第1話:解除条件
「そこのお姉さん! ちょっといいですか?」
「は?」
ナンパはお断り。
そう表情筋で顔面に描きながら振り向いた女子大生っぽいお姉さん。
街灯で微かに照らされた顔は、メイクが決まっててとてもお綺麗だ。身体も、健康的に引き締まってるのが、服の上からでもわかる。
「すいません。お姉さんにちょっとお願いがあって……」
そう伝えながらマスクをズラして、自慢の笑顔をお姉さんに晒す。
「―――…え? マジで? マジでマジで?」
「はい。本人です」
「うっそ! 私マジで大ファンなんだけど! てかなに? え? ランニング中? え? これドッキリかなんか?」
「えっと……いつも応援ありがとうね。で、確かに今、ランニング中。あと、ドッキリを仕掛けてはないから安心して?」
オレがニシシっと微笑めば、一瞬でトマト色に。
多分、これはイケる。
「その、オレ……お姉さんにお願いがあって……大丈夫です?」
「も……もちろんよ」
「オレ最近、演技の練習中で……その、ハグを二分、してもいいですか?」
「え?」
「だからその……」
「ハグ万歳! むしろオナシャス!」
お姉さん、体育会系?
「じゃあ、ちょっと失礼して」
「―――はい!」
カウントダウン、開始。
包み込むようなハグですませたいのに……お姉さんの方からムギュっと来られると……腰をひちゃうんだけど。
てか心無し、お姉さんの呼吸が荒い。
ずっと……スハスハしていらっしゃる。
そう。
まるでダ●ソン。
ずっとスハスハしてオレの匂いを全て吸引する気かもしれない。
さすがにちょっと引くけど……仕方ない。
「ねぇお姉さん……」
「スハスハ……スハスハ……」
「あの、お姉さん?」
「スハスハ………スハスハ……スゥ~スゥ~スゥ~」
いや大丈夫?
吸うだけだと死んじゃうよ?
ちゃんと息吐いて?
「………スハスハ……スハスハ」
ったく。
仕方ない。
こういう時は耳元で……そっと囁くに限る。
意識的に、低めの声で。
「ねぇお姉さん?」
「……は、はい!」
「もう一つお願いがあって」
「……うん、いいよ?」
「やった! お姉さん優しい! あ、そうそう。お名前を教えてもらってもいいですか?」
「ゆ、唯です」
「ありがと。ねぇ唯さん……」
「……うん」
「ちょっと言いにくいんだけどさ……」
「……なんでも言って?」
綺麗な瞳が、ウルウルしてる。
うん、これなら大丈夫かも。
「お姉さんが一番恥ずかしいと思ってること……見せてくれない?」
「恥ずかしい……こと?」
「そ、恥ずかしいこと……オレに見せてよ」
「………ん、いいよ」
そっとお姉さんの頭上を見て、解除条件を再確認する。
今回、ゲージ横に示されている条件は二つ。
一つめが二分間のハグ。
二つめがお姉さんの恥ずかしいところを見る。
どうやらオレは今、両方の解除条件を満たしつつある。
つまり、地球は救われることになる。
オレこと―――沢渡大地の活躍によって。
――――――第1話:解除条件
「おはよー」
「はよっす~」
いつもなら心地よく聞こえる挨拶の声。
クラスメートの笑顔と歓声。
眠そうな欠伸。
しかし……今日のオレには全部、雑音でしかない。
昨夜の動揺がまだ沈静化してないから。
ぶっちゃけ……マジで焦った。
あんなキレイな感じのお姉さんが……まさか、あんなとこであんな激しいことをしようとするなんて……。
世の中の女子大生ってみんな、あんな感じなの?
違うよね?
いや、違うと信じたい。
いや、ぜっったいに違う! 違うはずだ!
「てか昨日の落雷ヤバくなかった?」
「そうそう! 停電とかマジ焦ったし」
「それそれ。スマホ充電切れかけて死ぬかと思ったし」
「それな!」
……クラスのみんな、ごめんな。
あぁ、認めよう。
ずり下ろされかけたズボンを握り締めながら、オレは全力でお姉さんから逃げたとも!
