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第4話:絶望のなかの太陽

 


 ―――絶望。

 まさにそう言っていい。

 人類が体験したことのない未曾有の出来事。

 巨大隕石の落下。

 パニックになるなとは、誰にも言えない。


 スマホやテレビといった情報端末は悲報で溢れた。

 恐竜絶滅の一因と考えれている巨大隕石の落下について報道を繰り返すメディア。

 隕石の落下時やその後の絶望的な災害について予想モデルを示す政府広報。

 落下地点に推定された国々から届く涙と祈りに満ちたSNS。


 そして市中は……絶望で満ちている。

 社会システムは混乱を極め、商店の多くは主無き空き家と化した。

 多くの人が仕事より家庭に身を置き、最後の時を静かに過ごそうとしている。

 一部稼働していた飛行機や船舶、電車といった交通網も、昨日の昼を最後に、すべての運行が停止した。

 そしてそれを(とが)める人はいない。

 誰にも、最後の時をどう過ごすかを選択する自由があるのだから。


 公表された隕石の落下時刻まで……残り二日半。


 ちなみにオレの家族は、出張に出てて。

 なんとか車を手に入れて、高速を使ってこちらに向かって移動を始めているらしい。

 隕石の落下前には自宅に辿り着けるだろうと、昨日、連絡があった。


 オレの記憶にある範囲で言えば、両親が仕事を放り投げたのは初めてのこと。

 まぁ、それもそうか。

 ほとんど誰も仕事をしていない。

 なにせ、座して最後の時を待つ以外の選択は、人々に残されていないのだから。


 しかし……何事にも例外はある。


 そう。

 アマテラだ。

 悲報と絶望のなかにあって、それでもアマテラの自信は揺るがない。

 いつも通り、桜餅をエンドレス摂取しておられる。

 いや、つくづく思ったね。

 こういう時、巨大な自社工場を持つ神は強い。現に、桜餅はアマテラに安定供給されているのだから。

 そしてオレも、桜餅の配給を受けている。

 ありがたい話だよ。まともに物が買えない状況だから。


「……モグモグ……それで? ゲージを持つ者は……モグ……見つからないのかい?……モグモグ」

「サッパリ。てか外に誰もいないし。さすがに一軒一軒、家の中に入り込むわけにもいかないし……八方ふさがり」

「なるほどね!」

 この二日、頑張ってみたけども。なにせ学校も臨時休校だし、外出してる人はいないし……。オレも、自信を無くして来た。今回は、ゲージの解除は難しいかもしれない……。それはつまり、地球が滅びの道を歩むということなわけで……。

 それでも、アマテラを見ると、なんていうかその……まだ可能性はあるって思えて。天災ゲージの所持者探しを、続けてこれた。

 なにせこんな時に……いや、こんな時だから改めて実感してるんだけど。アマテラって、マジで神なんだよ。

 だってここのところずっと、人間には理解できないメンタリティを発揮しておられる。

 この状況で、桜餅をモグモグ食べつつ鼻歌交じりでタブレットを操作するなんて……。

 オレにはできない。

 もしかして神様って、メンタリティがサイコさん寄りなの?

「……で、どうしたらいいと思う?」

「う~ん……ちょっと待つがいいさ! そろそろ届くと思うんだよねぇ」

「届く?」

「あぁ! 僕の知り合いの神がね、【世界〇見得】って便利な神権を持ってるんだよ」

「世界〇見得?」

「そうさ! かの神なら、その神権を使えば、この星の自然や生物をスキャンして……人々の願いを確認できるんじゃないかなぁって思ってさ!」

「マジか⁉ スゲーじゃんその神権! それ、アマテラは使えないの?」

「無理だよ? その神権は特定の神に付与された特殊な力だからね!」

「……なるほど」

 つまり、その神からメッセージが届くのを待つしかないと。

 あれ?

 アマテラが来たのって、とんでもなく遠い宇宙じゃなかったっけ?

「正確には別の宇宙だね!」

「善処、お願いします」

 今日もシレっとオレの心を読んでやがる……。

 それにしても、別の宇宙か。

 とんでもなく遠いってことは間違いないわけで。

 その情報って、隕石より早めに地球に届く?

 プライム的なレベルで速攻運送可能なの?

