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 明くる日の休日。

 沙良は昼間に刀剣販売店〝鬼退治〟のドアをくぐっていた。

 目的はもちろん、昨日川越に依頼されていた事件と麗月のこと、その関連を泰明に問いただすためだ。もやもやと心の中で巻いていた渦が一晩ですべて、沙良の好奇心へと変換されていた。

「またお前なの!? 家で一人腐ってなさいよっ」

 応対したのは麗月だった。千鶴が買い物に出かけているので店番を任されているのだ。

「店番もできない麗月ちゃんには言われたくないんだけど」

「なんですって!?」

「お客さんを無碍に扱うなんて、接客態度最悪じゃない」

「ふんっ、お前は客なんかじゃない! だから愛嬌を振りまく必要もないのよ! さっさと帰りなさいっ」

「何騒いでるんだ麗月」

 言い合いを聞きつけて奥から泰明が出てきた。

「獅童さん。いらっしゃい、丁度よかった」

 珍しく、というか初めて、泰明に歓迎される沙良。ここを訪れるときも学校で会うときも、あまりいい顔をされた記憶がない。表面的に見れば嫌われていると感じることもあるほどだ。

 今日の泰明の態度に沙良は目を丸くしていた。

「聞きたいことがあるんだ。あがってよ」

「あ? う、うん」

「主っ、なんでこんな疫病神を迎え入れるわけ!?」

「いいから。麗月もお茶いれるの手伝って」

「むむぅっ……」

 沙良を睨み付け、麗月は渋々泰明に従う。

 悔しがる麗月に勝ち誇ることもなく、沙良はまだ泰明に受け入れられたことに呆然としていた。

 誘われるままにあがると、本当にお茶とお茶菓子が出てきた。あったかい抹茶と冷やしたバウムクーヘンだ。

 バウムクーヘンはプレーンではなく、上に砂糖をかけて炙って焦がすキャラメリゼが施されている。食べるとまずキャラメリゼされた部分のぱりぱりとした食感が小気味よく、次にしっとりとしたバウムクーヘンと合わさる。

 それを楽しんでいる間にバウムクーヘンの控えめな甘さと、上部の焦がした砂糖は甘夏の風味なので、香ばしさと爽やかな甘みがとてもおいしい。そしてそれを、人肌よりも少しあったかい抹茶の仄かな苦みがいい具合に洗い流してくれる。

 この和と洋の組み合わせは危険だと沙良は感じていた。いくらでも食べてしまいそう。体重が気になる。それに現在、学校のお昼のお弁当でせっかく泰明の胃袋をつかんでいるのに、これでは沙良の方が餌付けされてしまいそうだった。

 いやそれより、泰明からの初めてのおもてなしに、沙良は少しの警戒感を抱いていた。甘いもので気を緩めておいてがぶりと噛み付くのかもしれないと。だから沙良は警戒していることを表に出さず、お茶とお菓子を出してくれたことにお礼を述べた。

「さっき私に聞きたいことがあるって言ってたけど、東光寺君が私に質問なんて珍しいね」

「それが昨日さ、叔父さんに何度も連絡したんだけどなかなかつながらなくってね」

 叔父さんという単語を耳にして沙良はピクリと身体を揺すった。警戒心が一気に解けて大好きな妄想が頭の中で膨らんでいく。

「川越さんが。うんうん、続けたまえ」

「つながっても忙しいって言って相手にされなくてさ」

「冷たくされたのね! なるほどなるほどっ」

 すでにここに来た目的も泰明への用心も忘れ去り、沙良は目をキラキラさせて乙女モードに入っていた。

「ときに冷たく突き放して思いを募らせる、なんて高等テクニック! 次に会ったときはお互いを求め合わずにはいられないようにし向けるなんてっ、くうぅぅ!」

 沙良は自らの身体を抱くようにして一人悶えていた。

 それを見た泰明が頭を抱える。

「だから言ったのよ。この小娘を相手にするとろくなことがないんだから。今すぐ捨ててきてあげるわっ」

 麗月が立ち上がる前に、泰明は自分の分のバウムクーヘンを沙良の前に置いた。

「これも食べていいから正気に戻って」

「BL話と甘いもので私が懐柔されると思ったら大間違いよ」

 言いながらも沙良はすでにもらったお菓子に手をつけていた。完全に、だるんだるんに気が緩み、懐柔されていた。

「昨日叔父さんがここに来た帰り際に、バラバラ殺人のこと言ってたよね。その事件の現場なんだけど、見に行ったりした?」

「うん、それなら行ったよ。二件とも」

「その事件の詳しいことが聞きたかったんだ」

 だから泰明は、何度も川越に連絡を取っていたのだ。

「二件とも、詳しく聞かせてくれないかな」

「東光寺君がそんなこと聞きたがるなんて、なんか気になることでもあるの?」

「今回起きてる事件は、別の二件のバラバラ殺人も含めて同じ妖魔の仕業かもしれないからだよ」

「同じ妖魔って……同一犯てこと!?」

 沙良は食べる手を止めて身を乗り出した。

「同一犯ってことは、昨日の事件も同じ妖魔がやったって考えてるわけね?」

「その可能性はあると思う」

 泰明が笑顔を消して頷く。沙良はその顔をまじまじと見つめた。

 昨日の事件。

 沙良は犯人の妖魔を見ていない。泰明さえもその姿を確認していない。麗月が、妖魔が殺した、と言っているだけだ。他に目撃者はいない。被害者は刃物のようなもので斬り裂かれて殺されており、麗月は戦闘の際、刀を用いる。さらに昨日の死体の第一発見者である麗月は、大量の返り血を浴びていた。

 これらの事柄だけを集めれば、真っ先に疑われるのは麗月になってしまう。

 しかも、麗月を疑ってしまう理由を、沙良は見てしまったのだ。

 それは、麗月が殺された人の血を啜っていたこと。

 そして、彼女の瞳が妖魔のように赤々と光っていたこと。

 もちろん、沙良とて麗月を疑いたくはない。沙良をいつも邪険にする麗月だが、なんだかんだと言いながらも危険から守ってくれている。だから目が妖魔と同じように赤く光るのは退魔師としての体質であり、身体についた血を一瞬で消してしまうのは退魔師の特殊能力である、そう思いたい。

 けれど、これだけ疑う余地が揃ってしまうと、疑念を消すことは難しい。

 それにもう一つ気になるのは、泰明が、同じ退魔師の組織である祓魔局から逃げている節があることだ。

 あの現場で祓魔局の人と会うと自分達が疑われてしまう、と泰明は言っていた。そこから想像すると、疑われるような理由が泰明か麗月にあるのかもしれない。それがもし麗月にあるのならば、泰明は麗月を庇っている可能性だって出てくる。いやいや、見た目と違ってあまり性格がいいとは言えない泰明だとしても、殺人を犯した者を庇うことはないだろう。それに昨日、刑事である叔父の川越には事件のことを連絡していた。庇うならそもそも警察に連絡など取らないはずだ。

 考えても考えても答えは出ず、結局昨晩沙良はほとんど眠れなかった。故に今日、それらの疑念を解消するためにここへやってきたのだった。

どうも、Mt.バードです。

評価をいただけますと、全裸土下座するくらい悦びます。

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