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「今日はありがとね東光寺君。ご飯までご馳走になっちゃって」

「気にしないでいいよ。母さんも喜んでたし」

「我は気にするわよ主。なんでこやつなんかを送り届けてやらなきゃならないのよっ」

「獅童さんが襲われたら、母さんも悲しむからだよ。そんな顔、麗月だって見たくないだろ?」

「……ふんだ。でも小娘がどうなっても我はしらないからっ。我はただ、主に従ってるだけなんだからね」

「ああ。それで充分だよ」

 泰明に頭を撫で撫でされた麗月が「はうっ」と声を上げてメロメロになってしまった。

 こういうときの麗月は年相応の女の子であり、とても可愛げがあるなと沙良は微笑ましくその光景を見守っていた。

「ちょっと小娘っ、人の顔見てニヤニヤするんじゃないわよ気持ち悪い! お前なんか、平八郎が言ってた妖魔にでも襲われて、解体されちゃえばいいのよっ」

 殺伐としたことを言う麗月をまた泰明が撫で撫でする。麗月はゴロゴロと喉を鳴らして喜ぶ小猫のようにふにゃふにゃになっていた。

 再び微笑みつつ、麗月の言葉で沙良は、近くの街で妖魔がうろついているのを思い出した。そして沙良はこれまで何度か妖魔絡みの事件に関わっているものの、その存在をあまりよく理解していないことに改めて気付いた。

「ねえ東光寺君、妖魔ってどういうものなの?」

「これ以上関わらないためにも、知らない方がいいと思うけど」

「もう充分関わってるわよ。私から積極的に、だけど」

 危険なのを承知であえて自分から首を突っ込んでいる自覚が、沙良にも一応はあった。

「でもさ、だからこそ知っときたいっていうか、ちょっとでも知識があった方が身を守るときに役立つかなと思って」

 無限の好奇心を動力源としている沙良に何を言っても無駄なことを、泰明は知っていた。だから諦めたように肩をすくめて語り始めた。

「日本を作ったって言われてる、神様に一番近い人の話は知ってる?」

「日本神話ね。日本創造のお話でしょ?」

「そう。その神様に近い人が、自分達が作った日本を支配しようとした。でもこれは神様の言葉に背くことだったんだ。だから天罰が下って地獄みたいなところに堕とされた。それを恨んだ神様に近い人が妖魔化して、そいつが怨念で次々に妖魔を作り出したって言われてるね」

 これは日本を創造したとされる神に最も近い人間、天津人の、伊佐兄妹の話であり、伊佐美姫のことをさしていた。

 泰明が神話を語っている間、麗月の態度が不自然なものとなっていた。動作一つ一つに艶があり余裕を感じさせる麗月が、どういうわけかそわそわとし、泰明の顔を盗み見ている。それは主に理不尽に叱られ、しゅんとしている子犬のようだった。

「そうやって妖魔が生まれたのね」

 大昔から人知を超える怪異というものの原因のほとんどに妖魔が関係している。泰明はそう続けた。妖魔化した伊佐美姫が今でも恨みを吐き出しているため、いくら退治しても妖魔の数は衰えることはなく、妖魔絡みの事件も減ることはないのだと。

「妖魔が人間を襲うのはなんでなの?」

「一つは人間への逆恨みだね」

 泰明からこぼれた言葉に、麗月がキュッと唇を噛んでいた。

「地下にあるって言われてる地獄のようなとこに堕とされたのは、そもそもは自分達が作った日本に人間が誕生したから、っていう逆恨み」

「うわ、ほんとに逆恨みだ。怖っ」

「神話は作り話だからね。話を盛り上げるためとか、語り継ぐのに都合がいいようにしてるんだと思う。だから俺は、信じてないんだ」

 先ほどまでとは打って変わり、麗月は僅かに微笑んでいた。それはいつもの妖艶なものとは違う、どこか安堵したような、優しげな微笑だった。

「でも、作り話じゃない事実の方で、人間を襲う理由がもう一つある」

「それって、血を吸うため?」

「全部がそうってわけじゃないけど、妖魔のほとんどが人間の血肉を糧にしてるからね」

 妖魔は人の血と肉を食らう怪物。龍のように巨大な蛇の妖魔、蟒蛇も、人を丸ごと食べていたことを沙良は思い出した。そして、自分が食べられそうになったことも。

 そんな怖い体験が頭の中を過ぎった瞬間だった。

どうも、Mt.バードです。

朝はご飯派です。

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