つまり解除条件を一つ、満たせなかったわけで。
結果……でっかい落雷勃発。
や、でもね……条件を一つは満たせた。
そう、ハグ。
ハグのおかげで、災害の規模は小さくなった。
つまりオレのおかげで、死者は出てない。
どっかの施設がたいへんな損害を被ったらしいけど……。
プラマイゼロってことにしようじゃないか。うん。
「てかみんな、ニュース観た? 落雷の瞬間映してたやつ!」
「や、見てない」
「マジでヤバかった! 俺、雷神様が降りてきたかと思ったし!」
「バッカだなー。神様なんているわけないじゃん。てか神とか信じてんの?」
「ち、ちげぇし! た、例えだよ例え! 今の時代に神なんて信じてるわけねぇし! な、なぁ! 沢渡もそうだろ?」
「は、はははは……そんなの当たり前だろ」
……クラスのみんな、ごめんなさい。
オレ今、嘘つきました。
てかみんな、知ってる?
オレは正直、知らなかった。
いや、先月までは、まったく信じてなかった。そう言った方がいいかも。
だって………バカげてるだろ?
あまりにもバカバカしすぎて、オレがバカにされるレベルだ。
もし、オレが神を信じてるなんて言ったら……クラスの奴らはケタケタ笑うだろう。
もし、オレが神を信じてるなんて言ったら……SNSはプチ炎上するだろう。
いや、過信じゃない。
プチ炎上する位には、オレにもファンがいるって自覚はある。
陸上短距離インハイ優勝者で世界大会入賞、モデルとして世界のティーン雑誌にチラホラ登場、有名私学の進学校に在籍する現役DK―――沢渡大地。
爽やかでスポーティな笑顔を評してメディアが勝手につけたあだ名は―――
「―――キング! さっきからなにボケっとしてんだ? 風邪か?」
そう。
キング。
全国に数多いるDK。
そのトップに君臨する王がオレ……らしい。
てかウケる。ネーミングのセンス絶望的すぎるだろ。
「や、大丈夫。ちょっと自問自答してただけ。心配ありがとうな」
「……ならいいけどさ。体調悪いなら早退しろよ?」
「おぅ! でもほんと、マジ大丈夫」
苦笑しながら伝えれば、ようやく安心したように笑ってくれた。
二年間同クラの林翔。
コイツは、本当にいい奴。
オレを堂々とキングイジリする数少ない親友の一人、だ。
「あ、チャイムか~。次は……え~っと……」
「翔の大好きなアレだぞ」
帰国子女の翔が大の苦手としているアレだ。
「はぁ~、マジか。よりによって現国かよぉ……。ま、ひと眠りタイム決定だな」
「なんだよ。また夜遊びか?」
「まぁな! ツレが寝かせてくれなくてさ……夜中まで頑張っちゃった」
「……あっそ。ノートは貸さないからな?」
「……キングまじ冷た厳しい。俺にも優しくしろよぉ~、たまにでいいからさぁ~」
「知らないのか? 厳しさが優しさだと教えるのも友の役割なんだぞ?」
「マジで? キングの愛が重すぎてつらい件について……ただし異論はない」
「なら現国も頑張れよ」
「おぅ!」
ケタケタと嬉しそうに笑いながら席に着いた翔の背中。
いや、正確には頭上。
そこに、オレには見える。
そして、オレにしか見えてない。
だって見えてたら、今ごろ大騒ぎになってるだろう。
翔本人も、クラスメートも、パニックを起こすと思う。
「……はぁ」
「どうしたの?」
「や、なんでもない。大丈夫。心配かけてごめんね?」
小さめの溜息とボヤキを察した吉田さん―――隣の女子に、笑顔とお礼を返して。
もう一度、翔の頭上を確認する。
オレにしか見えないソレを、オレは『天災ゲージ』と名付けた。
今回、赤いゲージは三メモリ分。
つまり、災害レベルⅢ。
どやら今回は、都市直下型地震―――震度六相当。
被災地は……オレの住んでるこの都市。
「……はぁ」
このまま……つまりゲージが三メモリ溜まった状態で放置すると、災害が起こる。
実際に、だ。
そして、親切なことに、ゲージの解除条件が記されている。
解除条件を満たせば、ゲージが霧散して、災害は発生しない。
この点は実証済み。
そして、今回の解除条件は―――
「―――無理ゲーだろ」
口の中でボソリと呟く。
解除条件1:林翔を脱童貞させろ
解除条件2:林翔にファーストキスを体験させろ
解除条件3:林翔の願いを叶えろ
てか翔のヤツ、童貞なんだよな。
それどころか、ファーストキスもまだみたいだし。
いっつもシモネタでヤリキャラっぽく振る舞ってるくせに。
確かアイツ、長年付き合ってる彼女がいたよな?
