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「どうしたんですか!?」

「……お姉ちゃん!?」

 一夏の怒鳴り声が沙良の耳に届く。遺体の捜索から一夏が戻ってきているのだ。

「こ、ここに立ってた同僚が消えました!」

「消えた!?」

「そこの塀に吸い込まれるみたいに……消えたんです!」

「今度は人が消えたのかよっ、くそ!」

 一夏の周りでも大勢が騒いでいる。野次馬整理をしていた警官が、塀である蟒蛇によって食われたのだ。おそらくこの警官も何かの拍子に蟒蛇を目撃してしまっていたのだろう。

「お姉ちゃんっ」

 沙良は駆け出そうとした。一夏に危険が迫っていることを伝えるために。でも思いとどまる。そんなことをしても一夏はこの現場を離れたりはしないからだ。蟒蛇のことを一夏に信じさせる手段も、沙良には思い付かない。でもこのままでいるわけにはいかない。放っておけば本当に一夏まで食い殺されてしまう。あの巨大なあぎとに呑み込まれてしまう。

「ご、ごめんなさい!」

 沙良は泰明に深くこうべを垂れていた。一夏が死ぬなどあってはならない。ましてやそれが自分のせいで命を落とすのはもってのほかだ。でも沙良には何もできない。それを悔しがっている場合でもない。なんとかしてくれそうな人に、頼るしかない。

「東光寺君が止めてくれたのに、それも振り切って、自分勝手に動き回ったことは反省する。だから、お姉ちゃんを助けてください!」

 沙良はもう一度深く腰を折っていた。

 泰明は振り返りもせず無言だったが、麗月は沙良を睨み付けた。

「ふんっ、自分で引き起こしたことなのに、他人に責任を取らせようとするなんてね。都合がよすぎじゃない?」

「私じゃなんの力にもなれない。でも東光寺君と麗月ちゃんならなんとかできるんじゃないの? ここに来たのは私を助けるためじゃなくて、この事件を解決するため、そうなんでしょ?」

「だったらなんだっていうのよ小娘。だからって、お前の姉をついでに助けてあげる義理なんてないんだけど」

「お願いします! 私にできることは、二人に頼むことだけだから! お姉ちゃんから危険を取り除いてもらえるなら、私にできることはなんでもします!」

 塀にぎらりと光る赤い目ができて、大きな口が開いて、それが一夏に襲いかかるのを想像すると、沙良はその場にうずくまってしまいそうになる。自分が襲われたときよりも怖い。一夏は今ここにいて、いつ襲われるかもしれない。守ってくれる人もいない。蟒蛇のような化け物が相手では、いくら武道に心得のある一夏でも勝ち目なんてないのだから。

「俺達に頼むってことは、それは〝依頼〟ってことでいいのかな?」

「……依頼?」

「そう、ビジネス。獅童さんから依頼料を貰って、俺達がお姉さんを助けるっていう仕事」

「い、依頼料って、いくら?」

「前金でまず100万円。今すぐ用意して」

「100万!? そんな大金今すぐになんて無理に決まってるじゃない!」

「なんでもするって言わなかった?」

「私にできることならって言ったでしょ!」

「そっか。じゃあ、獅童さん自身を要求しようか」

 泰明は沙良を見ないまま冷たく言い放った。

「わっ……私、自身……っ?」

 沙良はまだ何もされていないのに、咄嗟に自分の身体を守るように抱く。

「くっ、主は優しすぎるのよっ。そんなおなごなんかに気を遣って……どうして放っておけないの!?」

 沙良には、泰明の言葉は死神の囁きにしか聞こえなかった。だというのに、麗月は首を振って吐き捨てた。本気でヤキモチを妬いて、本気で悔しそうで、本気で怒っていた。

 しかし沙良には、麗月の態度などこれっぽっちも理解できない。

「な、何を……言ってるのよ?」

「獅童さんが俺の言うことをなんでも聞く、ってことを言ってるんだ。もちろんあらゆる意味でね」

「そんな……!?」

 沙良はまた一歩、後退る。

どうも、Mt.バードです。

土日祝日もなるべく更新しようと思います。

ぜひ読んでやってくださいませ。

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