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いざ択捉島へ

 恵美は真っ暗な早朝五時に東京の航空自衛隊入間基地の入り口に来ていた。

 荷物はすでに択捉島にあるため、身分証や様々な書類が入っているだけのにショルダーバッグという軽装だ。

 入り口で身分証を提示後、あっさりと基地内へ入れた。

 ニ週間前にマイクロチップを後ろ首に埋め込んだため身分証提示はあくまで形式的なものだからだ。

 空自隊員に連れられ入り口近くの建物の会議室に通され「少しお待ちください」と、言い残し案内してくれた隊員は消えた。

 会議室には防衛省の説明会と同じメンバーがそろっていた。恵美はその中に笹木を見つけ隣の席へ座る。

 「おはようございます」

 「・・・ああ、恵美か。おはよう」

 恵美の挨拶笹木には眠そうにあくびをしながら答えた。

 「ポラロイド無事に届きました。ありがとうございます」

 「まあ役に立つといいな。ところでガムか何か持ってないか?」

 「いえ、持ってないです」

 「そうか」

 笹木は「誰か来たら起こしてくれ」といいテーブルに顔を伏せて寝息を立て始めてしまった。

 しばらく経ってからドアがノックされ一人の隊員が入って来た。

 「調査隊広報官の原邦人一等陸尉です。

 これより択捉島行きの輸送機が出るまでの一時間、今後一週間の詳しいスケジュールをご説明させていただきます。

 ご不明な点があったら質問してください」

 そういい原一等陸尉が説明を始める。恵美は慌てて隣のテーブルに顔を伏せていた笹木の体を揺らして起こす。

 「まず皆さんは全員一緒で行動するのではなく、我々が選定した部隊と共に択捉島および新大陸で行動を共にしてもらいます」

 「寝泊まりなどはどうなるのですか?」

 「今日から寝食全て配属部隊と共にしてもらい、食事も同じものです。内陸部への遠征調査の場合は車両もしくはテントになります、それ以外は拠点であるベースでの宿舎です。 輸送機が択捉島に到着するのは・・・そう四時間後の十時前後です。

