9 両親はけっこう腹黒
コリーナがアルベルト様を見送ったと部屋に戻ってきた。
「そろそろ晩餐のお時間です。お着替えを」
晩餐!? 夕飯じゃなくて晩餐? どんだけすごいご飯が出てくるんだろう。
昼食は緊張しちゃって味がわからなかったら、夕飯楽しみだ。
またも、ぞろぞろと侍女がドレスを持って部屋に入ってきた。
ご飯にこころ引かれて、着替えと言われたのをスルーしちゃってた。
いったい1日何回着替えすんのー。私ジャージで過ごしたいよ。スエットの上下でいいよ。
めんどくさいので、またコリーナに選んでもらう。
うーん。今度は驚かないで、一瞬私を見つめて静かに「わかりました」と言われた。
これ、やばいかも。なんか変だと確実に思われてるよ。
着替えされながら、今後どうしようか考えて、、、ぐおっ、苦しい。
コルセット締めなおされた。
これからご飯なのに、こんなに締められたらご飯入らないよー。
はっ、それが目的? あんまり食べないように。
こんなにスタイルいいんだもん。運動もしなさそうだし。あとは食事節制しかないよね。ジョギングしないよね。アスレチックジムなんてないよね。毎日がダイエットなのね。
・・・・・泣きそう。
ダイニングルームを目指し歩いています。
1歩遅れてコリーナがついてきます、無言で。
うーむむむむ。言ったほうがいいのかな。正直に? いや、いや、記憶喪失で?
私の知りたいことって、協力者がいなくても知ることができるかな。
館のつくり。
あそこへ行け、ここに来いって言われても、わからない。
多分図書室とかあると思うのよね。そこで本を読みたいけど、場所がわからない。
それから国のつくり。
ここなんて国? 王都の名前すらわからない。さりげなく聞けることじゃないわ。
あと一般常識。
元の世界でいえば中世っぽいよね。私じゃ考えられない常識が絶対あると思うのよ。
・・・・・・・・・これ、やっぱり誰かに聞くのが一番だよねえ。1人で手探りだなんて無理だわ。
正直に、いや、記憶障害ってことで相談してみよう。いろんな事が思い出せないって。
でもコリーナはどこまで信用できるかな。
ダイニングルームには、お父様とお母様とエリオットお兄様がいた。
、、、様って、様って、笑っちゃいそう。いやいや貴族のお姫様だもん。ちゃんとしなきゃ。
「エリザベート、機嫌がいいな」
綺麗なハニーブロンドの美中年なお父様。キラキラしてるわあ。
「もう具合はいいの? 無理しちゃだめよ」
美しい栗色の髪のお母様。エリザベートはこの2人の子供だなーって思う。似てるなあ。
「今日アルベルトが来たんだって? それでも機嫌がいいのか」
にやりと笑うハニーブロンドのお兄様。エリザベートそっくり。美青年とはこの人だろう。
「だってアルベルト様は婚約者ですもの。子供っぽいことは止めてちゃんと彼を見なきゃ」
ちょっと取りすました感じで言ってみる。
「ははは。いい事だ。何があってもダルバウト子爵家との結婚はとりやめんぞ、エリザベート。
覚悟することだ」
おっ、お父様の目がきらりと光る。きれいなだけのおっさんじゃなさそう。
アルベルト様の名字はダルバウトっていうのかー。
「その事でお聞きしたかったんですの。前にも聞いたかもしれませんけど、お教えください。
ダルバウト子爵との縁は、当家にどのようなメリットがありますの?」
自分の立場をきちんと把握しておきたいのよ。
貴族の娘って、有力な家との縁故製造機ってイメージあるのよね。違うかもしんないけど。そこに愛はあるのかもしれないけども。そんなイメージなの。
「どうしたんだ、エリザベート! 普通のバカな貴族の娘から、やっとバカが取れたか!」
あっはっはとお兄様が笑う。言うなあ、こいつ。
「こら、エリオット。良いほうに変わったんだ。いじめるな」
お父様がにやりと笑う。・・・・お父様も言うなあ。ちょっと涙目。
「そうだな、今一度話しておこう。」
そう言ってお父様は語り始めた。
