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Referendum -レファレンダム-

  古賀の提案通り十分の休憩になり、一清長官は真っ先に出た。古賀は総理執務室へと戻って来た。自分の椅子ではなく応接用のソファーに座り、執務室に入る前に秘書に頼んでおいた緑茶をゆっくりと飲む。

 「はあ」

 古賀は深々とため息をして天井を見上げる。

 どうして私ばかり、そう古賀は考えていた。

 七年前もいやいやながら総理となり翌年には憲法改正やオリンピックに国民年金受給額の更なる引き下げなど、様々な前政権から申し送られた厄介ごとを片付けなければいけなかった。

 だがそれらは十分に古賀で対処できる案件ばかりだった。 だがそんな全てが吹っ飛ぶくらいの嫌なお年玉が古賀に降りかかった。最初こそ停電だと思われ次にテロか北朝鮮や中国、ロシアからの攻撃だと考えられた。

 だが十秒、一分、十分経つごとに官邸へ上がってくる報告は予想外すぎるものばかりだった。

 多次元宇宙? 

 もう一つの地球?

 日本人以外の人間が消えた?

 他に国どころか陸地すらない?

 新たに島が出現した?

 新大陸?

 伝染病?

 ワクチン?

 どうして私が就任しては厄介ごとばかり起こるのだ?と古賀は先程より深々とため息をする。

 そんなとき執務机の電話が鳴り、古賀は気だるげに立ち上がり受話器を取った。

 「どうかしましたか」

 「佐紀防衛相がお見えですが?」

 電話の相手は扉一枚隔てた向こうにいる秘書からで、佐紀防衛相の訪問を知らせるものだった。古賀は思わず「追い返してください」と口から出かけたが、それを呑み込んで「入れてください」と変わりにいった。

 返事をして十秒も経たずに扉が開かれ佐紀防衛相が執務室に入ってきた。佐紀は古賀の姿を確認して綺麗なお辞儀をする。

 「休憩しているところ申し訳ありません」

 「かまいませんよ。どうぞ掛けてください」

 「ありがとうございます」

 佐紀はそういうと古賀の前へ座る。

 佐紀はとてもスタイルが良く魅力的であり、立ち振る舞いや言動も支持者たちがいうようにしっかりしているのは古賀も認めている。

 最初の七年前の第一次古賀内閣の際も佐紀は法務相として一年と短い間だが一緒に仕事をした。そして二次内閣でも周りの勧めもあって佐紀を防衛相に任命した。

 確かに誰もがいうように優秀で仕事は完璧に行うし機転も利く、一緒に仕事をして一次内閣も含めれば二年と少し。

 そして一緒に仕事をしてすぐにに佐紀の問題点を見つけた。それは勝気かちきな性格だ。男勝りおとこまさりとも言えるかもしれない。別段、勝気だの男勝りは佐紀に限った話ではなく女性議員にいえることだ。

 だが佐紀の場合は特定の相手になると、何が何でも勝ちたくなるところだ。

 そのため佐紀と仕事を少しでもした者はそのことを知っている。だが容姿が整ってるだけに起こっている時の怖さは尋常ではない程に怖い。そのため古賀はあまり佐紀と一対一で会いたくなかった。古賀はどちらかと言うと一清長官のように無言で圧力をかけてくる方が慣れている、だから佐紀のように言葉で圧力をかけて来る人間を好きではない。

 そしてその特定の相手というのは一清長官も入っている。恐らく休憩時間にわざわざ執務室に来たのも自分の主張を通すための事前工作の一つだろう。

 「ご用件は?まあ船にあった遺体のことでしょうが」

 「はい、その件で総理の考えをお聞きしたいので来ました」

 「一清長官のいうように我々にできる選択肢は限られます。提案通りに遺体を筑波に運び込む、または海上で時間をかけて研究する」

 「それか今日あったことをな・か・っ・た・こ・と・にするか」

 佐紀の言葉に古賀は首を振る。

 「それが最も愚策ですよ。

 SSTだけならばともかく今日の件には巡視船の乗組員、海上自衛隊のヘリや哨戒機のパイロットなど関係者が多すぎます。それこそなかったことにしようとするなら十年に野党政権のように国民から吊るされますよ。

 今度は文字通りにね」

 古賀のいう十年とは二〇一〇年に起きた尖閣諸島で発生した中国漁船と巡視船の衝突事故のことだ。

 その際の政権は事件のことをなかったことにしようとした、だが巡視船の乗員の一人が衝突の瞬間をネット上にアップし事件が公になった。

 今は国民の間で未だかつてない程に新大陸しいては日本の未来について議論がなされている。もちろん公務員も例外ではない、というより公務員の徴兵をしているため大多数の国民が公務員だが。

