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フォルテとアンダンテ  作者: ぱとす
1/5

王様と側近の会議



挿絵(By みてみん)



とある国がありました。


大国というほどでもなく、かといってそんなに小さくもなく、土地はそこそこに肥えて作物も良く育ち、牧畜も盛んです。特に、葡萄がよく収穫されるのが特徴という程度の、平凡な国です。

東西に流れる川があり、小さいけど綺麗なお城は美しい湖に囲まれていました。


この国の王様には二人の息子がいました。


兄の名前はフォルテといい、王様の寵愛を特に受けていました。何故なら、とにかく勉強が良く出来たからです。見かけもキチッとした黒髪で背も高く、立ち振舞いも実にはきはきして、見ていて気持ち良くなる様な青年で、早くから政治や経済に関心を持ち、時には王様の側近を驚かせるほど知識が豊富でした。そしてまた民への気配りも抜かりなく、国民は未来の王様として大きな期待を寄せていました。

弟のアンダンテはまるで兄に似ていませんでした。髪の毛は見事な金髪。薔薇さえ霞むほどの美貌の持ち主で、いつも複数の女性と浮名を流し、帝都に出かけては悪い友人と酒を飲み、好きな観劇に夢中になる怠け者でした。もちろん勉強は大嫌いで、教師を見れば難癖をつけて追い返し、いつも気怠そうにしていて、暇があれば寝てばかりいました。ただひとつ、本を読むのだけは大好きでした。ただし、政治や経済の本ではなく、龍を退治する勇者の話とか石の室の中に眠る財宝を探し出すような、そんな他愛もない物語が大好きでした。


ある日、王様は大臣や側近を集めて会議をしました。


「皆に集まって貰ったのは他でもない。フォルテとアンダンテのことだ。知っての通り、あのふたりは儂の側室の中の二人が同じ日に生んだ息子たちだ」

大臣も側近も表情を曇らせました。いつかこの日がやって来ると覚悟していたからです。

この国は他に貴族や縁戚というものがなかったので、代々王様は跡継ぎを絶やさぬよう、側室を持って王妃を置かず、王家の血が絶えぬようにしておりました。少々変わっているようですが、この付近の国では珍しいことではなかったのです。


「儂は昔から体が弱い。死ぬ気はないが、王家の血筋を正しく残すことが使命じゃ。二人とも来月には成人する。それまでに跡継ぎを決めておきたい」

大臣たちは一様に、何をいまさら、という顔を見合わせました。

農業大臣が言いました。「恐れながら王様、それは談義をするまでも無い話。フォルテ様に決まっております」

治水大臣が言いました。「フォルテ様はまさに国王になるために生まれてきたお方です」

ところが王様は手をかざし皆を鎮めました。


「それは解る。しかしじゃ。儂としては遺恨を残さない何か公平な競争をもってして両者が納得がゆく方法はないかと諸君に問うておるのじゃ」

大臣も側近も、戸惑いながらも確かにその通りだと頷いき合いました。そうだ、遺恨を残してはならない。この国の泰平を願うなら当然のことだと納得しました。


経済大臣が言いました。「政治と経済の試験をしたらどうでしょう」

法務大臣が言いました。「それではあまりにもアンダンテ様が不利なのは明白。納得しないでしょう」

そうだそうだと各大臣は言いました。

農業大臣が言いました。「それではどれほど国土のことを知っているか試験すればどうでしょう」

治安大臣が言いました。「それもまたフォルテ様があまりに有利なのは明白。解決にならないでしょう」

大臣たちは一様に頭を抱えました。


「では、どうすれば良いのでしょう」

そこで、いままでずっと黙っていた商業大臣が言いました。


「では、この国がこれからどうすれば豊かになれるか、より幸福に暮らすにはどうしたらいいか、考えさせ、開陳させるというのはどうでしょう。民の幸せを考えるのなら、それが一番よろしいのでは」

一同は声を揃えて、おおと、どよめきました。


「それなら不公平ではない」

「おお、それならアンダンテ様も納得されることだろう。素晴らしい思いつきだ」

王様もこれには満足そうに手を組みました。


「では、この旨を息子たちに伝えよ。次の満月の夜が息子たちが成人する日。宴を開き順に語らせようぞ。商業大臣、見事であった」


こうして会議は終わりました。


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