動き出す時間の針
国民に対して圧政を敷いていた前政権が電撃解散。
さらには暫定政権が前政権の行った国民弾圧に対して、暫定政権は前政権と関係者たちを死刑判決を出した。
その結果、足った一日で二〇〇人以上が公開死刑されるという、言葉にはできな出来事から二月。
そんな戦後の日本史史上の中でも波乱だったのとは真逆に、海は穏やかそのものだった。
尖閣島や沖ノ鳥島といった新島は国の最重要地域として厳重に管理と警備されている。
とはいうものの外敵がいないため、もっぱら国内の環境団体や反政府活動家らが相手だ。
そもそも新島にはどうしても航空機か船で移動しなければならないので空港や港で止められる。
故に混乱していた時期を過ぎた今は比較的に暇なのが現状だ。
日本の治安が最悪な頃は海自と海保が共同で警備を担当していたが、今は海保が単独で警備している。
「レーダーに反応あり、本艦から西に二十浬。速度五ノット」
「五ノット?」
尖閣島を中心に活動しパトロールをしていた巡視船のレーダーに一つの機影を捉えた。
巡視船の艦長は不明艦の足の遅さに首をかしげた。
モーターを付けた小型ボートでももう少し早い。
「サイズは?」
「中型クラス、漁船より少し大きいと思われる」
「漁船が漂流しているのか?」
思わず艦長は隣にいた副長の顔を見る。
「はあ、ですが不明艦がいる海域は航行禁止エリアです。 例え冒険家連中だとしても五ノットというのは遅すぎます、もしくは―――」
副長の言葉を艦長が引き継ぐ。
「もしくは新大陸からやって来たお客さんか――――前者の方が私としては大変うれしいがね。目標の進路は」
「進路を変えなければあと二時間ほどでEEZ(排他的経済水域)入ります」
部下の報告に艦長は隠そうともせずに顔をしかめる。
少し間をおいてからため息をしてから一言。
「まあ、本部に連絡して指示を仰ぐ」
本部からの返答は十分後に来た、指示は至って簡潔だった。“従来通り急行し不審船に対して警告活動を実施せよ、 なお増援あるまで不審船への接近と臨検を禁止する”
「好き勝手いってくださる。
まあ、臨検したいとは思わんが」
艦長は口と裏腹に“万が一”に備え臨検要員に待機命令を出した。二時間後巡視船は目標を視認した。
「本艦正面に目標を視認」
艦長は双眼鏡を通して見える船は日本では滅多にお目にかかれない帆船だった。
しかもヨットなどの小型ではなく海賊映画に出てきそうな大きいマストが三本もあるものだ。
艦長や副長も海技教育機構の学生だった頃に白を基調とする大型帆船の「海王丸(二代)」の乗員として乗り込んでいた。
上海王丸は白を基調としているが目の前の帆船は船体からマストに至る全てが真っ黒だ。
まるでペリー提督が乗って来た黒船かのように。
だが黒船とは程遠い、遠目から分かるくらいにボロボロなのだ。船体の至る所が破損しており、航行するための動力源のマストも大小の穴が開いている。
すぐにでも沈没してもおかしくない。
「進路このまま、少し離れたら反転。不審船と並走しろ」
艦長はしばらく眺めたあと指示を出す。
艦長の指示通り反転し不審船の横に並走を開始する。
遠目でも分かっていたことだが不審船の甲板には乗組員の姿は見えない。
国際法に乗っ取り警告を開始した、日本語、英語、ロシア語、中国語、韓国語などなど十か国語で警告した。
だがというよりやはり停船しない、そもそも帆船は甲板でしか船を操作できないので甲板に乗組員がいないので停船した方がおかしいが。
巡視船に乗り込んでいる海上保安官が外に出て不安と珍しそうな目で艦長のように眺めている。
本部からは「現状維持」の一言だけで明確な指示が来ない。
「早く終わってほしいものだ」
艦長の何気ないぼやきはすぐに叶えられることになった。
三か月前。
日本が第二の地球に来てしまったように突如として、日本から東に六五〇〇キロに大陸が出現したのだ。
昔の地図で位置と大きさを示すなら、中東辺りにアフリカ大陸より一回り程大きい大陸が出現した。
そしてその大陸に最初に気づいたのは政府ではなく数人のネットユーザーだった。
沖ノ鳥島の開拓が始まって二年後、民間企業が数社共同で複数の機能を持つ静止衛星を打ち上げた。
この衛星は日本、特に沖ノ鳥島を中心に運用するために作られた。
主に沖ノ鳥島の気象観測と同時に殺虫剤散布をするドローンや無人コンバインなどの遠隔操作のためのものだ。
この二つだけも沖ノ鳥島に移民し農業をしている人の殆どは衛星を利用している。
オマケといっては何だがこの気象観測の元の映像は、インターネット上で二四時間ライブ配信しているのだ。
そんなある日、ライブ映像を見ていた数人が
「これって新しい陸地?」というトッピクが立てられた。 「新たな陸地?」のトッピクはすぐにネット上を駆け巡った。
政府に情報が上がった頃にはネット上ですでにこの話一色になって一部テレビでも取り上げられた頃だった。
政府は後手に回り結果的に最初の発見から三時間後に公式見解を出した時にはすでに陸地は大陸とまで判明していた。 それからというもの日本中が文字通りお祭り騒ぎになった。
新大陸には宇宙人が住んでいる、新島と同様に人はおらず資源の宝庫、異世界つまりファンタジーの住人が住んでいる等々。
だがそんな夢を見た人々の共通点は一つあった。
「これで暮らしが楽になるかもしれない」
というものだった。確かに最初の一,二年は戦前どころか開国前に戻ったかのように物不足で人々は苦しんだ。
気づいたらいきなりガスも水道、電気がない無人島に放り出されたに等しい。
もしこの大陸に国家が存在するなら国交を結び輸出や輸入をして元の暮らしに、七年前のように物が不自由なく手に入る生活に戻れる、そういう夢を見るなという方が酷な話だ。
政府は情報収取を理由に沈黙する。
その間、ネットに限らず巷は新大陸の話で持ち切りになった。
大陸にはどんな生物がいるのか?
