月と太陽
これから天高くに上がる太陽の光が漆黒の空を水色に染め直し、連なる山の稜線は照らされ一本の光る道が出来ている。
その朝陽がまだ届かない反対側、空と大地は何処までも暗く夜よりも深い漆黒色に染まり、星は消え満月だけが悲しげに漆黒の夜空に浮かんでいる。
夜の女王である丸く白い月は太陽とは逆に静かに姿を消そうとしている。
そんな二つの「昼」と「夜」の王が並ぶ真ん中に草原が広りよく見ると小さな、小さな集落がある。
住人はまだ寝ている時間だが、そんな集落から少し離れた場所の畑の中に家が一軒ある。
そして窓からは太陽とはまた違う光、無機質な光が漏れ小さく庭を照らしている。
そんな光に混じって、何かに耐え苦しみ悶絶するような声が聞こえ、励ますような声も一緒に聞こえる。
「ああ、痛い‼」
「頑張れテル❘ス!」
天井からぶら下がるランプに照らされたテル❘スと呼ばれたダ❘クエルフの女性が横になり足を大きく広げ、非常に整いその美しい顔を歪め大粒の汗が浮かぶ。
テル❘スの枕元には長身のダ❘クエルフの夫であるパルテが手に持った布で、妻の身体中からとめどなく出てくる汗を心配そうに妻の顔を見つめながらふき取る。
「あともうちょっとだよ、踏ん張りな」
広げられた足の間に入った老齢の産婆が冷静にいう。
「頭が見えたよ、息みなテル❘ス」
「ああ、クッソ、クッソ!早く出てきなさい!?」
産婆の掛け声通りにテル❘スは短く息みながら大声で汚い言葉をいう。
「あ、ああ‼」
「出たよ!」
言葉にならない悲鳴を上げ産婆がいうのと同時に赤ん坊も産声をあげ、産婆が片手で抱え腰から短剣を抜き手早くへその緒お切る。
「女の子だよ」
そう産婆は言いながら血だらけの赤ん坊を前もって準備しておいたお湯を入れて置いた桶に入れ、優しく手でお湯を赤ん坊にかけ血を落とす。
血が落ちたところの肌は両親と同じ黒だが真っ黒ではなく薄い黒だ。
パルテは無事に我が子が生まれたことホッとしたのも束の間、赤ん坊を洗っていた産婆が叫ぶ。
「パルテ!この子を洗いな」
「え、俺が?」
「二人がまだいるって言ったでしょ!ほら早くコッチに来な!」
「パルテ、早く!」
二人の女性から強く言われてパルテはオタオタと移動して、産婆からまだ血だらけの赤ん坊を受け取る。
急いで産婆は先程のように足の間に入り、二人目、妹か弟が出てくるのを待つ。
二人目はすぐに生まれた。
一人目と違いすんなりと生まれ、一人目と違い体重が驚くほど軽く小さい。
一人目と違い産婆は二人目を取り上げた瞬間は声を上げなかった。
同じようにへその緒を切り取り、もう一つの桶に入れ血を洗い流した。
すでにパルテは赤ちゃんを洗い終え綺麗な布に包み、テルースに赤ん坊を見せている。
産婆は無言で二人目を洗い同じように布で包み両親である二人に見せた。
夜空に無数の星と大きな真っ白に輝く満月が浮かんでいる。
その星と月明かりで照らされた草原の青々としていた草木は昼間とは違う色を見せている。
その中を何かが動いた。
月明かりに照らされそれはエルフの小さな少女だった。
少女は月のように真っ白な肌。
ホワイトエルフにしても異常な、そうまるで死人のように白い肌をしている。
肌だけではなく瞳や髪の毛も全て白く、着ている服も白いが服の方がまだ生気がるといえる色合いをしている。
少女は何が嬉しいのか、月明かりに照らされた草原を軽くスキップしながら歩いている。
少女は草の上に寝転び鼻歌を交えながら輝く星を見上げていると、月明かりに照らされていた少女に覆いかぶさるように黒い影が射した。
「ルナ」
「あ、お姉ちゃん・・・・」
「冬に入るのにそんな薄着で外を出歩いたら体を壊すよ」
「・・・・ごめんなさい。すぐに戻るつもりだったけど、月と星が綺麗だったから」
白い少女、ルナを覗き込んだのは自分と同じくらいの少女に謝る。
