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一次、二次調査報告

 六月月上旬。

 一次調査が出港し予定通りに海洋調査と空気を採取し分析を行った。同時並行で安全な航路の選定と海図作成も行った。

 当初一次調査には二、三週間かかると思われていたが、特に海水や生物、空気に日本周辺海域との変化が見られず一週間で終了した。

 日本海に入る前に出発時と同じく念のため船体の除染し一次調査船団は日本に帰還した。

 帰還してから一月後の七月中旬には新大陸から八〇〇キロまで接近する二次調査船団が予定より早く出港、除染は行わず直接向かった。


 護衛艦から射出された飛行機タイプのドローンによる新大陸の上空からの調査が行われた。

 当初はヘリ型ドローンによる新大陸の土壌や植物を採取する計画だったが、飛行機型と違い新大陸と調査船団を往復できるヘリ型ドローンがないため中止になった。

 この一連の調査活動は調査隊員の手によって撮られた映像や画像が公開された。特に注目を集めたのは、ドローンによる新大陸の映像なのはいうまでもない。

 確かに衛星からの映像や画像は百以上も公開されているが、どれも画質が悪く十数年前のゲーム映像にしか見えなかった。

 湾岸戦争時に米軍がメディアに対して公開した戦闘の映像は、攻撃機がイラク軍の軍事施設を爆撃する映像だけだった。しかも映像は暗視カメラで撮影されているため、緑色か白黒の世界しか映っていない、しかも殆どが動かない静止目標ばかりで現実味が皆無だった。

 そのためゲーム戦争と揶揄された。

 これまで衛星の映像や画像はどこか作り物の感がぬぐい切れなかった、そのため新大陸は存在しないのでは?と思う人間も多くいた。

 だがドローンから送られてきた映像はテレビなどで流れる空撮映像となんら変わらない画質だ。

 鳥や馬といった地球に存在した動物が映っていた、そして肝心の新大陸の住人も鮮明に捉えていた。

 人間のように二足歩行で服も来ている。さらに道具を使い田畑を耕していたり、川で洗濯のような行為をする集団、小さな個体(子供)が走り回っていたりするのが映っていた。

 白人とさして変わらないように最初は見えたが、映像や画像を拡大すると殆どの個体の耳が目に見えて長いのだ。

 ネットやマスコミは巨人と同様に北欧神話や俗に言う、ファンタジーの世界に出てくる「エルフ」だと騒いだ。エルフの中には肌が黒い個体「ダークエルフ」がいくつか確認された。

 エルフは耳以外人間と全く変わらないが、人間と全く違う形をした知生体も発見された。

 ハッキリといえば狼男である。

 全身に獣のような毛がある上、顔が明らかに狼かイヌ科なのだ、当然耳も顔側面ではなく頭部についている。何もイヌ科ばかりではなく猫や豚、牛、爬虫類と様々だ。

 そしてどれも人間のように二足歩行で歩き、人間のような手があり指も五本ある。

 伝説やネット曰く「獣人」というらしい。

 二種以外にも神話等に出てくる生物が無数に確認したのだ。

 衛星で捉えたゴーレムは体が岩石や土で作られていたが、ゴーレムと違い肉体を持ち上に布の服を身に着けエルフや獣人とコミニケションをしているような映像や画像があった。上半身が人間で下半身が馬という、ギリシャ神話に登場するケンタウロスが草原を颯爽と駆けている。

