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012

 泰明が塀を睨め付ける。それからおもむろにシャツの裾を捲った。

「……ナイフ!?」

 沙良の目に映ったのは、泰明のベルトに引っかけられたナイフの収まったホルダーだった。ナイフはホルダーにボタンで留められており、そのボタンに施された紋様にも沙良の瞳は惹き付けられた。

「五芒星……っ」

 沙良が口にしたとおり、ナイフホルダーのボタンには五芒星が刻まれていた。

 五芒星……おまじないだったか魔除けだったか、沙良はあの星形をつい最近目にしている。最近どころか今日だったような、などと考えていると、泰明がそのボタンに触れていた。

「魔斬り(まきり)──解放」

 泰明がそう唱えると、ボタンに彫られた五芒星に、ぼっと燃えるように青白い光が灯る。するとまるでボタンが弾けるようにして自動的に外れた。

 泰明は柄を掴みホルダーから引き抜く。

 それは刃長が15cmほどのナイフだった。いや、ナイフというより包丁に近いように沙良には見えた。多くの出刃包丁と同じで表面にしか刃がない片刃のナイフである。

「……東光寺君、そのナイフ……っ」

「ああ、これは、魔斬り。ほんとは漁師さんや猟師さんが使う小刀でね、和式ナイフって呼ばれてるものだよ。名前の魔斬りっていうのは、普通はカタカナで表記することが多いかな。他にも間切りとか魔切りって書き方をされるらしくてね。北海道のアイヌの人達に万能ナイフとして伝わってるものもマキリって言うん──」

「そんな雑学が聞きたいんじゃなくてっ」

「じゃあ鋼材の話の方がよかったかな?」

「使ってる材質なんてどうでもいいんだってば!」

 その魔斬りはなんのためのものなのか、それをどう使おうというのか、沙良はそういうことが聞きたいのだった。

 しかし、魔斬りのことを嬉々として語ろうとしていた泰明の顔は、すぐに冷たいくらいの真剣な表情へと変わる。

 それを見た沙良は、問いを投げることができなかった。

 泰明の手に収まった魔斬りは彼の今の心を反映でもするように、粘り着くような闇を鋭く切り裂いてぎらりと銀の光を放っていた。

「麗月、空間を斬り離せ」

「……ふんっ。小娘のために我が力を使うなんて気が進まないけど、主が言うなら仕方ない。しょうがないからやってあげるわよ」

 麗月が憎まれ口を漏らしながら、生白く細い腕を振り上げる。そこで手刀を作り、軽く振り下ろした。

「——絶!」

 麗月の発した力強い言霊とともに、辺りでぱきっと、ガラスが割れたような音が鳴る。

「……うッ!?」

 その瞬間、沙良は自分が今見ていた風景に違和感を覚え、口を塞ぐ。地震のように、不意に足下が……いや、身体の中身までぐちゃっと揺さぶられた気がして、吐き気が込み上げてきた。

「ふふん、気分が悪そうね小娘。お前には丁度いい薬よ、そこで悶えてるといいわ」

「ぐ……!? 何よ……どうなってるの!?」

「我らと蟒蛇、それからお前の姉がいる空間とを隔絶したのよ」

「……隔、絶……?」

 隔絶。つまり、今沙良達がいる空間——問題になっている屋敷全体と、その外側の一夏達がいる空間とを隔てた、ということだ。

「正確には、完全に隔ててるわけじゃないけどね。でもただの人間なら、こっちに入っては来れないわ。お前の姉もね。もちろん蟒蛇も、ここから外に出られなくしてやったわ。だから我に感謝しなさい」

 麗月が沙良の前で胸を反らした。

 蟒蛇さえも沙良達の側に取り込んで隔絶したため、怪物も一夏達には手を出せなくなった、ということのようである。

 漫画やアニメなどでよく見る、一種の結界のようなものかと、沙良は理解した。

 信じがたいことだが、沙良の目の前には、その隔絶されたという空間の継ぎ目が見えている。まるで、絵を真っ二つにして上下でほんの僅かにずらして貼り付けたような、世界というパズルからこの場所というピースだけがずれてしまったような、そんな光景が沙良の目に映っているのだ。

 これまで視覚で正常に捉えていたものが急にずれて歪んだため、自らの肉体まで揺れたと錯覚して、沙良は気分が悪くなったらしい。

 この空間の隔絶とは、一体どういうものなのだろう。それになぜ、麗月はこんな超常的な現象を起こせるのか。

 沙良がそう聞こうとする前に、着物の少女とその主は戦闘態勢に入っていた。

どうも、Mt.バードです。

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