それも嘘か?
いやでもオレ、紹介されたことあったっけ。
名前は確か……沙弥佳ちゃん。
翔は沙弥佳ちゃんとピュアなお付き合いを続けてるってことか。
つまり翔のやつ、マジで大切にしてるんだな。
でも、それが恥ずかしくて嘘ついてるってことか。
………ま、翔に罪はない。
翔の気持ちはよくわかる。
DKにとってこの手の話題は見栄をはりたくなるもんだし。
ぶっちゃけオレもそうだし。
………全国に数多いるDKのキング。
だけどオレ、童貞だし。
それがバレたら、童貞キングってみんなにコソコソ囁かれて、気が付けばSNSが大炎上するのが目に見えてるし……。
「え~、それではこの作品の解釈について。いつものグループで議論しなさい」
クラスから、クスクスと笑いが起きる。
お決まりの活動を指示する教師が、ノールックで翔の頭に教科書を乗せたからだ。
クラスがおだやかな笑いにつつまれる中、オレひとりだけ取り残されたような気分になる。この苦笑も、おだやかな雰囲気も、いつも通りに進む授業も……あと三日。
ゲージの横に浮かぶカウントダウンのタイマーが、無情な未来に向かって時を進め続けてるせいだ。
オレは、この日常を守りたい。
なぜって、そこそこ気に入ってるんだよな。
クラスメートも、キングって今のポジションも。
この日常をできることならキープしたいんだけど……今回の解除条件ヤバすぎじゃね?
これ、やっぱムリゲーすぎるだろ……。
これまでの経験的に、解除条件を一つ満たせば、メモリがひとつ減る。昨日の落雷みたいに、一つメモリが減れば、災害のレベルが一つ下がる。つまり被害が小規模になるわけだ。
【解除条件1:林翔を脱童貞させろ】は……天に祈るしかない。すまん翔。キングにだって、できないことはある。
【解除条件2:林翔にファーストキスを体験させろ】は、いけるかもしれない。最悪、オレが奪えばいい。ノリで。罰ゲームかなんかの勢いで。ちなみにオレのファーストキスは、幼稚園のころ。美優ちゃんって押しの強い子に、強引に奪われた。ちなみに美優ちゃんは、翔の従妹だった件。
押し倒されて、マウント取られて。パニックになってるオレを襲ったぶちゅーって生あったかい感触にゾワゾワしたことを、今でも覚えてる。
……うん。ま、従妹の罪を翔に償ってもらうことにすればいいか。
【解除条件3:林翔の願いを叶えろ】に関しては、さっぱり意味不明。翔が大量殺人を願ったらどうなる? 翔が脱童貞を願ったらどうなる? 願いなら何でもいいのか? ジュース欲しいとかでもOK?
てかこの本人申告枠の解除条件が、いっつもやっかいなんだよなぁ。
昨日のお姉さんもそうだったし。一番恥ずかしいことが……まさかあんなことだなんて……。
いや、無理だろあんなこと、あんな場所で……できるわけないじゃん。
見つかったら社会的に死ぬね。
オレも、あのお姉さんも。
「あの……沢渡君?」
「あ、ゴメン。ちょっと考え事してた」
「おぃおぃおぃ~、しっかりしろよキング!」
「うっせ。寝てたヤツが言うんじゃねぇよ」
楽しそうに笑う翔。
その上に浮かぶゲージ。
こんなにデカデカと、自分は童貞ですって頭上に書いてあるのを知ったら……翔は悶絶死するかもしれない……。
「……じゃあ、沢渡君はどう思う?」
「ん? あぁ、オレはこの―――三十八ページの第二段落に、主人公の二面性を感じるんだよね。筆者はここで、穏やかな主人公が内面に秘めた怒りを表現してる。たった一行だけ。まるで読者にも、主人公の二面性を隠すようにね」
「………なるほどなぁ」
「さっすがキング」
翔、一生懸命書きこみしてるのは素晴らしいことだと思うけど。
その教科書、多分、先生のだぞ?
