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 祓魔局の退魔師である南郷虎徹は、まさに闘争心の塊のような男だった。

「無茶苦茶言うなよ。大体、俺達が戦う理由なんかないだろ」

「理由か……。んなら、魔斬りみたいな小刀なんぞが糞の役にも立たんことを俺が証明したるわ。そんなもんは妖魔と戦う武器やない、ただ使て自己満足したいがための飾りもんやってな」

 お気に入りの刃を貶され、泰明の目の色が変わる。

「それは聞き捨てならないな。これは大事にしてるものなんだ」

「大事かどうかは戦いに関係ない。要は武器として優れとるかっちゅーことや」

「じゃあ俺は、魔斬りが武器として優れてるってことを証明するよ」

 泰明も腰を落とし、魔斬りを逆手に構える。その刃に青き稲妻が宿る。闘争心剥き出しの南郷とは対照的に、泰明は闘気も感情も感じさせなかった。放たれるは静寂のみだ。

 しかし南郷は、その身のうちに秘めている闘志を見抜いているかのようにニヤッと笑う。

「へへっ、そうこんとな。行くぞ火之迦具土!」

 ボッと音を立てて剣の刃に炎が走る。

「ちょっ、ちょっと二人ともっ」

 武器を使った大きな喧嘩が始まりそうで、沙良が慌てて声をかける。だが二人には届いていない。仕方なく麗月に目を向けてみるも、彼女も呆れたような大きな溜め息を漏らしていた。

「また始まった……。まったく、男同士っていうのはわからないわね……」

「……お、男同士……!?」

 沙良は、ニコニコといつも笑顔の男子と、筋肉質な体付きの野性的な男子を見比べる。そして、きゃあ、と黄色い悲鳴を上げそうになった。その取り合わせは、沙良の頭の中では〝あり〟だった。

「魔斬りもろともお前をぎったんぎったんにしたるわ!」

「そうはさせるかっ」

 泰明と南郷が同時に地を蹴る。一瞬で互いの間合いを詰める。

「おるぅらあああああッ!!」

 南郷が裂帛の気合いを込めて上段から剣を思い切り振り下ろす。力に任せた凄まじく重い一撃は空を裂き、泰明の脳天へと迫る。だが、彼らしい真っ直ぐな剣筋はとても読まれやすい。当然のようにそれを予想していた泰明は、剣先の寸前でぴたりと足を止め、南郷の攻撃をやり過ごす。その瞬間に南郷の懐に潜り込む。踏み込んだ勢いを利用して逆手に握った魔斬りを押し出すように刃を走らせた。

「せやろうな。お前やったらそう来ると思ったわ!」

 相手の動きを予測していたのは泰明だけではなく、南郷もまた、泰明の回避行動と攻撃を読んでいた。南郷は泰明の刃に対処するべく、これまた力ずくで振り下ろそうとしていた剣を止める。そこから足を踏み出し、低いところから目にも止まらぬ速度の突きを繰り出していた。

 重力を無視したような強引さと身体に相当な負担をかける無茶苦茶な対処法だが、それでもなお、南郷の動きは常人など遙かに超える、泰明がそのまま斬り込むことのできない常識外れの速さだった。

「く……ッ!?」

 泰明は斬り付けようとしていた稲妻の刀を南郷の刃にガキッとぶつけ、咄嗟に剣の軌道を逸らす。しかしそれでも迫り来る剣先を逸らしきれず、身体も捻って半身になりながら避けた。

 その次には泰明の魔斬りが弾き飛ばされる。泰明達の後ろにいた沙良のすぐそばの地面に突き刺さり、まとっていた雷は消えてしまった。

「これ……っ、何……!? すごい……!」

 目が慣れたとはいえ一部始終が見えたわけではないが、青と橙の刃の攻防を目の当たりにした沙良は驚愕しつつも感嘆の声を上げた。南郷の攻撃は本当に人間離れしていたが、それへの泰明の対処もまた、人間業とは思えなかった。攻撃態勢から咄嗟に防御に切り替える反応速度と体捌き。そして、大剣という重量物の怒濤の勢いで打ち出された一撃を受け流し続ければ、魔斬りを砕かれ、手にもダメージを負うことを察知して、途中で自ら手放すという判断。もし魔斬りを放さず粘っていたなら、武器を破壊された挙げ句に手を使用不能にされ、かつ次に来る南郷の攻撃で泰明は絶命していた可能性が高いのだ。

 一方の南郷も、泰明がそこまで想定しているであろうことを予想し、たとえ素手であっても何かを仕掛けてくるかもしれないという懸念から、それ以上剣を振るおうとはしなかった。