 「口封じをしようというなら間違いなく船のことは公になるでしょう」

 佐紀は自分から出した意見を実行した場合の結果をいう。 古賀はそれが分かっているのなら口に出すな、と言いたくなったが当たり障りのない返事をする。

 「ええ、そうなるでしょうね。少なくとも船に関しては国民に発表します。

 問題は陸に上げるか上げないか、これで来たのでしょう?」

 「はい」

 「あなたの考えはどちらですか?」

 「一清長官の考えは分かります、ですがまずは海上で遺体の調査をしてからでも遅くないと私は考えています」

 「つまり陸に上げること自体は反対ではない、と」

 「ええ、いずれにしろ陸にある研究機関での調査が必要でしょうから」

 「あなたの意見は分かりました。他にはありますか?」

 古賀のといに佐紀は首を振る。ちょうど会議の再開する時間だった。

  指令室は十分前までは胃酸の臭いと原型を止めていない食べ物から漂う臭いがしていた。だが清掃された指令室は元通りに綺麗になっている。

 まあここで数人が吐いたという事実は消せないが。

 出席者が全員揃ったのを確認して進行役の一清長官が話し始める。

 「では先程の続きです。まずあの船をどうするかを決めましょう」

 「陸地に持っていく、というのは論外だと私は思います。記録を取って研究サンプルとして遺体を数体回収し、海上で沈めるべきだと考えます」

 佐紀防衛相がそう提案する。

 「私もその案に賛成です」

 「私も」

 佐紀の提案に他の大臣も賛成する。

 特に反対する者がいないため佐紀防衛相の提案が承認された。

 「では肝心の死骸に関して、研究すること自体は皆さん賛成ですね?」

 一清長官の問いに出席者全員が頷く、ここまではいい。

 そして早速佐紀防衛相が声を上げる。

 「問題はその方法です。

 先程総理にも提案したのですが、まずは海上で安全か検査してから陸地にある研究機関に運ぶのがいいと私は考えます」

 「ふむ。総理はどのようにお考えですか?」

 「私としては危険性が少ないのは佐紀防衛相の提案だと思います。ですので佐紀防衛相の提案を採用したいと考えます

 「他に代案がある方は居ますか――――いないようですね。

 では佐紀防衛相の提案を採用でよろしいですか総理」

 「はい、承認します」

 「では詳細は後ほど提出します」

 古賀や佐紀を含めた出席者はあっさりと一清長官が引き下がったことを以外に思った。だが一清長官の次の言葉に驚く。

 「ああ、それと休憩の間に判明したことですが。

 ネット上で船のことが明るみに出たようです」

 「・・・何ですって」

 「こちらがネットにおいて現在進行で拡散されている画像です」

 そう言って映し出された画像には帆船と巡視船が写っている。

 日本の偵察衛星は片手で数えるしか持っていなかった。

 だがあれが起こった際に日本上空にいた飛行機や衛星も一緒に第二地球へ来てしまった。

 政府はISSにいる日本人宇宙飛行士に補給物資を送るついでに多数の機材を送った。

 それは衛星の部品の数々だった、政府は飛行士に他国の衛星を使えるように指示を出した。

 特に政府は米国製の偵察衛星を中心に改造させた。米国は冷戦前から数多くの偵察衛星を打ち上げている、古いものも含めればその数は一〇〇〇を優に越すだろう。

 そして静止軌道の偵察衛星は、地上にある紙に書かれている文字を判別できる程の解像度だともいわれている。

 周回軌道の偵察衛星を含めれば米国は二四時間三六五日、オフィスからテロリストや他国を監視できるのだ。

 最近打ち上げられたものだけでも五〇〇はあるとされている。

 そして一緒に来てしまった偵察衛星は一五〇基以上だ。

 これは軍用だけの数で、民間のものを含めれば七〇〇以上はある。その中にはハッブル宇宙望遠鏡も含まれていた。国民にはあくまで第二地球の調査や宇宙の探査と発表していた。

 日本が改造し自分たちが使えるようした偵察衛星は十基、内四基が静止衛星だ。

 そして地球へ帰還する前に米国製の偵察衛星の部品を持ちかさせたので、日本がこれから打ち上げる偵察衛星は飛躍的に性能が上がるだろう。

 ともかく、そんな高性能な偵察衛星から送られてきた画像よりかなり画質が落ちているが、判別するには十分すぎる画質だ。

 画像だけではなくこの画像を解析するサイトがいくつも作られている。そして判を押したように「新大陸から来た船?」と書かれており、それについて議論がされているようだ。

 「SSTが突入する前にどうやらいくつの民間衛星が上を通過したようで、その中の一つを運営している会社の人間がどうやら漏らしたようです」

 「・・・封じ込めは」

 「したところでムダでしょう。

 私の考えでは、三時間もすれば主要マスコミが取り上げるでしょう。すでにネットニュースのいくつかに取り上げられています」 

 古賀総理は手で顔を覆って思わず上を見上げる。

 「最善の対処法は?」

 「変に隠さずに公表ことでしょう。

 そして新大陸の状況と船にあった死骸についても、遅くとも今週中には」

 一清長官の言葉に佐紀は悟った。自分の提案がどちらに転んだにしろ最終的には実行するまえに総理が国民に発表しなければならない。

 その瞬間から開国議論はさらに加速する。そしてどちらが勝っても一清長官は「またやってくるかもしれない」と発言するだろう。

 結果、次に備え海上での調査もそこそこに一清長官の提案通りにことは進む。

 佐紀は目の前に座っている老人を睨む。

 だが一清長官は全く意に介した様子はない。

 古賀総理は火花が散っていそうな二人を見ながら一清長官の提案を採用した。

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