常に備えよ
帆船が日本領海に侵入して一時間。尖閣島近海を白いヘリが飛んでいた。
SSTを乗せた海自所属SH-60Kシーホークが不審船の周りを旋回する。
巡視船から通報があってすぐに情報庁が海保にSSTの出動命令を出した。
そしてSSTの一チームは関西国際空港(関空)から自前の航空機に乗り込み、尖閣島にある空港まで移動し待機していたシーホークに乗り込んで来たのだ。
いつもの装備ならバラクラバで顔を隠し、紺色のアサルトスーツに防弾ベストやらタクティカルベストを付けている。 だが今回は未知の知的生命体と接触するため、未知のウィルスや細菌に感染しないためにガスマスクと黄色い防護服の上から防弾チョッキやタクティカルベストを装備している。
『前方に目標を視認』
「周りを旋回してくれ」
『了解、旋回する』
チームの隊長がどうやって侵入するかを見定める。
「ヘリで降りるのはマストが邪魔してムリだな」
「どうしますか?」
「巡視船に降下、ボートを使い乗り込む」
「了解」
「パイロット、巡視船の後部に着けてくれ。
巡視船に降りる」
『了解』
帆船の風上を航行している巡視船の後部にヘリは移動してホバリングすると、ハッチを開けロープを垂らし、防護服で動きづらいはずなのにも関わらずチームはラぺリング降下した。
チームは複合型ゴムボートを降ろしてから打ち合わせをする。
「両舷から突入する。質問は」
「交戦規程は?」
「敵意があるとわかった場合即射殺。
他は・・・では状況開始」
二つのゴムボートに四人ずつ別れ乗り込み、操縦手以外は帆船に銃口を向けながら二つのボートは少し波が高い海をバウンドしながらゴムボートは全速力で帆船へ向かう。
そして両弦に取りつくと縄梯子なわばしごを投げて手すりに引っ掛け一人ずつよじ登る。
反対側でも同じように上っていく。
それを少し離れて並走している巡視船の後部にいるSST隊員がⅯ1500狙撃銃で援護している。
最初に上り切った隊員が素早く八九式小銃を構え後続の隊員が登りきるまで警戒する。
そして無事に全が上り終えた。
一列になり警戒しながら進む。
巡視船の報告通り甲板には誰もいない、甲板を確認したが人影は皆無。
後部の高い位置には海賊映画に出てきそうな操舵があるが、操舵手はおらず主人のいない舵は左右に動いている。
無線を通じて「クリア」といった。
「やはり下ですかね」
「階段の入り口は一つしかありません。
中央にある荷物搬入用と思われる入口ですが、板でふさがれています」
「後部のドアから下へエントリーする」
「了解」
六人は帆船後方にある入口まで移動。
扉も例に漏れず船体同様に古臭い木製である、チームは扉両脇の壁に張り付く。
二人の隊員が安全ピンを外した音響閃光弾スタングレネードを手に持つ。
スタングレネードとは非殺傷兵器の一種で、突入作戦時に投げ入れ爆発時に爆音と閃光により対象の五感が一時的に麻痺させ、そのスキに突入するのだ。主に人質救出作戦に使われる。
先頭の一人がノブに静かに手をかけ開く有無を調べる、予想通り鍵がかかっておりノブは完全には回らない。
隊長はハンドシグナルで散弾銃ショットガンを持った隊員に扉を壊すように指示する。
散弾銃を装備した隊員が扉脇に移動し、至近距離でレミントンⅯ870散弾銃でノブに狙いを付ける。
そして引き金を引き小銃や短機関銃サブマシンガンとはまた違う発砲音が響き、ノブは完全に破壊され穴が開いた。
そして素早くフォアエンドをスライドして薬莢を排出し次弾を薬室に送り込み、ノブと同じように二つある蝶番ちょうつがいに狙いを付け発砲する。
正確に蝶番に当たり木端微塵になり、蝶番があったところはこぶし程の穴が開く。
そして支えを失った扉は力なく揺れどちらに倒れようかと迷っていると、撃った隊員が足で奥へ蹴り飛ばす。
ここまで五秒も経っていない。