「お! 来た来た! さすがだね。僕が見込んだだけはあるよ!」

「マジで⁉ 知り合いの神超有能じゃん!」

「だろ? なにせ僕が見込んだ神だからね!」

 なぜにアマテラがドヤ顔を……。

「さっそくこれを見るがいいさ!」

 ……おぉ。

 スゲェ!

 アマテラの端末から光が放たれて……地球のプラモデルみたいなのが飛び出した。

 プカプカと空中に浮かぶミニチュアの地球は、妙にリアルで。宇宙から撮影した地球の3Dライブ配信動画を、視聴してる感じ。

「さ、リストを表示してやろう! これが今、地球の民が願ってることベスト5だ!」

「おぉ! 超便利機能じゃん!」

 アマテラじゃなくて、この有能な神が地球に来てくれたら良かったのに。

「ほぅ? 大地は僕に不満があるようだね?」

 善処!

 積極的に善処して!

「メッソーモゴザイマセン。偉大なるアマテラ様を敬愛しておりまするぅ~」

「ならばよし! 今はそれどころじゃないしね。見逃してやろうじゃないか! 寛大なこの僕が!」

「ありがとうございます偉大なるアマテラ様~」

 さてと。

 気を取り直して。

 どれどれ……問題のベスト5は……なんとも皮肉な結果じゃん。

「あぁ、僕もそう思うね」

 うん。

 やっぱしっくりくる。

 皮肉って表現が。

 ダントツのナンバーワンは……神よ我らを救い給え、だ。

 神の存在を科学的に否定しておきながら、自分たちの科学の力が及ばぬ大災害を前にして……地球の人々は、神に(すが)ってる。

「いくら祈ったとしても無駄なのにね」

「そうなの?」

「あぁ。願いを受け止めて奇跡を起こす神権を持つ存在―――神。その座はすべて空席。時すでに遅しってやつさ!」

「それって……やっぱ地球に神はいないってこと?」

「その通りさ! 君たちが否定し、追い出したからね」

「……そっか」

 身に覚えはある。

 地球人の一人として。

「さて人類の約80%……60億人の願いを叶えに行こうか」

「え?」

 それって?

「神さ! 仕方ないから僕が、この星の神の座に一時的に座ってやろうじゃないか!」

「……やめて差し上げて」

「ほぅ? 何か不満でも?」

「や、なんかとんでもないことになる気がするから」

 地上が桜餅工場まみれになる、とか。

 オレみたいにアマテラの神権に振り回される、とか。

 いや、なんかもっと、もっともっと、とんっでもなく事態が悪化する気配しかしない……。

「う~ん……それなら仕方ないね!」

「え? そうなの?」

「君が嫌な予感がするって言ったんだろ?」

「………ま、そうなんだけど」

 そういうもんなの?

「さてさてそうなると二番目は……なんとも切ないね」

「あぁ」

 楽に死にたい、か。

 でも、仕方ない。

 この絶望的な状況で……せめて安らかな死を願う気持ちは、よくわかる。

 オレだって、そうだったかも。

 もしアマテラがいなかったら……まだこの天災を防げる可能性があるって理解してなかったら……安らかな死を願ったかもしれない。

「三番目は……生き残りたい、だね」

「……あぁ」

 これも理解できる。

 例え世界が滅んで、絶望的な未来が訪れたとしても。

 なんとかして生き残ってやるって気持ちを持つ人も、一定数いるだろうな。

 世界は決して平等じゃない。莫大な権力や資産を持つ人たちは、地中深くのシェルターなんかに避難してるのかもしれない。

「四番目は……会いたい、だね」

「うん」

 オレも……会いたい。

 最後かもしれないって思ったら……色んな人の笑顔が胸に溢れて止まんなくなる。

 父さんと母さんに会いたい。

 翔やクラスの友達に会いたい……。

 お世話になった事務所の人にも会いたい。

 幼馴染とか、小学校の担任の先生とか、陸上のコーチとか。

 会いたい人がたくさんいる。

 そんでもう一度、思いっきり笑いあいたい……。

「最後は―――」

「―――時間を戻したい、か」

 これも、わかる。

 どうせ死ぬんなら……あの時、ああしてればよかった。そんな後悔が胸を独占しちゃうんだ。

 勇気を出して告ればよかった、とか。勇気を出して夢を追いかけてみればよかった、とか。あの時、我慢せずにラーメン食っとけばよかった、とか。海外旅行しときゃよかった、とか。

 大なり小なり、いろいろあるよなぁ。

 もちろん、オレにもあるし。

 大好きな人に、好きだって言えなくて。そのくせカッコつけて、友だちにその子を譲ったバカみたいな思い出が。

 あと、陸上の大会、決勝の前にもう一度スパイクの紐を締め直しときゃよかった、とか。中学の親友に、意地はらずちゃんとゴメンって言えばよかった……とか。

「クソっ……」

 カッコ悪ぃっ。オレ今………泣いてるよな?