「じゃあ、この班はここを発表することにしようか?」
「賛成!」
よし。
オレの役目は終わった。
あとは班のメンバーが発表資料をまとめてくれるはず。
悪いが今のオレは、現国どころじゃない。
そう。小説の主人公が有してる二面性に注目してる場合じゃないんだよ。
翔の願いを叶える、そしてファーストキスを奪う。
せめてこの二つはクリアしておかないと。三日後、震度六相当の大地震がこの都市を襲ってしまうわけだから。
「ねぇ沢渡君」
「ん? どうしたの?」
「沢渡君、ひょっとして神様を信じてる?」
「……え? なんで? なんでそう思ったわけ?」
「えっとね……この主人公なんだけど……」
「うん」
「彼は、神様を信じて運命を受け入れようとしていたわけでしょ?」
「だと思うよ」
「でも、怒りのあまり神様に暴言を吐いた……沢渡君がさっき言ったように感情を一瞬、露わにしてね」
「……うん」
「そして、後半部分で、この時の暴言を……神様を信じなかった自分を恥じてもいる」
「……うん」
「いや、私、なんでこの部分に主人公の二面性を見出せなかったのかなぁって思っちゃって。で、考えてみたら、私はね、ちょっと主人公の気持ちが想像できてなかったんだなぁって思ったの。だって私、神様を信じてないから」
「……」
しまった。
てか吉田さん、ヤバい。鋭すぎる。
「それでね、沢渡君は神様を信じてるから……だから、主人公の気持ちを読み解けたんじゃないかなぁって思ったら、ちょっと気になっちゃって。ごめんね。変なこと聞いちゃったね」
「………すごいなぁ、吉田さん。でも、ちょっと深読みしすぎかな?」
「そうだぞ吉田! キングが神なんて信じてるわけねぇじゃん!」
「そうよ。だいたい、神の存在が科学的に否定された現代で……そんな旧時代の価値観を沢渡君が持ってるわけないでしょ?」
「そっか。うん……そうだよね。ゴメンね沢渡君」
「いや、気にしなくていいよ。むしろオレ、吉田さんのそういう一生けん命考えるとこ、素敵だなって思ってるし」
マジで。
マジで鋭すぎてビビったけども。
「「「……でたよ、口説キング」」」
「うっせ。そんなつもりじゃねぇよ」
苦笑しながら吉田さんを見ると、小さくゴメンねって口ずさんでて。
その仕草と表情が、すっげぇかわいー。
かわいーがかわいーことしてれば世界は平和のはず……なのに。
今のオレには、わかっちゃってる。
平和どころじゃない。
世界が、確実に滅亡に向かいつつある。
なぜ知ってるかって?
そう……そこが問題だ。
繰り返しになるけども……みんな知らないだろ?
オレは正直、知らなかった。
いや、先月までは、まったく信じてなかった。
この世界に、神様がいるなんて。
そう。
今も翔の上に浮かんでる天災ゲージ、そんでその解除条件。
これをオレに見せているのが神様なんだよ。
そしてその神様は今頃―――
『おぃ大地! 僕の桜餅はどこだい?』
『机の引き出し開けてみろ』
『グッジョブ!』
―――オレの部屋でくつろいでおられる。
ったく。
オレが学校にいる時はテレパシー禁止だって言っておいたのに。
まったく人の話を聞いてない。
この偉大なる女神。
その名も……アマテラ。
『大地! 僕のために桜餅を買って来てくれたまえ! 百個でいいよ!』
『……はいはい。仰せの通りに』
桜餅が好きで、気まぐれで怒りっぽい超絶美女。
ただし、オレにしか見えない。
いったい、なんの因果でオレに白羽の矢を立てたのか……さっぱり意味不明だ。
『それに今日は新刊が出る日だろ? 忘れずに頼むよ!』
『……承知です』
はぁ。
アマテラはこの星―――正確にはオレの部屋に降臨してから、ずっとこんな感じだ。
ちょっと想像してみてほしい。
ある朝、ちょっとムラムラしながら目が覚めたとしよう。そんな時、ベッドの上に寝そべって国民的バスケ漫画の完全版を読みふける美女がいたら……みんなどうする?
