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新大陸調査隊 

 国民投票の結果が発表されて三か月、政府は新大陸を調査するため官民合同で構成する「新大陸調査隊」創設を発表。 新大陸調査隊(以降は調査隊)は文字通りに新大陸を調査するための組織だ。中核を担うのは自衛隊で、そこに民間が加わる。

 創設発表と同時に年内に新大陸までの航路調査で、主に海図の作成と海水成分や生物調査することを発表した。

 日本が外国との貿易をするようになり、外来生物が日本に輸入されたもの意図せず付いてきた生物がごまんといる。

 身近なところでは池などにいるブラックバス、最近ではヒアリが巷を騒がせた。

 外来生物とは殆ど繁殖性が高い上に寿命が長いため日本の生態系を殺し、日本種にとって代わった外来種は数えきれない。

 人為的な流失を除けば地上の生物は主にコンテナや木材などにくっついて日本へ来るものが多い。水生生物は主に魚を思い浮かべるだろうが貝類も含まれている。

 殆どのコンテナや貨物船という大型船はカラ荷や積載量が少ない際にはバラスト水、つまり水を船体に注水し一定の重さをつけるものだ。

 その時に水に紛れて魚や貝類その他のプランクトンなども吸い込んでしまう。そして目的地に着き荷物を積み込むためバラスト水を放出する、こうして外来水生生物が侵入してくる。

 この逆もあり得る。日本の生物(外来種)が調査隊の船舶に付着、新大陸に接近し新大陸近海で離れた場合、最悪新大陸の海洋生物の生態系を崩しかけない。

 そのため第一調査隊は一旦領海内で停船して海上で船体除染をしてから向かうことになっている。

 船体除染といっても人間が乗る甲板だけではなく、船底(甲板の下つまり海の中)も掃除してから向かうことになっている。

 第一次調査隊の編成は護衛のため海自の護衛艦一隻、海保からは海図作成のための測量艇一隻、空気・海水・生物の調査するための機材一式積んだ改造貨物船一隻、計三隻が第一次調査隊の編成だ。 


 当初は海保と民間だけの予定だったが、海自が待ったをかけた。


 自衛隊の攻撃兵器予算は運用にではなく、いつでも使えるように保存それも一握り分の予算しか下りない。

 空自も輸送機やヘリ、救難機を除き稼働しておらず、二〇〇機あった戦闘機は一機も稼働していない。

 しかし自衛隊の中でも特にひどいのが海自だ。

 海自の保有する艦艇の八割以上が戦闘艦艇である。

 軍艦という船は作るのもそうだが維持にも膨大な予算を要する。旧日本海軍は国家予算の数年分ともいえる予算を使い艦隊を建造した。

 海自が保有する艦艇は今では四〇隻にも満たない数しか動いていない。

 その四十隻も補給艦といった非戦闘艦で、戦闘艦の殆は港に飼い殺し状態だ。八年前に自衛隊が脅威といっていた国が全て消え脅威は他国から自国民となっている現状、自衛隊の兵器の殆どは無用の長物と化している。

 新年号一年、二〇一九年に予定されていた防衛費は過去最高の六兆円が予定されていた。だが第二地球へ来てからは防衛費は半分以下の二兆円に激減され、今の予算配分の殆どが陸上自衛隊だ。

 陸自の場合、戦車や攻撃ヘリこそ予算はないが、治安出動が頻繁に行われていたので小銃や弾薬といった小火器の予算が歴代で一番多い。

 空自も新島といった開拓地へ物資輸送などで予算が陸自よりは目減りするが一定の予算が下りている。だが海自の場合は八年前の予算は一兆六〇〇〇億円だったのが、今では雀の涙程度だ。

 そのため輸送任務が消えた場合さらに予算が減らされる、それどころか自衛隊強いては海上自衛隊の解体論がさらに強まるのは誰にでも予想できた。

 これに追い打ちをかけるかのような計画が政府から発表された。


 政府は近い将来(二〇〇年先)にエネルギー・鉱物資源の枯渇に備え、存在することは判明していたが手つかずだった海底資源の開発計画を発表した。

 具体的にはS建設が少し前に構想した未来都市を元にした計画だった。S建設が未来都市構想で考えたのは赤道沿いに海上都市・移住施設・農業施設・海底採掘施設の四つを備える巨大人口島だ。