 いつの間にか……震えてるじゃん。体が小さく揺れて……自分を抱きしめる手が冷てぇ……。

 そっか。

 オレ……怖いんだ。

 地球が滅びかけてるのが……怖い。

 もっと怖いのが……失敗。

 天災ゲージ。

 その解除条件を満たせなかったら……オレが地球を滅ぼしたことになる……。

 ヤベェ……逃げてぇ。

 今すぐ全っ部……放り出してぇ……。

「大地、安心するといい」

「―――っ」

 神社で見た妖艶な姿で……女神アマテラが……ふわりと抱きしめてくれる。

 あったかい……。それに……圧倒的安心感……。アマテラの優しくって柔らかい気配のするオーラが……・細胞の一つ一つに溶け込んで……心の闇が…………。

「君はこの偉大なる女神アマテラが見込んだ人間なんだぞ?」

「……うん」

「君は今、この瞬間……世界で唯一無二の存在なんだぞ?」

「……うん」

「沢渡大地よ。顔をあげよ」

 あぁ、間違いない。

 アマテラは……神だ。

 今、実感した。

 矮小なるオレが、神の言葉に逆らえるはずもない。

 この圧倒的な存在感は……まるで太陽。

 巨大で膨大なエネルギーの塊―――太陽に比べれば……オレなんて砂粒以下でしかない。

「二度は言わぬ。汝こそ今、全人類の希望なり。この星の命運を握る者なり。我―――太陽と宵闇を統べし偉大なる女神アマテラが命じる。汝の価値を示すがよい。我が神権はそれに応えるであろう」

 あぁ、ヤバい。

 なんだこれ……。

 太陽は今、砂粒を気にかけてくれてる。そう実感しただけで、魂が呼吸を取り戻したみたいだ。生きてる幸福感が全身を駆け巡って……まるで嵐のような強いエネルギーを、細胞の一つ一つが放ってる感覚。

 いや……歓喜の雄叫びを放ってる……。なにコレくっそヤベェ……! インハイで優勝した時の比じゃねぇ!

「わ、我が名は大地。沢渡大地。偉大なる女神よ。この星の生命体を代表し、オレがこの星の価値を示します。この星の生命体が有する真なる強さを捧げます。願わくばその姿を―――地球の民は誇り高く勇猛であったと、永久に語り継がれんことを(こいねが)います」

 たとえオレが失敗しても。人類は勇敢だった―――そう語りついで伝えてほしい。

「よかろう。沢渡大地―――汝の願い、このアマテラがしかと聞き届けた」

 アマテラの満足げな笑顔一つ。

 たったそれだけで……なんでもやったるって気になってる。オレって……チョロいのかも。

 けど、チョロくもなるよ。美の化身みたいな神が……オレだけを見て微笑んでくれたんだから。 

 でも、女神に他意はないはず。

 アマテラはきっと、鼓舞してくれたんだ。

 神として振る舞ってみせることで、偉大なる存在がオレに味方してくれてる。そう実感できるように……。

「マジでサンキューな!」

 うん。神が味方してくれてるって安心感パないっス!

「ならばよし!」

 まさに不敵。どこまでも自信たっぷりな女神の笑顔は、自然と瞳に焼き付いちゃうわけで。つい見とれちゃうのは仕方ないわけで……。

「で、どうするんだい?」

「……」

「大地?」

「あ、ゴメン。えっと、アレだアレ! つまりそのオレ、ゲ、ゲージだよゲージ! もう探すのやめる」

「ほぅ? つまり、なにか策があるんだね?」

「おぅ!」

 成功するか、ぶっちゃけわかんないけど。

 でも……うん。

 試してみる価値はあると思う。

 なにせ、オレの価値を示せばいいんだから。







今日もありがとうございました!

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