 それらすべてをまばたきの速度よりも速くこなしているのだから、二人はもはや人間ではなく妖魔に近いのではないかと沙良には思えた。

「ふぅ……手が痺れた。前にも増して重くなってるな。今のはヤバかったよ。祓魔の炎と闘争心を一気に爆発させて、虎のような敏捷な動きで敵を薙ぎ倒す——爆虎ばくこ、か。異名にも負けない攻撃だったな」

 泰明が魔斬りを握っていた手を振っている。

「へん。お前こそ相変わらず小細工だけはいっちょまえやな。けどな、魔斬りなんぞでは改造火之迦具土と勝負にもならんのがはっきりしたやろ」

「そうだな、はっきりしたよ。俺は知らないうちにお前を侮ってたってことが」

 暗がりの中だったが、泰明がニヤッと不敵に笑ったのを沙良は目撃した。いつもニコニコはしているものの、こんな風に奇妙に顔を歪めるのを見るのは初めてのことだ。泰明は南郷とのこの、少しでも間違えれば命さえ落としかねないやりとりを楽しんでいるのだと、沙良には感じられた。自分よりも遙かに腕の立つ者としか稽古をしたことがない沙良だが、実力の拮抗した者同士で手合わせをするのが楽しいという気持ちがなんとなくだがわかる気がする。同時に、そんな相手がいることを羨ましく思った。

「自分が知らんうちとかアホか! 自分のことがわかっとらんちゅーことはまるっきり修行不足やんけ! やっぱさっきので決めてまうべきやったかくそっ、期待して損したわ」

「がっかりさせたなら謝る。でもここからは期待が後悔に変わるかもな」

「言うてくれるやないか。けどそうこんとな。お前のやる気引き出すんにわざわざ気ぃ使たんやからな」

 南郷の言うように、戦闘意欲を剥き出しにしている泰明もまた、沙良は初めて見た。戦いのさなか、いつもの冷静な泰明なら、こんなにも饒舌に語ることはない。そして武器を飛ばされた時点で戦いを終えているに違いない。それが相手を挑発するような物言いまでするということは、彼も熱くなっている証拠だろう。

「——麗月っ」

 泰明が主として、従者を喚ぶ。

「こんな若造に我が肢体を見せるのはしゃくだけど、主の命なら仕方ないわね」

 泰明が差し出した手の平に、麗月が白い手を重ねる。

「喚びかけに応じ、我はこの身を、主に捧げるわ」

 麗月の目が再び赤々と輝く。そのすぐあと、彼女の肢体が急激にぼやけ始めた。実体が解け、霊体へと変わる。その存在がどんどん希薄になり、肉体が透明になる。身体がほぼ透過してしまった麗月の中に、銀色に輝く粒状の光が無数に浮いていた。

「斬月」

 泰明が真名まなを言い放つ。

 麗月とは、泰明が与えた仮の名で、麗月の真の名は〝斬月〟という。これはヨロヅセナノと戦った折りに麗月自身が口にしていたことだった。

 泰明の放った言霊に誘われるかのように、麗月の体内にあった銀の光が泰明の手の中に集まる。繊維のように複雑に絡み合い、収束し、まるで空を泳ぐように細長く伸びていく。

 銀光の束が幾重にも編み上げられ、やがて、刃となる。むねができ、しのぎができ、刃ができ、独特の反りが生まれ、切っ先ができあがる。

 刀が形作られる。

「顕現!」

 泰明がもう一度、強い言霊を紡ぎ出した。

 ぼんやりしていた銀色の刀が、今度は炉から取り出されが如き赤、いや、もっと禍々しい鈍くくすんだ赤色となって実体化していく。それは、柄、鍔、刀身に至り、刃の切っ先をも飲み込んだ。

 泰明の手に、一振りの打刀うちがたなが握られていた。

 その刃には、一般には目にすることのない奇妙であり得ない特徴があった。

 抜き身が、鈍い赤色に、光っているのだ。まるで血でも塗り込んであるかのように。刀に意思があり、自ら警戒色を放っているが如く。朧気に、朱に、発光していた。

 いつも麗月が使っているものとはまるで雰囲気が違う。静の内に熱い血汐を湛えているかのような刀だった。

 その脅威さえ感じる武器を手にする泰明もまた、凄まじい力を内包しているかのように、目には見えないオーラのようなものをまとっているように見えた。

どうも、Mt.バードです。

ステーキ店のテイクアウトをしようと思ったんですけど、食欲がそそられませんでした。

やっぱりあの熱々の鉄板の上でじゅーじゅーいってるやつが食べたいですね。

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