 到着後は配属部隊との顔合わせとあなた方から送られてきた私物、こちらからの支給品の確認を行ってもらいます。

 終わる頃は一二時頃でしょうから昼食を挟み、支給品についての使い方などの説明を受けてもらいます」

 「支給品の使い方というのは」

 「ガスマスクや医療品の使い方などです。予定通りなら夕方には負傷時の応急処置の仕方を受けてもらいます。

 そして明日の夕方にベースを出発し五日間、内陸調査に参加してもらいます」

 「取材規約を見ましたが記事を送る場合はどうなのですか」

 「基本的にはいつでも送信して構いませんが、新大陸においては二時間程日本との通信が途切れます。細かい決まりごとは配属先と話し合って下さい」

 一通りの説明を受け、恵美を含めた記者たちからの質疑をしてたらすぐに一時間経った。

 そして最後には二〇人の配属部隊が発表された。

 恵美の配属先は調査隊第一普通科中隊第二分隊だった。

 「我々からの説明は以上になります。何か質問は?」

 「いえ、ありません」

 「ではそろそろ輸送機へ向かいましょう。ああ、それと如月恵美さん」

 全員が立ち上がり会議室の外へ向かう中、原一尉が呼び止め恵美へ近づいた。

 「何ですか?」

 「あなたの配属部隊である第二分隊にはWAC、女性隊員が医官を含め五人いる分隊です。

 女性特有の問題が生じた場合、WACを通して調査隊本部へ言って下さい」

 「分かりました」

 そういうと恵美も荷物を手に持ち部屋を出た。

 外はまだ暗く滑走路へ向かうと、駐機場に灰色のC❘2輸送機が後部ハッチを開いて駐機してあった。

 四基あるエンジン全てかかっており飛行機のエンジン特有のかん高い音を出している。

 スロ❘プになっているハッチから機内に入るとエンジンで何も聞こえなくなった。

 機内に中央には人丈ほどある貨物があり両側には人が横一列に座っている。

 少ししてフライトス❘ツを着た空中輸送員、ロードマスターが近寄って来た。

 手には持っていたヘッドセットを渡し仕草で頭につけろという。言われるまま付けると雑音が半減され『聞こえますか』と声がヘッドセットから聞こえてきた。

 「はい。聞こえます」恵美がマイクを口の近くに持っていきそう返す。

 『民間人の方はこちら側に座ってください』

 そう指した左側のシートには恵美と同様にメディアの人間がすでに座っており、反対側には原一尉や倉木陸曹長といった自衛官が座っている。

 『何かあったら知らせてください』ロードマスターはヘッドセットを指しながらそういうと恵美から離れ仕事に戻った。

 口を開け寝ている笹木の隣に座り。恵美がしばらく窓から外を見ていると『ハッチを閉じます』とヘッドセットから声が聞こえ、後部ハッチがゆっくりと閉じられた。

 機内を照らしていた灯りが白から赤に変わり、エンジン音が一段と高くなり緩やかに動き出した。

 滑走路に移動し一旦停止したのちに一気にエンジンの出力が上がり、徐々に速度が上がっていき離陸した。

 水平飛行に移り恵美は早起きしたのもあってすぐ笹木と同じように眠りに落ちた。


 『・・・ください、起きてください』

 「は、はい!?」

 いきなり肩を叩かれ一瞬で目が覚め、驚きながら恵美は返事をする。

 目の前には離陸するときにヘッドセットを渡してくれたロ❘ドマスターが立っていた。

 『まもなく択捉島上空に到着します。十分後には天寧(空港)に着陸しますが、その前に物資を投下します。

 その際、腕などは出さないでください』

 「あ、はい。分かりました」

 ロ❘ドマスタ❘は注意するとハッチの方へと向かい、それと同時に後部ハッチが開く。

 そして強風が機内へ吹き込んできた。開け放たれたハッチから見えた外はすっかり明るくなっており、眼下には時折雪が積た森林が見えた。

 ロ❘ドマスターはハッチ周辺と投下物資の上に載っているパラシュ❘トも確認し、投下の工程に問題ないかをチャックする。

 しばらくして確認し終えたのか物資から離れ窓際により、そうしたらハッチの上に付いている信号機のような赤いライトが点灯する。

 そして赤から緑に変わった瞬間、恵美の目の前にあった物資がゆっくりと後部へスライドしていハッチの外へと落ちていった。

 少し経ってからパラシュートが開き、落下速度が落ちゆっくりと地上へ落下していくのが見えた。

 ロ❘ドマスタ❘はそれをしばらく見つめ、口元のマイクに向かって何かいいハッチが閉じられた。

 ほどなくしてヘッドセットから『当機はまもなく天寧空港へ着陸します。シ❘トベルトを締めてください』とアナウンスが聞こえてきた。


 恵美が降り立った天寧空港、ロシア名ブレヴェスニク空港へ降り立った。

 天寧空港は海岸沿いにポツンと空港だけしかなく、周りには海岸と草原しかない。

 空港といっても滑走路二本とまあまあ大きい二階建ての小さな建物しかなく、近くには追加で何かを建設をしている。

 恵美たちが乗って来たC❘2は建物の近くに停止し、ハッチが開かれロ❘ドマスタ❘が降りろと指示する。

 C❘2はエンジンを停止させずアイドリングしており、恵美たちと入れ替わりに自衛官や数人の平服姿の人間が乗り込む。

 恵美たちが降りて五分も経たない内に緩やかに滑走路端まで移動し飛び立ってしまった。

 交代でC❘2に乗り込んだ人間たちが乗って来た陸自のトラック二台に、恵美たちは荷台に乗り込み全員が乗ると建物の方へと動き始めた。

 トラックは建物の入り口で停車し、恵美は男性隊員の手を借りて荷台から降りた。

 中へと案内され入り「メディアの方はこちらに集まって下さい」とC❘2と一緒に択捉島へ来た原一尉が呼びかける。 傍にはダンボールが山住になっている。

 そして順に名前が呼ばれダンボールが渡され、恵美も名前が呼ばれ大きなダンボールが渡される。

 そして支給品が全て揃っているかを確認するため、外に設置された大型テントに全員向かった。

 テント内の地面にはブル❘シ❘トが敷かれており、その上にダンボールの中身を一つずつ出して確認することになった。

 陸自隊員がリストを読み上げ恵美含めた記者たちも、声に出しながら一つずつブル❘シ❘トの上に並べた。


 ガスマスクとフィルター(フィルタ❘予備含め三個)、レベル3防護服(服の上から着るタイプ)、防刃ベスト、新大陸東沿岸部の地図、コンパス、サバイバルナイフといった身を守る物。

 抗生物質や伝染病に感染した場合に打つ対伝染病薬(即効性)、出血剤、包帯といった治療薬品。

 歯ブラシや下着、非常食といった日常用品の数々がダンボールに入っていた。

 そしてこれらを一切合切詰め込める陸自の使っているオリーブブドラブ(OD)色のリュックが支給された。


 全てを詰め込むとOD色のリュックは一五キロ近くになり、私物も入れれば恐らく二〇キロ以上になるだろう。

 二〇人全員に支給品の確認が取れたのは予定通り一二時頃だった。 

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