは諦めた。

 でもオレの近く―――つまり学校にたくさんの人が集まるようにしてみた。外に人がほとんど出歩いてないこの現状を考えれば、かなりマシな状況が到来するはず。

 それに、オレのあの動画に付き合ってくれるんだから。きっと、こんな事態でも前向きに物事を考える人が集まってくるはず。この天災を防ぐぐらいの……とんでもない幸福欲求を持ってる人がオレの周囲に現れる可能性も高まったはずだ。

 うん。

 それに現状は……いい流れだと思う。

「コメント欄は……意外と好反応みたいだね!」

「あぁ」

 アマテラの言う通り。

 もちろん、否定的な書き込みもあるけど。

 でも、それ以上にたくさんの賛同コメが溢れてる。みんな……くすぶってたんだ。非情に、理不尽に、唐突に奪われた日常を取り戻したくて。悲しみに明け暮れて……過去を振り返ってばかりいるから。今を―――平凡にまみれたこの瞬間の価値を……自分らしさを取り戻したいんだよ。

「それにしても……やるじゃないか。君の影響力はなかなかのものだね! まぁ、僕の人気程ではないけれど!」

 偉大なる女神が、いっかいの砂粒人間であるオレに、人気度でマウント取りに来なくてもいいと思うけど……。

「サンキュ!」

 ま、認めてもらえて、ぶっちゃけ嬉しい。神からの賛辞なんて、そうそうもらえるもんじゃないだろうし。

 でも、ちょっとムズガユイ……。

 なにせ正直なところ、予想外な展開だから。

 どうやらオレの動画が方々に広まってるっぽい。#止めるな運動……SNSランキングのトップにあがってるし。日本中の中学生や高校生が賛同して……自分たちの学校に集まろうって動きになってるっぽい。

 ………しかも、それだけじゃない。

「いつの間にか……世界中に広まってるし」

 SNSがヤバい。

 世界中で、最後の日常を取り戻す運動が広がってる。Can’t Stop Meってキャッチコピーに翻訳されて、オレの動画が、あっという間に世界中に拡散した。翻訳苦手だけど……自分を止められない? 自分らしく生き抜こう……こんな感じか?

「ま、予想外な展開だけど……いい後押しにはなってるはず」

「あぁ。これで学校に集まる人は増えるだろうね!」

「つまりこれで……天災ゲージ保持者が見つかる可能性は高まったと考えていいよな?」

「そうだね! 今回の天災―――地球のフラグをへし折るだけの幸福欲求を抱いている人物が見つかるだろう」

「……もし、見つからなかったらどうする?」

「大丈夫さ! 僕の勘がOKって言ってる!」

「………そりゃよかった」

 勘、ね。

 まぁ、偉大なる女神様の勘だからな。

 間違いないだろう。

 問題は、解除条件の方だ。どうか、無理難題じゃありませんように……。





 +++



 それにしても……集まった。女神様の目算では……五百人くらいらしい。

 教室、それに体育館に音楽室。校庭に図書室。どこも生徒や先生たちでいっぱいだし。

 むしろいつもより多いんじゃね?

 他校の制服もチラホラ見えるし……地域の人も集まってきちゃってるし。露天販売も数十件出てるし……ちょっとした文化祭っぽくなってる。


「あ! 沢渡じゃん! マジサンキュー!」

「オレも! マジ大感謝直撃中!」


 時折沸き起こるサンキューコールに……いつものように笑顔で返して。でも、ちょっと胸がジンってなって。反射的に出たいつもの作り笑顔をキープできない。素の、ニヤニヤっとする笑顔が零れた。