そもそも生物は存在するのか?
近代国家は存在するのか?国交はできるのか?
友好的なのか好戦的なのか?
言語は?そもそも口はあるのか?
人間の形をしているのか?
様々な憶測が飛び交った、中は船を用意して自力で大陸に向かおうとする輩まで現れた。
しかも少数とは言い切れない人数がやったので海保などは冒険家というようになった。
そして二週間の沈黙を破り政府は大陸には“知的生命体”が存在しなおかつ国家かそれに近い組織がある。
そう発表したのだ。
同時に衛星画像も公表する。
たったそれだけだ、当然情報の少なさに国民は激怒しデモが全国各地で巻き起こる(暴動は発生しなかった)。
デモが発生し野党はともかく党内からも情報をもっと開示せよと批判を受けてから一週間後、古賀総理が持っているブログやツイッター等に「明日、大陸について重要な追加発表をする」と書き込んだのだ。
次の日、記者会見の様子を全テレビ局が生中中継しネットでもライブ放送された。
なんと過去最高の視聴率をこの時叩きだす、ネットのライブ放送でも官邸ホームページで配信していたがアクセス数が未だかつてない程の数字を叩き出した。
それほど国民は情報を欲していたのだ。
七年前同様に古賀総理は記者会見室の中央にある教壇の少し離れた国旗に一例してカメラの前へ立つ。
「本日は昨日に言った通りに新大陸についての報告をさせていただきます。
今から皆さんに見ていただくのは一週間前のものから十二時間前に衛星で撮れた画像と映像です」
古賀総理はそう前置きし七年前同様に左側にあるモニターを指す。映し出された映像にマスコミも国民も進むにつれ驚愕した。
最初は新大陸の全体像が映し出された。
そして徐々に寄っていくと、映し出されたのはどこにでもあるような山々だったが、少し引いて今度は平原と思われる場所に近づいていく。
文句の付けようのない草原が画面いっぱい広がりしばらく続く。
画像の右上に撮影時刻と経度、緯度らしい数字が少しずつ変わっているので地表にズームしたまま横か上に移動しているのだろう。
そして少し続いたあと草原の中に自然の物ではない“何か”が映し出される。
何かの集団が二つ横一列になり線を作り出している。
そして撮影時刻が一分ごとのコマ送りになり先程まで二つあった線が徐々に寄っていく。
五分進んだところで二つの線は完全に交わり一つの線になった。「ここから映像になります」黙っていた古賀総理が急に短く発言してすぐに画質は荒いが何が起こっているかはハッキリと理解できる。
戦争だ。
しかも戦争というより戦といった方が近い戦争だ。
二つの線だと思っていたのは隊列を組んだ軍隊で、少し近づいたところで両陣営から白い何かが相手に向かって飛び出す。
そして飛び出した何かが両者に到達すると隊列がわずかに乱れた。
上からの映像だからまるでオセロの石が白か黒に変わるかのように見える。
そして隊列は進むが色の変わった“石”は動かずに隊列から置いていかれる。
あれは“矢”だ、そう少し経ってから分かった。
そして最初に見た画像のように隊列が交わる、いやぶつかった。先程までは線がぶつかった瞬間、ゴチャゴチャと崩れ次第に横や縦に広がる。
軍隊?は剣のようなものを振り回しており、それが当たった相手は倒れて動かない。
少ししてから馬がゴチャゴチャとしたところに突っ込んでいく。
騎兵だろうか?そうまるで時代劇や大河ドラマで流れるよな“シーン”がモニターに流されているのだ。
だがこれは本物のだ。
開いた口が塞がらない、という表現がぴったりする映像を見せられているマスコミや国民に追い打ちをかけるように新たな要素が加わる。
空を羽ばたく鳥のようなものが地上に火を噴いている、しかし明らかに鳥より大きいその証拠に人らしき生物が背中にまたがっている。
別の場所では巨人のような生物がこん棒のようなものを振り回しているではないか。
他の人とは格好が明らかに違う集団が何やら儀式めいたことをしている、しばらくして電気の灯りは少し違う光が包み込み、その光が目の前の集団へと飛んでいき爆発した。
銃弾やミサイルが飛び交う戦争どころか中世や戦国時代の戦いにあんなものはいなかった。
いや、いてたまるか。そんな明らかに異常な戦場の映像は十分続いた。
映像が終わり古賀総理は呆然とするマスコミに向かっていう。
「映像はここまでです。何かご質問は?」
一瞬遅れて無数の手が上がった。
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