 その先に十数メートルはあろうトカゲのような四足歩行の生物が走っている。

 他の場所では鷲顔で胴体がライオンのグリフォンが飛んでいたと思ったら、急降下して地上にいた生物を足で鷲掴みにしている。

 ハリウッドが作ったファンタジー映画のような映像を、ドローンが無慈悲に現実として撮影していた。

 ドローンが飛行しているのは六〇〇〇メートル上空で、しかも大空に溶け込むような迷彩が施されているため肉眼では(少なくとも人間)到底見えるものではない。

 エンジン音も地上には聞こえない。

 ドローンによる新大陸の空撮が始まって一週間、任務を終えたドローンが船団へ帰投しようと陸地から海上へ出た時、レーダーが後方に機影を捉えた。

 「後方に機影あり、IFF(敵味方識別装置)に反応なし。アンノン」

 調査船団の一隻にドローンのコントロールルームが置かれている。

 ドローンを操作する人間は主に二人いる。一人は操縦もう一人は攻撃やカメラの操作だ。

 カメラを操作する隊員が事務的に事実を述べた。

 「接触までの時間は?」

 「接触まで五分」

 「ドローンの現高度は」

 「一万三〇〇〇フィート(四〇〇〇メートル)」

 後ろに立っていた指揮官の質問の間にもアンノンが距離を縮めている。

 食われる、そう元パイロットの指揮官は思った。

 四分後、アンノンの姿を機体下部に取り付けられていたカメラが捉えた。

 「ドラゴンか・・・」

 赤外線で映し出されたアンノンはファンタジーの定番であるドラゴンだった。

 大きな翼二枚を羽ばたかせジリジリ距離を詰めてきている。ドローンはあくまで偵察のため自衛武器や攻撃兵器は積んでいない。

 夜のため赤外線カメラのため色まではわからない。

 ドラゴンはドローンより少し高く飛び距離を保っている、どうやらドローンの様子を窺っているようだ。

 「餌とでも思っているのでしょうか?」

 「縄張りに入ったから怒って追いかけてきたとかもありうる」

 二人の操作員がそう話していた次の瞬間、ドラゴンが一気に加速し、鷹や隼のように足でドローンに襲い掛かった。

 ドラゴンの足はドローンの胴体程もある、その足が数百キロの速度でドローンの片方の翼にぶつかったのだ。翼はあっさりと根本から折れ、ドローンはクルクルと回転しながら海へ墜落した。

 「ドローンの墜落を確認」

 「最初の損害がドローンというは分かっていたが、まさかドラゴンとはな・・・」

 この一連の映像は例に漏れず公表された。様々な議論を呼んだのはいうまでもない。 「―――このドローンを襲ったドラゴンタイプの大きさは推定で十メートル、翼を広げれば二〇メートルにもなるでしょう。巡行速度は三五〇キロ前後であり、短時間なら四〇〇キロは出せると推測されます」

 会議室の壁にあるスクリーンにはドローンがドラゴンに襲われた映像流れている。

 分析結果を説明しているのは情報庁分析部からやって来た分析官だ。そして説明を受けているのは古賀総理を含めた大臣たちだ。

 「なぜドローンに攻撃を?」

 「未知の生物なので断言はできませんが、地球にいる鳥類と考えれば説明はできます。

 ドローンが縄張りに侵入したため、ドローンに興味が沸きちょっかいをかけた、獲物と勘違いしたなどです。あくまで推測です」

 「それでこのドラゴンは“処理”可能なのかしら」

 佐紀防衛相のいう処理とは殺せるかどうかだ。

 その質問に対して分析官は首を振りながら答える。

 「映像だけでは“はい”も“いいえ”ともお答えしかねます。 しかし足による攻撃力は映像の通りに戦闘機や車を大破させる威力を持ってます。

 もしかしたら戦車なども持ち上げる力もあるかもしれません。確実性をお求めになるならドラゴンに対して様々なテストを実施することでしょう」

 「国民の反応は」

 「公開した映像や画像の中では一番注目を集めています。 同時に解像度の悪さもあいまって事実か嘘かの二つに分かれています。ドラゴンに関しては半信半疑といったところです」

 「ご苦労、退席してくれ」

 それからしばらく佐紀防衛相や他の大臣からの質問に分析官は一つ一つに答えた。そして質問がなくなったのを見て一清長官が分析官に声をかける。

 一清長官の言葉に分析官は一礼し会議室から退出する。分析官が退出したのを確認し一清長官が古賀総理に提案をする

 「調査はすでに八割がた完了しています。調査隊本隊の準備のために予定を繰り上げ帰還させてはどうでしょうか」

 「理由は」

 「本隊の準備も乗り込む船を残して完了しています。

 それに空からの調査で分かることはもうありません、これ以上は上陸しての調査が必要になります」

 「繰り上げるということは上陸調査も?」

 「いえ、上陸調査は予定通りに一月中旬に行います。

 繰り上げは船団の休養も含まれています。彼らは場合によって一年以上向こうで過ごすのですから、少しでもストレスをなくしておかなければ」

 ソマリアへ海賊対策として護衛艦を派遣した際も、ストレスのため飛行機で隊員交代をしていた。だが今回はそれが出来ないどころかもう一理由があった。

 何らかの病気に感染し調査隊全体に広がった場合、新大陸に置き去りにすることが最初から決定しているのだ。

 感染しなくとも新大陸に降り立って人体に異変が生じないかも調べる。体のいいモルモット、米国が核実験で兵士たちを使い放射能が人体にどんな影響が出るかを調べたのと同じだ。