「みんなに喜んでもらえてよかった! てかむしろ、集まってくれたみんなにマジ感謝!」

 さらに大きくなる拍手に、オレも拍手で応える。

 これまで、ファッションモデルとしていろんなステージを経験してきたけど。でも、そのどれよりも……最高にあったかい。嘘のない、心からの拍手だってわかるからかも。

「なぁ沢渡! バスケしようぜ!」

「バカ言わないで! 沢渡君は私たちと走るのよ! 陸上部優先!」

「悪ぃ! ちょっとオレ、まずは……みんなの様子見てまわりたいんだよね」

「そっか……そりゃそうだよな!」

「なら、仕方ない。時間できたら絶対にグランド来てよね!」

「もちろん!」

 本当はオレも、すぐにでも合流して、部活のみんなと思い出づくりしたいところだけど……。そうはいかない。

 オレには使命がある。みんなの幸せにつながる使命を果たさなきゃいけない……。

 足早に、それでも確かにみんなと笑顔を交わしながら……階段を上り下りして。廊下や教室をジグザグ歩きまわって……。

 いろんなヤツとウェイウェイ挨拶しながら……ようやく、気がついた。

 ヤバい。見渡す限り……リア充陽キャばっかりじゃん。

 校内でハグしたり、キスを交わしてるカップルもいるし。

 リア充爆ぜろなんてジョークは……不謹慎か。

 現に地球、爆ぜそうなわけだし。

 でもまぁ、そういうことなんだよ……つまりみんな、爆ぜろと言いたくなるくらい既に幸せそうなわけで。

 つまりつまり……幸福欲求が満たされてる奴ばっかりだ。

 つまりつまりつまり……オレはリア充陽キャじゃない奴らを探さなきゃいけないことになる。

 この天災を覆すほどの幸福欲求を持つ人物。確かにそれって……どうせ地球が滅ぶなら最後に幸福欲求を満たしたい……そう考える人物ってことのようだ。

 ってことはやっぱ、リア充陽キャより、やっぱ非モテ陰キャの方が可能性高いか……。

 だとしたらヤバい。

 生態が未知過ぎる。

 そもそも、だけどさ。

 そういうキャラのみなさんて、こんな時、学校来るの?

 や、仮に来てたとして……どこでなにしてるもんなの?

 教室?

 どっかの部室?

 食堂?

 廊下?

 ヤバい。

 これ、カリスマDKのオレには、わかんない案件だ。

 あ、つまりアレか?

 オレが、授業以外じゃあんま行かないところを探せばいい……のか?

 ってことは……どこだ?

 まず、理科室。それにパソコン室。あと職員室に……生徒会室!

 理科室は……ないな。あそこは放課後、陽キャがイチャイチャするために利用されていることが多い。今日もその可能性は高いだろう。翔あたりが、彼女を連れ込んでそうだし。

 パソコン室は……どうだ?

 いや、ないか。こんな時に学校に来てパソコン使うくらいなら、自宅に引きこもると思う。快適に、制限なく、端末やネットが使えるし。

 職員室は……保留で。先生たちも何人か来てるし。

 となるとまずは……生徒会室か。超エリート校のなかでも、生徒会のメンバーは優秀で。特に今のメンバーは、小・中・高の児童会と生徒会でズッ友状態だったハズ。

「あ、やっと見つけた! 大地君どこ行くの? もし暇なら―――」

「―――⁉ わ、悪い! 今は無理!」

 クソっ!

 せっかくのお誘いを断り続けてる件について!

 最後にオレとしてみたいってお誘いが……男女問わず寄せられてるのにぃぃぃぃ。湯水のごとく湧いてくる脱DTの貴重な機会を……全スルー必須、だと? 今きっとオレ、全人類に三度だけ平等にもたらされるとされる希望に満ちたラッキータイム―――モテ期! それに違いないんだよぉぉぉぉ!

 てかさっさと出て来いよゲージ保持者! 地球滅亡危機のどさくさに紛れて大賢者ルート回避したいんだよオレは! 今なら……今ならできるんだよ! 「あ、地球滅亡危機のせいでいつもよりちょっと早かったかも!」とか、「緊張していつもより余裕なかったから動きがぎこちなかったごめんね?」とか! いろんな意味不明な言い訳がゴリ押しできる脱DT者偽装可能な超絶フィーバータイムなんだよぉぉぉぉぉ!

「よぅキング! なに難しい顔してるんだ?」

「あぁ、翔か。ちょっとの民間信仰の真偽について考えてた」

 やっぱり来てたか。

 それにしても、危なかった。心の乱れが言葉に出る寸前だったし。

「民間信仰の真偽っておま……はぁ~。キングはどこまでいってもキングだな……」

「ほっとけ。てか沙弥佳ちゃんは?」

「ムフフ……あっちで寝てる。ちょっと飲み物買いに行こうと思ってさ」

「……ちゃんと避妊しろよ?」

「わ、わかってるって……うん……うん。感謝してる。マジで」

 や、オレへの感謝とかどうでもいいからな?

 避妊、ちゃんとしてるのか?

 本当なんだろうな?

 大事なことだぞ?

 ワンチャン、地球崩壊しないかもしんないんだからな?

「ま、まぁいいじゃん、俺のことはさ! てかどんな民間信仰?」

「……あぁ。人々の平等に関する伝承さ」

「平等ってお前……すげぇなぁ。地球が滅ぼうって時によ」

「ま、それほどでもないさ」

 脱DTした者には理解できまい。

 隙あらばどんな時もそちら側に行きたいと願い考える純粋なエネルギーを生み出すオレらは、ある意味……永久機関なんだぜ? オレの悶々は年中無休二十四時間営業なのさ!

「で、速足(はやあし)でどこ行くの?」

「生徒会室。ちょっと野暮用でな」

「げぇ……マジかよ。よりによって……生徒会室かよ」

「ん? 翔……なんか知ってんの?」

「知ってるっつーか……朝、見ちまったんだよなぁ」

「見たって……何を?」

「そのさ……ズルズルとさ、生徒会長を引きずる副会長を……」

「……マジで?」

「おぅ。目が合ったけどスルーした。全力で。マジ怖かったし……」

 生徒会長って、三年の真面目眼鏡さん(男)だよな。名前は、立花(たちばな)(あゆむ)

 で、副会長は確か……美人眼鏡さん(女)。名前は、神林(かんばやし)愛。

 つまり……男の生徒会長を、女の副会長が生徒会室に連れ込んだと?

