伝承
大昔から連綿と語り継がれてきた歴史の中に、日本の創設に関わる故事来歴が存在する。
それは多くの場合神話として口述、記述され、現在に至っても曲げられることなく、一般にも広く知れ渡っている。
その文書の一部に、日本創設に携わった、神に最も近い人──天津人の物語が記されている。
この国──日本は、天津人の手によって作られた。
天津人とは、神がいると言われている天上に住む、神に最も近い人のこと。
彼らの中に、伊佐舞彦、伊佐美姫という兄妹がいた。
神はこの二人に、葦原を作るよう命じた。葦原とは、今で言う日本のことである。
兄の伊佐舞彦と妹の伊佐美姫は互いに協力し合い、海という混沌を掻き混ぜ、まずは一つの島を作る。そこを拠点とし、二人は失敗を繰り返しながらいくつもの島々を生み出した。
これらが後に日本の国土となる。
伊佐兄妹は苦労の末に日本を作り上げたものの、それを自分達のものにすることはかなわなかった。
「葦原の大地に新たに誕生した人間の好きにさせよ」
神がそう言ったからである。
これに腹を立てたのが、強欲な妹、伊佐美姫。
伊佐美姫は、せっかく自分達が作り出した国土を、あとから生まれた、しかも下等な存在である人間などに譲り渡すことに、我慢ならなかった。
そして、強引に葦原を手に入れようと画策するのである。
だがその企てが、神の知るところとなる。
伊佐美姫に天罰が下った。
神によって、葦原よりもさらに地下にあると言われる世界、常世に堕とされたのだ。
伊佐舞彦は妹を不憫に思い、兄の責任において更正させようと、伊佐美姫を常世まで迎えに行く。
しかし伊佐美姫はすでに、神に最も近い人、天津人ではなくなっていた。神への復讐の鬼となっていた。怨念の塊と化していた。
妖魔と呼ばれる、災厄を生み出す化け物に変貌していたのである。
妹を連れ戻すどころか、妖魔に堕ちた伊佐美姫に襲われ追いかけられ、伊佐舞彦は命からがら天上に逃げ帰ることとなった。
以上のような一説が言い伝えられ、記され、現在でも神話として語られている。
この現代にも存在する、妖魔と呼ばれる災厄を生む怪異は、この神話が元であるとも言われている。
常世に堕ちた伊佐美姫は常世を支配し、その強い怨念から数多の妖魔を生み出し続けている、と。
古来より日本にて、鬼や妖怪変化の姿が目撃され、襲われるといった事件がなくならないのは、妖魔となった伊佐美姫がすべての元凶である、と伝えられているのである。
どうも、Mt.バードです。
今回は、閑話でした。
明日からは第二話を更新予定です。
どうぞ読んでやってくださいませ。