 技術的には可能だが構想止まりで、作る際は国家がいくつも集合しなければならない程の大事業なのだ。

 過去の原子力ブームの際にさまざまな雑誌で掲載された原子力により動く艦船や飛行機、鉄道、車両が動く未来図と同じだ。

 当然だが原子力を動力にしたのは飛行機と艦船以外にない。政府は資源確保の名目で発表したが本音は成功してもしなくてもどちらに転んでもよかったのだ。

 真の目的は日本工業しいては 経済を活性化させるためのカンフル剤なのだ。

 そして巨大人工島の警備を任されたのが海上保安庁だった。

 国土交通省の外局(事実上の独立組織)である海上保安庁は、終戦から三年後の一九四八年にGHQからの指示により創設された。そして近年有名になった朝鮮戦争の際に機雷除去任務をしたのも海上保安庁だ。

 旧日本陸海軍の中の悪さは有名だが、同じくらいに海保と海自は中が悪かった。海保と海自の中の悪さは創設当時の隊員の出身が大きく関わっている。

 創設当初こそ海保は元海軍出身者が大多数を占めていたが、五二年に海自の前身組織である海上警備隊が設置される。そして二年後、防衛庁が創設され海上警備隊は海上自衛隊に吸収される。

 この時から大きな溝ができた。

 海上保安庁には海軍出身者も残ったが大多数が高等商船学校(今の東京海洋大学)、つまり民間の船乗りで構成された。対して海上警備隊(海上自衛隊)はほぼ百パーセントが海軍学校出身者だった。

 エリート意識がやたらと高い上に海軍では民間船の船員を下に見る風潮があった。

 海上保安庁の持つ艦船の総数は四五五隻そして大雑把に分けて二種類ある。

 一つは陸地から離れた海上で運用する巡視船、もう一つは救助や湾内の警備活動、調査といった艦船だ。そしてこの陸地から離れた巡視船が大きく関わっている。

 何と巡視船の三五パーセント以上の巡視船が既に耐久年数を超えている、つまり老朽化が来ており船によっては限界に来ている。

 そして七年前までは尖閣諸島といった領土問題の現場で海上保安庁の中・大型巡視船の役割は日に日に大きくなっていた。

 そして対する中国側の海警は経済力にものを言わせ大型の艦船を尖閣諸島海域に投入していた。

 当然海上保安庁は新型艦船を就役させていたが、その就役速度はとても遅い。そして艦船もそうだが海上保安庁は圧倒的な人手不足と予算に悩まされていた、広大過ぎる日本の領海をたった一万三〇〇〇人ちょっとで活動しているのだ。

 一応だが警察官は二六万人、海上自衛隊は四万五〇〇〇人だ。

 両者に至っては海上保安庁と違い潤沢な予算が与えられている。早い話、海上保安庁は設立当初から予算不足と戦っており貧乏な組織なのだ。

 だが政府の掲げる海上プラント警備でそれが大きく変わった。

 このプラントの警備全般を担当することになったのが海保なのだ。そのため老朽化した巡視船の総入れ替えをする、その総数は中型巡視船だけでも一五〇隻以上。

 小型・大型も含めると二〇〇隻以上になる。つまり海保の所要な艦船の総入れ替えだ。

 海上保安庁へのテコ入れは新造艦に限らず人員と予算の増員、増額だった。まず海上保安庁の七年前の予算は過去最高の二三〇〇億円から六〇〇〇億円と二・六倍近くに増額された。 

 今や武装面を抜けば海上保安庁は海上自衛隊を上回る規模になっている。敵をなくした海自は敵か活躍する場が欲しかったのだ。

 そのため是が非でも国民に活躍をアピールができる第一次調査隊の護衛のポストを取りたかった。

 古賀政権では新大陸が現れる前、自衛隊縮小をする予定だった。しかし新大陸の出現により紛争の危険性が出てきたため、自衛隊縮小は当分見送られることになった。海自幹部の強い要請で調査隊の護衛ポストを得ることができた。