 調査隊本隊はそれと同じで、最低でも半年は日本へ帰れない、最悪二度と。各船には警備として陸自隊員が常駐するが、その部隊は佐紀防衛相の勅命でもしもの際は船を爆破しろと命令を受けている。

 これらの事実を知らされているのはほんの一部で、調査隊の指揮官さえ知らされていない。

 「私も隊員らのストレスを減らすためにも調査の繰り上げを指示します」

 佐紀防衛相も一清長官を支持する。

 古賀総理は少し考えたあと繰り上げは妥当と判断したのか頷いた。

 「繰り上げに反対の方は――――いませんね。では二次調査隊を呼び戻してください」


 九月上旬、二次調査隊は日本へ帰還した。そして九月中旬、海自の呉くれ基地には第三次調査に参加する八隻の艦船が集まった。

 基地内には調査に参加する陸自の車両が「おおすみ」へ次々と積まれていく。「おおすみ」の近くには同型艦である「しもきた」が停泊している。そちらにへも車両は積まれていくが少ない。「しもきた」は十月に行われる上陸訓練のために停泊していた。

 その近くには「おおすみ」より一回り大きい貨物船が停泊している。

 貨物船には自衛隊車両や人員ではなく白いコンテナが慎重にクレームで積まれている。

 白いコンテナの中には最新の医療器材に分析機材が入っている。

 この船は第一、二次調査にも参加した船で海上での感染病や生物の分析を海上で行うために政府が用意したものだ。

 この貨物船はたまたま寄港していた外国の貨物船だった、しかし肝心の所有会社と乗員が消えたため港を転々として飼い殺し状態だった。

 本来ならそのまま解体か民間への競売にかけられる寸前で新大陸が出現した。

 同時に大陸にはペストが蔓延していると分かり、政府が買い取り改造を施した。

 例の黒船にあった大量の死体を検査するため(死因がペストと分かる前)に筑波のBSL-4に運び入れる際、付近の住人に限らず全国から「もし強力な病気が広がったらどうするのだ」という非難を受けた政府は必要なことだと押し切り、乗組員の死因は治療可能なペストだということが分かってこの件は落ち着いたが、再び大陸の生物や菌を持ち込むのは世論が反対するのは目に見ていた。

 元々BSL-4施設は地元住人からの反対が強く休み休みしか稼働できていない。

 そのため年中フル稼働できる場所に移転する計画が持ち上がった。

 予定地に上がっているのは千歳列島のいずれかが検討されている。しかし新たなBSL-4が完成するまで事態は待ってくれない。

 だからといって既存の施設の使用は反対があるため連続稼働が難しい。

 そこで新たなBSL-4完成までの繋ぎとして情報庁が提案したのが海に浮かぶBSL-4だ。陸地と違い海上ならば万が一ウィルスが漏れ出しても大丈夫な上、今後新大陸に調査隊を送るならばすぐにでも治療や分析を必要とするだろう。

 その際にいちいち本土へ送るのではなくその場で分析や研究が出来た方がいい。

 最初は一からの建造が考えられたが、時間がかかり過ぎる上に巨額の建設費が予想できたため、すでに存在する貨物船を改造した船こそ通称「BC船」だ。

 病院船同様に船体が全て白一色に統一されている。

 準備が着々と進む中、肝心の調査隊の人員は三分の一程度しかそろっていない。

 参加メンバーは最低人員を残し交代で休暇が与えられていた。家族や恋人、同僚と過ごす者もいれば一人で過ごす者、することもなくボーっと過ごす者。

 自分たちとは全く違う生物のいる未開の地という恐怖を忘れるためギャンブルや風俗に通い詰める者もいた。独身隊員の多くは実家へ帰省する隊員が多かった。

 

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