 い、いかん。

 犯罪の匂いがする!

 これは至急、生徒会長の救援に向かわないと!

 決して、お楽しみの邪魔をしたいわけじゃないことをここに誓おうじゃないかっ!

「俺も一緒に行こうか?」

「いや、大丈夫。いいから沙弥佳ちゃんと過ごせよ」

 とたんに破顔した親友からの不意打ちの脳筋ハグに、脳筋ハグで返して。

 ニシシっと笑いながら交わしたハイタッチは……なんとなく今生の別れっぽい切なさがあって……。少しだけ、互いの心が揺れる。切なげに細められた瞳が……微かに潤んで……オレら言葉にならない気持ちを全部……シェアしてくれた。

「じゃ……またな!」

「あぁ。またな!」

 ……うん。

 また会おう。

 きっと、普通なら卒業式で交わすはずの約束。

 涙を堪えながら交わすはずの約束。

 うん。

 悪くない……。

 でも、口約束で終わらせる気はねぇ。また会って、ノリよく気分よく挨拶して……翔とバカ話できたら最高だし。

 うん。そのためにも救わないと。

 地球を。




+++




 …………ってことで、北校舎三階奥。

 私学で金がありますって自己紹介してるような重厚な扉。

 ここが……生徒会室。

 ひょっとしてマニアックなプレイで御取込み中かもしれないけど……。ここは、全力で阻止しなければ。

「すいませ~ん! 誰かいませんか~?」

 コンコンっとドアをノックしても……無反応か。

 ま、誰かいても返事はしないかも。

 え~っと……ドアは……開いてるな。

 よっしゃ!

 ここは前進あるのみ!

「失礼しま―――」

「―――あら? お客さまかしら?」

 いた!

 天災ゲージの保持者!

「まさかキング―――沢渡君がここに来るなんてね?」

 さすがアマテラ……見事な直感です。


 生徒副会長―――神林愛。

 災害レベルⅧ:巨大隕石の落下。

 解除条件1:生徒会長と書記を拘束して全裸にし、神林愛に差し出す。

 解除条件2:神林愛の作品―――立体アートを完成させる。

 解除条件3:神林愛の願いを叶える。


 ……そっか。

 ゲージ保持者の幸福欲求が、必ずしも善なるものであるとは限らない。

 つまりこの人……サイコよりの芸術家なのかも。だとしたらオレ、フラグ回収オツじゃん……。

「書記―――佐藤(さとう)唯人(ゆいと)をここに連れてくればいいんですね?」

「あら? さすが沢渡君……でも、よくわかったわね?」

「えぇ、これくらいなら朝飯前ですよ」

「それで……お願いできるのかしら?」

「はい」

 佐藤ならさっき、図書館で見かけた。友だちとカードゲームで盛り上がってたっけ。

「それで? 佐藤も生徒会長と同じように?」

「えぇ! そうなの! 佐藤君も拘束したいの! こんな感じでね?」

 一糸まとわぬ生徒会長が、涙を流しながら必死でなにかを訴えている。

 けど、口元を覆うテープのせいで話すことができない。

 てか―――体毛を剃られてるじゃん。

 美術のモデルさんって、そういうもんなのかもしれないけど……。

 ひょっとして解除条件2か? この立体アートって……ま、まさか……肉体をキャンバスにするつもり?

「先輩……。二人の肉体をキャンバスにして作品を生み出すつもりですか?」

「フフフフフフフ……だいたい正解よ? なんでわかったのかしら?」

「状況を見てピンときました。生徒会長は頭部以外の体毛が剃られてますし。机の上にはペンキ缶もありますし」

「あら? さすがね?」

 カンニングのおかげです。

 だって今、頭上に浮かんでますからね。

 副会長はサイコさんよりの芸術家って。

 成績優秀で眉目秀麗な名家のお嬢様をサイコさん呼ばわりするのは、普通ならアウトなんだろうけど。でも、この解除条件1を見れば、みんな納得するだろう……。全裸で拘束って……犯罪匂パない。

「協力する代わりに、ひとつ教えてくれませんか?」

「なにかしら?」

 もちろん、解除条件3。

 副会長が何を願っているのか……聞きださないと。

「副会長は今、何を願っているんです?」

「……それは、佐藤君を連れてきてからのお楽しみということで……どうでしょう?」

「わかりました」

 まぁ、仕方ないか。

 どうやら……二人を殺害する気はなさそうだし。だってもしそうなら、オレに協力を頼んだりしないだろうから。


 それからオレは、図書室から佐藤を誘い出して。

 生徒会室に押し込んで。

 佐藤を誘惑して隙をついた副会長が、見事な拘束スキルを発揮している様を見学することになった。

「ん~、んん、ん~っ」

「すまん佐藤」

 オレは今、無力だ。

 地球を救うために……尊い犠牲になってくれ。





今日もありがとうございました!

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