 調査隊の細かいスケジュールは年内に行う第一次調査、新大陸までの海図作成と海水安全調査。

 二次、安全な航路が確認され次第新大陸近海まで進出し海図作成と目視による新大陸の確認。

 二次調査ではドローンで空から新大陸の陸地を調査。

 そして早くて新年号十一年つまり二〇三〇年まには上陸調査を行うとした。

 新大陸の調査日程が決まり国内とくに自衛隊が大急ぎで準備を開始した。第一、二次には海自と海保および民間の研究機関だ。第三次が陸自の出番だが、どういった編成をするかで防衛省内で議論になった。

 新大陸に上陸する部隊は最大でも七〇〇名という制限がかけられた。政治的観点から編成を進めれ内陸部を調査する部隊の最大火力を誇るのは車両搭載の機関銃だけ。

 魔法使いに関しては衛星で確認した限り、ロングレンジが短いため脅威になりずらい。

 小銃かそれ以下の火器として対処すれば問題ない、と防衛省は判断した。問題はゴーレムやドラゴンといった大型生物であり、どれほどの強度を持っているかわからない以上、大型兵器の運用を考えた。

 だが政府はこれら大型兵器の運用を却下した。


 政府としてはSF映画に登場するような侵略者として描かれるエイリアンになりたくなかった。

 あくまで最初の接触は穏やかに接触したい考えだった。ドックに放置されている米海軍の原子力空母を持っていこう、という提案も出た。

 当然相手にされるはずもなく(提案者は海自)却下された。米海軍の艦艇は補給艦と強襲揚陸艦を除いて全てドックに放置されている。

 空母に積まれていた艦載機は降ろされ空自の管理下にある。他の米艦艇に積まれていた武器弾薬も全て降ろされている。

 陸上兵器がダメなら輸送艦に攻撃ヘリを積んでは?とい意見も当然あった。

 攻撃ヘリに限らずヘリ全般はかなり威圧感を与えると考えられたため破棄された。護衛艦の搭載兵器も極めて射程距離が短く、沿岸部までしか届かない。

 ミサイルの場合は対艦、対空の二つしかなく対地ミサイルは海自は保有していない。

 これは自衛隊の専守防衛思想であるからで、対地ミサイルや爆撃機、爆撃機などは攻撃型兵器(?)とされ導入されてこなかった。そこで悩んだ末に出した案は至ってシンプルなものだった。

 護衛艦にこれまで導入されてこなかった対地ミサイルを搭載するというものだった。搭載するミサイルはドックに係留されている米海軍の艦艇に積まれていたトマホークミサイル。

 トマホークミサイルは巡航ミサイルと呼ばれるタイプのミサイルで、速度が落ちた変わりに射程距離と命中精度が向上したミサイル、といった感じだ。

 九一年の湾岸戦争において実戦投入され、ゆっくりと飛翔するトマホークの姿がカメラに数回撮られた。

 もっも命中精度をグンと上げる要のGPSがないため多数のドローンを飛ばし誘導しなければいけないのと、目標までの到達時間が長いので即応性に欠けた。

 だがそれでも威力は個人携行や車両搭載兵器と比べれば段違いだ。

 このトマホーク搭載案は承認され、護衛艦が搭載するミサイルは近・中距離対空ミサイルとトマホークの二種になった。

 未知の水中生物に対しては短魚雷と主力対潜兵器を退いていた爆雷の二種になった。


 最終的に決まった第三次調査、自衛隊の編成としては

 海自

 DD―101   むらさめ

 DD―118   ふゆづき

 LST―4001 おおすみ

 LST―4002 しもきた

 AOE―425  ましゅう

 以上の計五隻。

 DDというのは汎用護衛艦、LSTがドック揚陸艦で戦車や車両を搭載が可能で、後部にあるウェルデッキにエアクッション艇(LCACエルキャック)を二艇搭載している。これは大型のホバークラフトで戦車や車両・人員を乗せたまま陸地に乗り上げることができる。

 LCACでピストン輸送して車両や人員を陸地に降ろす、AOEは補給艦である。


 陸自

 第一空挺団と水陸機動団を中核とした一個大隊(六〇〇名)、およびトラックや装甲車などの(りゅう弾砲や戦車といった大型兵器を除く)車両多数。


 民間

 貨物船三隻と科学者一二〇人、その他民間人五〇〇名。

 科学者以外の民間人は主にベース建設や食事に宿舎の掃除、洗濯、風呂といったベース運営に従事する労働者たちだ。


 第三次調査隊の最終編成は船舶八隻、人数は一四〇〇名以上となった。



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