ルナと容姿がそっくりな、姉であるソルは自分の羽織っていたマントを外しルナの体に掛ける。マントといっても自分たち着ている服よりほんの少しだけ、生地が厚いくらいだがマントにはソルの温もりが移っていて温かい。
容姿こそルナとソルはそっくりの双子だが二人は決定的に違うとこが一つある。
何もかもが真っ白なルナとは逆、姉のソルは肌も瞳、髪色の全てが白と真逆の黒、ダークエルフだ。ルナの隣に同じように姉のソルは横になる。
「体の調子はどう?」
「昼間より調子いいよ。それより昼間はありがとう、お姉ちゃん」
「別にいいわよ、わたしがむかついたから殴っただけよ」
「それでもいいの。ありがとう」
「・・・・どういたして」
ルナが笑顔で感謝の言葉をいうとソルは顔を背けていう、心なしか顔がほんのり赤くなっていた。
姉のいつも通りの不器用な態度にルナはクスっと小さく笑う。
「ほら・・・・帰るよルナ」
照れを紛らわすように立ち上がり手を差し出す、ルナは手を握り返し引っ張られるように立ち上がる。
そしてルナとソルは手をつなぎながら家に向かって歩き出した。
「ソル、ルナ。朝だよ起きなさい」
そう言いながら父親であるパルテが仲良く寝ている娘の二人を起こそうとする。
だが二人は父に声で抗議するのではなく、ベッドの上でさらに丸まるという行動で抗議する。
パルテは愛娘たちのいつもの行動に苦笑いしながら、カ❘テンで外からの光を侵入するのを防いでいる窓へ移動する。
パルテはカ❘テンを勢いよく開けた。
ガラスを通して燦燦と大地を照らす光が部屋中に射し、「う❘」「まぶし❘」とソルとルナが悲鳴を上げながら布団を頭まで被る。
「ほら起きなさい、せっかくお母さんが作った朝食が冷めちゃうぞ」
微笑とは裏腹にパルテは二人が被っている布団を無常に剥がすと、ソルは「ウ❘」という愛らしい唸り声を上げながらベッドに顔を埋めさらに枕を被る。
隣のルナは目を半開きにし体を起こす。
「おはよう・・・・お父さん」
「おはようルナ。ほら妹のルナが起きたぞ、お姉ちゃんのソルも起きなさい」
「ん・・・・おはよう、父さん」
「おはようソル」
ソルも抵抗を諦め不機嫌顔で起きる。二人は父のいう通りにベッドから出て、トボトボと部屋を出ると母テルースがちょうどテーブルに料理を並べていた。二人に気付き笑顔で挨拶をする。
「おはようソル、ルナ」
「おはようお母さん」
「・・・・おはよう」
「食べる前に顔を洗いなさい」
二人は言われた通りにキッチンの隅に桶は二つあるが水は入っていない。
ソルは右手を桶にかざし水魔法を発動すると、桶の底から水が少しずつ生成されてあっという間に水が桶一杯に注がれた。
隣では同じようにルナが桶に両手をかざし、水魔法を使って桶一杯に水を満たそうとしている。
だがソルが軽々と終わったのと違い、その生成速度はとても遅く時々止まる。
少し走った後のようにも見える。
ソルはその様子を見つめ、水が桶一杯になるまでに待つ。 ようやく桶一杯ではないが八分目まで水を満たせた。
それでもソルの二倍以上の時間もかかり全身には少し汗をかき、息も少し乱れており整えるため深呼吸をしている。
息が整ったのを見計らってソルはバシャバシャと勢いよく顔を洗い始め、逆にルナは少しだけ水を掬いピチャピチャと優しく綺麗に洗う。
桶の水を半分程使いベルトに挟んでおいた布で顔を拭き「ふう」と一息する。
ルナも同じように布で顔を拭き残った水に布を浸し絞り、首筋や腕など少し汗をかいた体を拭く。
「桶、もういい?」
「うん。お願い」
ソルはそれを聞くと桶二つを両手で持ち外へ出て、家の裏手で放し飼いしている鶏の水飲みに桶の水を入れる。
二人が目覚めてやる日課だ。家の中へ戻るとテーブルの上にはすでに四人分の野菜多め少しだけ入った鶏肉のスープ、黒く固いライ麦パン、生野菜のサラダが並びソル以外はすでに席についている。
