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028

 眼前にいたのは、髪の長い女だった。

 沙良の肢体を縛り付けているのはその女から伸びた髪の毛だったのだ。

 雨で煙っているせいか、女の身体は薄ぼんやりとしていた。

 髪は束となって沙良を縛り、リアルな感じがする。なのに、肉体はその存在が希薄であるかのように、透けて見えた。

 そして、目が爛々と、赤く輝いていた。前回の事件のときに見た、あの蟒蛇と同じ。警戒色が如く、禍々しい光を放って、沙良を睨んでいる。

 この女は妖魔だ。沙良はそう確信した。怖くて目を逸らしたいのに、首まで固定されてそれさえできない。強制的にその姿を目に刻み込まれる。

 そんなときふと、女の服装に目がいった。妖魔の女は、制服を着ていた。それも今朝見たものと同じ。ミイラが着ていたものと同じ制服だった。

「……隣町の学校の、生徒?」

「あなたは違うのね。でも同じかな? あなたからも命をもらうわね」

 女生徒とおぼしき妖魔は、沙良には理解できないことを言った。唯一わかったのは、自分が殺されそうだ、ということ。

 逃げなければ死んでしまう。

 本能がそう告げているのに、沙良がいくら藻掻こうとも逃れることはできない。まるでプールで溺れていたときのように。

 女生徒も、口の端を吊り上げて沙良を見ている。

 このままでは本当に殺される。この女は妖魔だ。蟒蛇と同じように、沙良を食べるのだろう。

 いや、泰明の店で麗月が言っていた。この妖魔は人の精気を吸い取るのだと。身体から必要な養分をすべて抜き取られ、体内から急速に乾燥してあのミイラとなるのだ。

 そんなものになりたくはないと、沙良は縛り付けられた手足に必死に力を込めた。けれど、身体はまったく動いてくれない。髪の毛は確かに束にはなっているものの、ちぎれる様子もない。それどころかギリリッと素肌に食い込み、自分の方が痛かった。ドクドクと脈打つ生きた極細の針金につながれているみたいだ。

「その子を放せ」

「東光寺君!」

 泰明と麗月が屋上へと上がってきた。泰明はまったく感情を表さない冷徹な目で、制服の妖魔を見据える。

「きぃぃぃぃ!! 邪魔しないで!」

 女生徒が突然ヒステリックに叫ぶ。

「私は元の身体に戻りたいだけ! この子の精気も吸えば早く戻れるのよ! だから邪魔しないで!」

「黙りなさい!」

 麗月が一喝する。

 女生徒の妖魔は驚愕してビクリと身体を震わせた。半透明な肉体がさらに希薄になったように見えた。

「精気を吸えば元に戻るって言ったわね。どこでそんな知識を得たのかはしらないけど、一度妖魔に堕ちたら、二度と人間には戻れないのよっ」

「な!? 何言ってるのよ!? そ、そそんなはずっ、ないわ!」

 女生徒は明らかに取り乱していた。声が震え、身体の色の濃淡が変化する。雨に溶けて消えそうになったり、また復活したり。心の揺れを表すかのように。妖魔なのに人と同じように心を持ち、混乱していた。

「だって見てよ! 髪の毛は元に戻ってるじゃない! 身体も同じように戻るわ! 私は人間よ!」

「人は自分の意思で髪の伸び縮みをコントロールできないし、髪で人を縛り上げたりもできない」

 感情のない声が女生徒にまで届く。

「君はもう、人間じゃない。ヨロヅセナノという妖魔だ」

 泰明の言葉は夜の闇を、雨を、妖魔の心さえも切り裂く、鋭くて冷たい氷の刃のようだった。その言霊で斬り付けられた女生徒は、今度こそ言葉を失った。

「ヨロヅセナノというのは、長い髪の女の姿で現れて、その髪の毛を伸ばして人の身体に巻き付かせて動きを封じる。それから、髪を人体に差し込んで精気を、つまり血を啜るんだ。君がそうやって自分の髪で人を捕まえて、血を吸い取ろうとしているのは、妖魔の能力だ。そして、妖魔の本能でもある」

 泰明は無感情な目を女生徒に向けている。怒りも、悲しみも、哀れみも、本当に何も感じさせない視線。

 女生徒はまるで金縛りにでも遭ったように動きが止まり、口を開けて意味のない呻きを漏らすだけになってしまった。

どうも、Mt.バードです。

煮物も好きで、毎日3食食べてました。

さすがに多いと思って、毎日2食に減らしました。

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