あぁ……オレは完全に夢だと思ったね。
寝起きに美女―――つまりこれはちょっとエッチな夢に違いないと思ったとも。
だから……そっと頬を撫でて。そっと髪を撫でて。
首を傾けてキスしようとしたら………桜餅がオレの顔面にめり込んだ件について。
窒息しそうになってようやく、夢じゃないってわかった件について。
わけのわからぬまま見知らぬ美女に早朝パン一土下座をかました件について。
勝手にオレの部屋に侵入した自分の罪は棚に上げた女神が、オレに謝罪を求めた件について。
結果、桜餅を大量に安定供給する罰が下された件について。
国民的バスケ漫画の完全版が消し炭なった件について。
しかも自分でやっておきながら腹を立てた女神の命令で完全版を買いなおすはめになった件について。
……………理不尽だ。
どう考えても、オレは悪くない。
『なんだい? 僕に逆らうのかい?』
『メッソーモゴザイマセン』
『ならばよし!』
ふぅ~。
てかオレの思考、プライバシー保護法の対象外状態なんだけど……。
これじゃちょっとエッチぃことも妄想できないし。
人前では言えない生理現象ネタも脳内ツイートできないし。
……はぁ。
地味にさ、ストレスとかさ、その色々と……溜まってるんだけどなぁ。
『あと紅茶! ダージリンが飲みたい!』
『合点承知です』
………それしてもなぜ、アマテラはここまで地球のことに詳しいのか。
オレも疑問に思った。
で、質問してみたわけだよ。
そしたらなんでも、アマテラは地球を救うためにわざわざ遠い宇宙の星から降臨されたとか。
その星では、地球の食文化、芸術、アニメや漫画なんかのサブカルが大人気らしい。
だから地球が滅んでは自分たちが困る―――ってことで、その星の神々を代表して地球にやってきたらしい。
まったくもって、自分本位な動機だ。
てかなんで、遠い宇宙の神界で地球の物が飲み食いできるの? 地球の漫画がタイムリーに読めるの? 劇場公開中の映画が観れるの? 神だから? 神ってそういうものなの?
『なぁ、アマテラ』
『………モグモグ……なんだい?』
『あの解除条件って、変更できないんだよな?』
『…モグモグ……無理だね! 僕がコントロールしてるわけじゃ………モグモグ……ない……モグモグ…からね!……モグモグ…』
『……了解です』
じゃあ誰だよ!
解除条件設定してるヤツ出て来いや!
てか毎回、思うんだけど?
天災と解除条件に因果関係ないよな?
なんなの?
翔が脱童貞したら地震が起きない理由はなんなの?
あれか?
翔が脱童貞したら、翔がハッピーになり、翔がハッピーになると社会全体が幸福になり、その幸福が神様の力になって、その力で地震を解消してくれるってことか?
いや、無理がある!
てか我ながら超論理すぎるだろ!
「うふふ。遠い目をしてる沢渡君も……ス・テ・キ!」
「……どうも」
翔……オレに投げキスしてからかってる暇があるなら、さっさとどっかで童貞捨ててこい!
この都市を救うために!
いや日本を救うために!
「あ~、現国だるぃ。彼女とイチャイチャしたい……激しめにラブラブしたいなぁ~……ムフフフフ」
黙れ童貞。
ま、オレもだけど。
しかし……今、重要なのはそこではない。
「なぁ翔」
「うぃ~、なになに?」
「今日帰り、ちょっと付き合えよ」
「ん? いいけど……どうした?」
「部活休みだし。なんか無性にジャンクフードが食いたくてさぁ」
「いいぜ! 彼女も今日バイトでさぁ、俺もちょうど暇してるし」
「じゃあ決まりで」
「おぅ! てかキングとデートだなんて……翔、幸せすぎて死んじゃうかも?」
「はいはいオレも。翔を独占できて……幸せだよ?」
「……そこの二人。盛り上がってるとこ悪いが……放課後デートの前に職人室に来なさい。理由はわかるな?」
「「……すいません」」
クスクスっと笑いが溢れるクラスのなかで、なぜかドヤ顔の翔。
でもまぁ、親友の陽キャっぷりに、心が軽くなる。
今回もきっと、なんとかなるかもしれない。
ま、ポジティブ思考は大事だし。
そのためにも今日、飯を食いながら聞きださないと。
もちろん、解除条件その3について。
翔の願いを明らかにして、叶えられそうかどうか判断しないといけない。
た、頼むから。
脱童貞より難易度低めで頼むぞ?
…………信じてるからな?
ご覧いただきありがとうございました!
本作に登場している女神アマテラさんは、拙稿異世界もの『マッチポンプ』シリーズからの登板です。そちらもあわせてお楽しみいただけましたら幸いです!