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記者

 まず新大陸で蔓延しているとされる伝染病に関してだった。

 感染した場合どのような症状が出るかを見せられた。

 しかもただの映像ではなく部屋に用意されていたマネキンをARGが配られ、寝かされたARGを通して見たマネキンは生身の天然痘に感染・発症した人間に早変わりした。

 加えて末期状態で全身に発疹(ほっしん)が出ており思わず目を背けたくなる光景だった。

 しかもそれを間近で直視ししながら講義を受けるのだ。常人には耐えがたい抗議はたっぷりと二時間行われ、参加していた記者全員が少なくて二回少し前に食べた昼食を吐き出した。

 一通り伝染病について終わると今度はガスマスクの付け方で、ガス警告が聞こえてから十秒以内に全員が装着出来るまで続いた。

 夕方になっても講義は終わらず各個人に支給された医薬品の使用法を軽く受け、続きは明日ということになりこの日は終了した。


 恵美たち記者は普段より濃密な時間を経験し、言葉を発せずに疲れ椅子に座っている。

 そうしていると配属部隊の隊員が迎えに来た。

 「立てますか恵美さん?」と恵美にも到着時に顔を合わせたWACが声をかけてきた。

 配属先である第二分隊副分隊長の古川和子一等陸曹だった。

 身長は恵美と同じくらいでふくよかな体形をしており優しそうに微笑を浮かべている。

 「ええ、大丈夫です・・・」

 「どうかしま・・・ああ」

 恵美は立ち上がり先程まで使っていたマネキンの方を見てしまい、すぐに顔を背ける。

 まだARGを外していなかった。

 古川一曹は恵美がそうした理由が分かり、自分も胸ポケットに入れて置いたARGを取り出しかける。

 するとプラスチック製のマネキンは人間に変わり、床に血が広がるくらい全身から血が噴き出ている。

 まるで本物のように。それを平然と見ている古川にARGを外した恵美は思わず質問した。

 「よく平気ですね」

 「もう見慣れちゃいましたからね。

 それに私たちは恵美さんたちみたいにいきなりではなく、徐々にとリアリティーが上げられていったので。

 それよりも荷物を持って下さい、そろそろベースへ出発しますよ。持ちましょうか?」

 「いえ、これくらい大丈夫です」

 恵美は支給品を全て詰め込んだリュックを背負い古川と建物の外へと出た。

 暗くなり滑走路横の建物以外に明かりが存在せず、まるで暗い海に囲まれた孤島にいるような錯覚を覚える。その暗い海の中からライトを付けた三台の九六式装輪装甲車が姿を現し建物前に停車した。

