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僕らのプラクティス 4月中旬

作者: 暁之犬
掲載日:2018/04/26

行きの道は生憎の雨だった。

皇居のすぐ横の大きなビルを目指して、私は近道を通るため人気のない駐車場を少し大股で進む。

晴れた日には平らに見えるコンクリートも、実はでこぼこで斜めに歪んでいるのだと、大きな水たまりと小さな川を避けながら思う。

白いローファー風のジェフリーキャンベルのシューズのつま先に雨が染み込んでいた。

雨を避けるように走り込んだビルの一階の入り口で、傘の水気を切ってベンチに向かう。

自分が作ってきた資料と、今日のアジェンダを頭の中で思い返す。

昨年末にオープンさせたWEBサイトの運用更新が主な議題だが、今回のクライアントが担当していない部署に関わる話も出てくる。主に内部のシステム的な部分だが、大企業になればなるほど縦割りの要素が増えて案件は混迷を極める。

私がこの1週間頭を悩ませて作った資料の弱いところがふと頭をよぎったが、あまり心配はしていなかった。

この資料を作ったのは私だが、三度の修正を指示したのが鷲尾さんで、その鷲尾さんが今日のアジェンダを進めて行くのだ。

私はただ、議事録をとり、時々口を挟むくらいで良い。

鷲尾さんはなんだってうまくやってしまうのだ。私が心配することなど一つもなかった。




帰りの道では、雨はほとんど降っているのも見えないくらいになっていた。

鷲尾さんが隣で今日のミーティングで決まったことについて滔々と語っている。

私は時折「そうですね」とか「あー、やっぱり」とか「なるほど」とか知ったような相槌を打って、自分が考えていたことと同じことを鷲尾さんが言った時だけ意気揚々と同調しながら自分の意見を述べた。

鷲尾さんは私から意見が返ってくるととても嬉しそうに更に議論を発展させた。

この人は本当に仕事が好きなのだ。やれ昨日noteに上がっていた深津メソッドが、だの別部署の案件でのCRMでは、だのと最新の情報から実際の案件の話まで言葉が流れ出てくるのだ。

私がこの人のチームに移動を申し出たのは、そういうところを好ましく思ったからだった。


霧雨の中ビニール傘の向こうで、ふと太陽の光が出てくるのが見えた。もうじき雨も上がるのだろうか。

降っているとも降っていないとも言えないような雨の午後、川の横の大きな歩道にはスケートボードを練習するストリートファッションの若者と、スズメとカラスの姿しかなかった。

私は鷲尾さんの仕事の話を聞きながら、川と反対側の、細い木が立ち並ぶ1段高い地面にスズメの群がいるのがずっと気になっていた。

10羽か20羽か、それくらいのスズメが大きな水たまりの中でうごめいていた。

隣で話す鷲尾さんに失礼にならないように、時々スズメから目を離して相槌のために彼を見上げると、彼は滔々と語りながらもずっと視線が水たまりのスズメに向いていた。

この人もやはり気になるのだろうか。私はスズメと同じくらい、鷲尾さんがスズメを気になっているかどうかが知りたくなり、スズメと鷲尾さんを交互に見遣る。

彼が今後のWEBサイトの運用について話し始めた時、私たちはスズメの群から2メートルほどの距離にいた。

ここまで来たらはっきりとわかる。

スズメは明らかに水たまりの中で水浴びをしていた。それも、とてもとても愛らしく水浴びをしていた。

水の中で羽を広げバタつかせ水を跳ねさせたり、頭から水の中に突っ込んで小さな頭からお尻までをブルブルと震わせたり、とにかく私たち人間が知っているのと全く同じ方法で、スズメたちも水浴びを楽しんでいたのだ。

鷲尾さんの話が途切れた時、ちょうど私たちの歩みはスズメの真隣まで来ていた。鷲尾さんの顔はもう完全にスズメを見るために横を向いてしまっていた。

私はいける、と思った。彼もまた、スズメを見ている!

「めっちゃ水浴びしてません!?」

「スズメちょーかわいいんだけど!」

鷲尾さんが興奮気味に大きな声を出すと同時に、バサバサと半分以上のスズメが飛び立って行った。

やはり彼もまた、スズメの水浴びに気を取られていたのだ。

「それでさぁ」

何事もなかったかのように、鷲尾さんはまた今後の更新や改修の話を始めた。

雨はほとんど止んでいた。

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