夏のできごと
ゴツン、と鈍い音が部屋に響いた。
勝也の頭を直撃した灰皿は、若干勢いをなくしたものの、
そもそもの重量もあってか壁にぶち当たり、壁紙をはがしたあと、床にドスンと落ちた。
続いて、灰皿よりもっと重量のあるものが、床に崩れ落ちる。
ちょっと肌寒かったはずの部屋が、今では熱気に満ちている。
さっきまでは二人分、今では一人分の熱気。
頭の皮膚がえぐれ、少し割れたようで、
ドラマで見るより勢いよく血が噴き出し部屋を汚していく。
あれ、と思う。こんな簡単に踏み外せるものなのか、と。
荒くなっていた息を整えながら、勝也にゆっくり近づいていく。
うつ伏せに倒れた体に、顔は壁側を向いていて、こちらからでは表情が見えない。
窓から差し込む夕日に照らされ、血がぶどうジュースのようにきらきらしている。
血で足が汚れないよう注意しながら、顔が見える位置まで回り込み、
そこで息を飲む。
満面の笑みだった。
衝撃で目玉が少し飛び出たようで、異様な程目を見開き笑っている。
つくづくわからない男だ、とひとり呟いた。
急にのどの渇きを覚え、遺体に背を向けた瞬間、
「おれにもくれよ」
少し楽し気な色を含んだ声が、背後から飛んできた。