扉が倒れると同時にスタングレネードが投げられ、バン!バン!花火のような音を合図に六人は一斉に船内にエントリー。
八九式小銃の先端に付けられたフラッシュライトの光が暗い室内を照らす。
中はフラッシュバンが爆発したせいで少し煙が立ち込めている。
展開しながら敵がいないかをクリアリングを行う。
少し経ってから隊長が「クリア」とつぶやく、警戒はしながらも銃を低く構える。
窓は内側から板で塞がれているが隙間から光の線が暗い室内を照らしている。
長く人の出入りがなかったのだろう突入の影響で埃が舞い、光の線にあたりキラキラと反射している。
隊員の一人が下に続く階段を発見し、他の隊員に知らせる。下に続く入口を警戒しながら部屋の中を一通り確認する。
人はおらず机や地図や海図らしきものや、丸めた紙などが机や床一面に散乱している。一通り確認して階段の下へ向かう。
階段の軋む音と防護服の擦れ合う音、波に揺られ何かが揺れる音だけが支配している。
階段下にはまた扉があった、先程と同じ要領で突入する。 先程の部屋よりどうやら区切りがなく、甲板同様に広々とした空間のようだ。
入口から進んだ先に上から光が漏れ、スポットライトのように床が一点だけ照らされている。
おそらく甲板で見つけた板で塞がれていた場所から漏れている光だろう。
かなり広い部屋のようで、隊員がフラッシュライトで辺りを照らす。
その瞬間、無数の黒い粒がSST隊員に襲い掛かる。
「ッ!?」
反射的に銃を構え発砲しようとしたが、黒い粒の正体を把握し別の脅威がないか警戒する。
無数の黒い粒の正体は尋常じゃない量のハエだった。
展開しながらライトで照らされ横たわった何かが動く存在があった。
もぞもぞと動いていたそれをライトで照らしよく見る。
そして動いているの”それ”ではなく先程隊員を驚かしたハエになる前、大量の白い体をした蛆虫だった。
「・・・」
一瞬、その目の前にある光景に絶句したSSTだが先程と同様にすぐに持ち直す。“それ”を避けつつ暗い空間に警戒しつつ広がる。
そして完全に船を掌握するためにハエと蛆が支配する空間を前進し続ける。少しして一人が発炎筒を炊き床に投げ、暗闇を赤い光が照らす。
同時に”それ”が隊員たちの目にハッキリと姿を見せた。
ハエが何故海上なのも関わらず大量に居るか?ハエは蛋白源を求めあらゆる植物に集り、そして卵を産む。卵から生まれた幼虫うじむしが寄生主から栄養を取り成長する。
そして蝶の繭まゆのように硬直化しハエへと成長する。
このサイクルを繰り返せば一匹だけだったとしても適切な処理をしなければ栄養源がある限り無限に生まれるだろう。
では部屋いっぱいにいるハエは何を栄養源にして生まれ育ったのか?少し考えればすぐに答えは簡単だ。
一時間後、チームは不審船の上から下まで隅々を捜索し、不審船を掌握した。
甲板に出てきた隊員は動力源であるマストに上り帆をナイフで切り落とした。
動力源である帆を失った船は少し経ってから完全に停船した。
動かなくなった船の周りには遅れてやって来た巡視船や護衛艦が数隻集まっていた。
上空にはP-1やヘリが旋回している。
チームの隊長は下半身に付着している“血”を水で洗い流したいのと、マスクを取って新鮮な空気を明一杯吸いたい衝動駆られた。
だがそれが叶うのはいつになるかわからないことも理解していた。
専門の機材を積んだ船が到着するまでこの船に留まらないといけない。
護服と防毒マスクをしているがそれでも何らかの病気や菌に感染していないとは言い切れないからだ。
唯一の救いは“死体”の臭いが一切しないことだ。
最も死体と呼べるものは数体だけで他は完全に白骨かしているか、腐敗し蛆とハエにまみれているどちらかだが。
孤独だった日本人は七年目にして自分たち以外の生物と対面した。
生者とではなく死者たちと。