ソルも自分の椅子に座る。
全員が座ったのを確認したテルースが目を瞑り軽く頭を下げ、三人も同じようにする。パルテの生まれ故郷であり四人が住んでいる村に伝わる食事前のお祈りだ。
しばらくすると「さあ、食べましょ」とテルースの言葉で全員が食事を始め、四人は無言で食事を勧める。四人とも綺麗に食べるが、ルナ以外はスープとパンの減りが早い。というよりかはルナが遅いだけなのかも知れない。
まるで鳥にあげるようなサイズにライ麦パンを千切り口へ運んでいる。
ルナがライ麦食パンとスープを半分になった頃にはソルや両親は食事を終えていた。ソルとパルテは両手で水を掬うように合わせ、水魔法で手の中に水を生成させそのまま飲む。
飲み終えるとパルテは立ち上がり「じゃあ行くかソル」と声をかけると、「うん」といいながらソルも立ち上がる。
二人は入口の横にかかっている弓と剣を装備し、ソルはキッチンの上に置かれてあった包みを腰のポーチに入れる。
テルースは食器を下げながら二人に「いってらしゃい」といい、ルナも食事の手を止め「お姉ちゃん、お父さん気負付けてね」といった。
「夕方までには帰るよ」
「いってきます。いいルナ、無理をしないようにね」
「うん」
そういうと二人は家を出ていった。ルナは食事を再開せずに食器を洗っている母に聞く。
「お父さん、今度はいつ仕事に行くの?」
「畑の方に専念するらしいから、傭兵の方はしばらく休むそうよ」
母の答えにルナは嬉しそうに食事を再開する。
パルテの職業は傭兵で、よく長期に渡って家を空けている。
イニティウム王国は海に沿って細長い国土の七割が海に面している。そのため農業をする土地が少ない上、冬の海は流氷で完全に閉ざされた海になる。
そうすれば自ずと糧を得る手段は限られてくる。
そのためイニティウム王国国民の半数、畑を持っている平民でも冬の間は傭兵として他国の戦場へ出稼ぎに出向くのが殆どだ。
ルナが食べ終わったのは食器を洗い終え、ゆったりと薬草茶の香りを楽しんでいた頃だった。
自分で食器を洗いながら「今日は何を手伝えばいい?」と聞いた。
「藁袋の数が少なくなっているから二、三つ作ってくれる。それで患者が来た時は手伝をお願い」
「うん。ここで作ってもいい?」
「ええ、良いわよ。また旅の話を聞きたいの?」
「うん!」
テルースは村や周辺で唯一の魔法の使い手だ。
そもそもテルースはイニティウム王国の生まれでもなく、生まれてからずっと家族と一緒に旅をしていた。
治療魔法使いとして一人前と師匠でもあり両親から認められ、治療魔法を仕事に大陸中を一人旅して来た。
そしてある戦場で雇われ治療魔法使いとして負傷兵の集められたテントで治療を施していた時、テントが襲撃されてしまう。テルースも殺されそうになったが、その時に傭兵として戦場にいたパルテがテルースを助けた。
これをきっかけにパルテとテルースは付き合うようになり、結婚を期にパルテの生まれ故郷である街道から少し離れたところにある村に帰ってきた。
二人がこれまで貯めてきた金で家を建て田畑を耕した。テルースは生まれてずっと放浪する治療魔法使い、パルテも同じようにイニティウム王国にいる時間より傭兵として戦場を渡り歩いていた時間が長かった。
そのため結婚して最初の頃はあまりジッとできず、パルテは傭兵としてテルースは雇われ治癒魔法使いとして二人は一緒に戦場を渡り歩いた。
だが妊娠を期にテルースは村で治療魔法使いとして診療所をやるようになった。
パルテもハイリスク・ハイリターンの前線で戦う傭兵から、街や街道を警備する比較的に安全な仕事をするようになった。
だが比較手に安全だが拘束期間が長い、そのため仕事に出向く前は狩りに出て肉を多めに狩るのだ。