 例に漏れず調査隊仕様で、白い車体に赤いラインが二本入っている。

 恵美たちは後部ハッチから乗り込み、月明かりと三台が点けているライトで道なき道を進み天寧空港から二時間のところにあるベースにたどり着いた。

 ベ❘スは天寧より少し標高が高いので所々に雪が積もっており、ベースから漏れる明かりに照らされ空港より明るく感じる。

 本来なら除染などをするが、初日ということもありパスして中へ入れた。

 他の記者と別れを告げ古川の後に続きコンテナの間を進み、目的の配属部隊の「第二分隊」とプレ❘トがかかっているコンテナに到着しドアを開け入る。

 「ただいま戻りました。お客さんを連れてきましたよ」

 「初めまして、これからお世話になります如月恵美です」

 「分隊長の倉くら木き治おさむ陸曹長です。その様子ではたっぷりと絞られたようですね」

 恵美の様子を見て倉木は笑いながら自己紹介をした、続けて第二分隊のメンバーを紹介する。

 「左奥にいるのが秋本薫、右が医官の崎村秋で二人とも二等陸曹。

 こっちが奧井夏か南一等陸曹と山田祐樹三等陸曹、高橋桜一等陸士同じく佐藤藍一等陸士。

 以上七名が第二分隊のメンバ❘です」

 倉木の紹介に第二分隊のメンバ❘は「よろしく」などと恵美に声をかけ、恵美も一人ずつ挨拶をした。

 原一尉の話通りWACが五人いる分隊だった。

 部屋の模様も僅かだが女性の部屋のようだ。

 「奥のベッドを使って下さい。

 トイレや入浴は男女共同となっていますが、九時から十時の一時間女性だけの時間があります。

 といっても今日しか関係ありませんが」

 「はい?・・・・・」

 「え?聞いていませんか、明日の深夜に我々は訓練を開始します。

 その間は一度もここには帰ってきません、ウェットティッシュは持ってきましたか?」

 「はい三パックほど持ってきましたけど・・・」

 「ああ足りない、足りない。しかも市販品の小さいやつなら最低三箱・ぐらいなきゃ。

 野外訓練時は基本的にウェットティッシュで体を拭きます。一応言っておきますがタオルを濡らして、というのはできません。

 運搬する飲料水には限りがあるので。ベース内の売店で大きいやつが売っているはずですから買ってきた方がいいですよ」

 口にこそ出さなかったが恵美は「そんな話、聞いてないよ」と思った。

 防衛省や入間基地での説明では毎日シャワ❘を浴びれると聞いていた、もちろん野外においてもだ。

 落胆する恵美に倉木は説明を続ける。

 「訓練の間の食事は我々と同じで、朝に三食分の戦闘食が配られます。他に聞きたいことはありますか?」

 「ええありません」

 「改めて、ようこそ調査隊へ」

 自己紹介や隊内での決まり事を聞き、入浴後に倉木のいう通りにベ❘ス内の売店でウェットティッシュを十五個と多めに購入した。

 そして最初で最後のベッド(明日から寝袋)に入り消灯後、ライトスタンドの明かりで、ラップトップを開き今日の出来事を軽くまとめて本社に送信した。



 『一二月十日、訓練初日。


 朝五時、東京の入間いるま基地に私たち記者は集合して、基地内で取材規約や配属部隊などの説明を受けた後、輸送機に乗ること三時間。

 九時過ぎには択捉島の天寧空港へと到着しました。

 空港のすぐ横にはオホーツク海で、周りは何もなくまさしく「陸の孤島」といえる空港です。

 到着早々に調査隊から支給品が入ったダンボールが一人ずつに渡され、全部そろっているかをみんなで確認しました。 その後は昼食を挟み、伝染病についての講義がありそこで私は初めて軍用ARGをかけました。

 すると目の前にあったマネキンが本物の人に見える上、その人は伝染病に感染・発症していたのです。

 しかも末期。ああ、神よ。そう思わず言いたくなるような光景でした。

 思わず目を背けたくなる光景を見ながらの講習を受けました。

 途中、何人も(かくいう私も)その場で酷い光景に思わず吐き気を堪えることができませんでした。

 これは精神的にかなり堪えるものでした。

 十分程の休憩を挟んだと思ったら今度は支給されたガスマスクを全員が十秒以内に装着する、というものです。

 先程の伝染病講習のこともあって、四〇分数え切れない程やり直してようやく陸自の教官からOKが出ました。

 今度は記者や調査隊員が怪我など負傷した時の応急処置講習、のはずでしたがガスマスクに時間を取られてしまい明日、訓練をしながらということになりました。正直「助かった」の一言です。

 なぜなら応急処置を施す時もARGをかけながらやると聞いたのでリアルな光景を見ると思うと嘔吐だけではなく気絶する記者もいたかもしれません。

 明日に変更した教官、感謝します(敬礼)。

 ともかく講習が終わった後は装甲車に乗り、ベ❘スへと向かいました。

 今、記事を書いている場所は配属先である調査隊第一普通科中隊、第二分隊の宿舎です。

 この第二分隊は七人いる隊員内五人は女性隊員、WACでとても女性色が濃い部隊です。

 聞いた話では同行記者の中で唯一の女性である私に配慮された、という訳ではなく偶然こういう振り分けになったそうです。

 来る前にも男性隊員との共同生活をする、ということは聞いていましたがやっぱり同性がいると少しホッとするところがありますね。

 宿舎は貨物コンテナを二つ連結したような形をしています。

 コンテナといっても中は冷暖房を完備しており、ベッドもあります。プライバシ❘がないのを除けば十分にビジネスホテルと変わらない感じ。

 今日から一週間、この七人の暮らしている宿舎で私も一緒に生活することになりました。

 とはいっても今晩だけで、明日からは野外訓練なのでテント暮らしになるそうですけど。

 今のところ不便や不満な点はありません。


 いや一つありました。


 四か月前に防衛省で行われた説明会と、出発前に入間基地で聞いた話では毎日温かいシャワ❘を浴びれる、そう聞いていました。

 だけど寝る前に聞いたところ、これから五日は一切シャワ❘どころか濡らしたタオルすら使えないというではありませんか!

 聞いてないよ‼そこで隊長さんの助言もあり、急いでベ❘ス内の売店で今までに見たことのない大きなウェットティッシュを十箱程買いました(ハンドタオルより少し大きい)。

 今日はともかく慌ただしい一日でした。

 お疲れ様、と自分にいいながらこの記事を書いています。

 ではおやすみなさい。

      

  デジタルメディア社記者部:如月恵美』

 

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