プロローグ
「早く逃げて!!」
僕はおばあちゃんに手を引っ張られながら人を掻き分けどこに行くのか道を走り続けている。
『なんで……なんで……お父さん。お母さん……なんで助けに来てくれないの……』
辺りはいったい焼け野原となっており、なにかが焼ける匂いが僕の鼻を刺激する。家は壊されており、美味しそうに実った作物は焼かれている。どこかへ走る村の人々。泣き叫ぶ子供。逃げ惑う家畜。そして僕の前には、黒焦げになった先程まで僕の手を引っ張っていたおばあちゃん……。
僕はおばあちゃんの形をした肉の塊に躓き転んでしまった。脚から血が流れている。その血が自分の血なのかそれともおばあちゃんの血なのかわからなかった。
『痛い……なんで……どうして……どうして…助けに来ないんだ!!』
僕は舌唇を思いっきり噛んだ。何度も、何度も僕は噛み続け、口の中に血の独特な味が広がる。
『僕はまだ生きているようだ』
両手を前に突出しなんとか立ち上がるが、どこに行けばいいのかわからずその場から動けなかった。今自分がどこにいるのかすらもわからないこの状況。振り返っても自分が住んでいた家は見当たらなかった。
『僕は一人ぼっちだ……』
後ろの方からなにかの足音が聞こえる。遠くからしかし、微かに聴こえる足音は徐々に近づいてくる。
『僕はここで死ぬのか』
僕は自分の死を肌で感じた。目を閉じると世界は暗くなる。目を開けても世界は暗い。笑うしかなかった。
瞬間おばあちゃんの言葉を思い出す。
「早く逃げて!!」
僕は走り出した。一心不乱に走り出した。
『とにかく逃げなきゃ。いったいどこに?どこに逃げればいいんだ。右も左もわからないこの状況でどこに……いったいどこに』
「逃げればいいんだよぉぉーーー!!!!」
感情が声になり口から漏れ出した。視界がぼやけてくる。水中で目を開けたときのようだ。
『父さん……母さん……僕を……僕を助けてよ』
先程よりも足音が一歩一歩大きく早くなってくる。
『さっきの大声で場所がバレたのか……』
僕は黒煙で真っ暗になった空を見上げる。
『無理だよ……どこに行けっていうんだよ。おばあちゃん……ごめんね……』
最後に思い浮かんだのは今まで僕を育ててくれたおばあちゃんの優しい笑顔だった。
手を伸ばせば届きそうなその笑顔に僕は笑顔を作り手を伸ばす。意識が遠のく中、人間の話声が聞こえた。
「こいつがあの勇者たちの息子か。手こずらせやがって」
僕の視界が右に傾いた。痛みを感じないが蹴られたのだろう。
『こいつらが……こいつらが僕の村を……』
そこで僕の意識がなくなった。
一つの小さい灯はろうそくの火のように消えた。