没落したダルバウト子爵令嬢と、大商家ベーバラン家の嫡男が結婚し、アルベルト様が生まれた。
アルベルト様が小さいときにお母様が亡くなり、その後子爵は再婚。
そして、2男1女をもうけたが、ダルバウト子爵の系としては届けていないので、子爵の跡取りはアルベルト様だけ。
へー。後を継ぐには、どっかに届け出ないといけないわけね。
「現在ダルバウト家は国で5指に入る裕福な一族だ。実家のベーバラン家の支援だけではあれだけ盛り返すことはできん。子爵の手腕をあなどってはならぬ。
商人ギルドも一目おいているベーバラン商会を実質動かしているのは、子爵だという者もいる」
「どうやってそこまでダルバウト家は盛り返したのです?」
ビンボーがお金持ちになるって大変なんじゃないの。
「おー! エリザベート! お前本当にバカが取れたんだな!」
「・・・お兄様、うるさいですわよ」
ちょっとにらんでみた。すっごい楽しそうに笑ってるぞ、おい。
「ご領地内で宝石加工を始めたのよ。斬新なデザインで、とっても素敵なの! ほら、エリザベートもこの間チョーカー頼んでたでしょう? あの宝石もダルバウトで作られたものなのよ。
ダルバウトの宝石と言えば世界中の女性の憧れね」
にっこりとお母様が教えてくれました。
アルベルト様がプレゼントしてくれた宝石は、きっと自分の領地内で作成された品じゃないかな。
・・・・ものすごくいいものなんじゃないかという気がしてきた。
「そんなダルバウト家ですもの。アルベルト様が小さいうちから、縁談はひきもきらなかったのよ? なのに、ぜーんぶ断ってらしたの。もちろん当家も貴方との縁談を申し込んで断られたのよ」
あらっ。そうなの?
「ところが、ある日突然、子爵からエリザベートをぜひ息子と婚約をと申し込まれた。当家としては断る理由がないから、喜んで縁談を受けたわけだ」
「私は覚えてますよ、父上。王子と一緒に剣術を習う約束をしていて出かける私に、ベスが一緒に連れて行ってと泣いてせがむものだから、しょうがなく城へ一緒に連れて行った。そこにアルベルトがいたんだ。
足が悪いアルベルトは一緒に剣術の稽古をできないから私たちが剣をふりまわしてる間、ずっとエリザベートの面倒を見ててくれた。覚えてるか、ベス?
今思えば、アルベルトはベスを見た瞬間固まってたなあ。一目ぼれってやつだったのかもよ。」
まじで一目ぼれしたのか。
「アルベルトはもてるぞー。婚約者がいるのに、まだ縁談話をもってくるやつらがいる。お前がアルベルトに冷たいってことは有名だからなあ。まあ、ウチの手前、あからさまに話をもっていくバカはいないけどな。
あんまりアルベルトを放っておくなよ。トンビに油揚げをさらわれるぞ」
えー、そんなにもてるの。
ゆっくり私のことを知ってもらって、なんて考えてたけど安心してられないじゃん。
「まあ、そんなにアルベルト様はもてるの?」
にこにこ笑ってたお母様が急に心配になったみたい。
「アルベルトがたまーに、宮殿に顔を出すんだけど、あっという間に貴婦人方に囲まれる。
特に熱心なのが、キュートス準男爵令嬢だ。よだれをたらしながらアルベルトにひっついてるぞ」
「まあ、すごいお嬢さんがいらっしゃるのね。エリザベート、負けちゃダメよ!?」
「エリザベート、彼を逃がすな。何がなんでもだ。貴族令嬢としての手練手管を総動員しろ。お前のお母様が私をとりこにしたようにな」
お父様がにやりと笑う。そしてお母様の手をとって甲に口づけした。
えー、それ、娘に言うことかなー。
「そうね、エリザベート。こんどゆっくり話しましょう。
ダルバウトの宝石を手放すなんて、あさはかな事をしないようにね」
「それがいい。お母様の話をよく聞くことだ」
お父様とお母様が私を見て微笑んだけど、目が笑ってねー。ちょっと怖い。
2人とも、何気に腹黒いぞ。いや、貴族ならお家大事だから普通なのかしら。
でもまあ、そんな有料物件、娘が嫌だっていっても、縁談をなしにはしないわなあ。
納得しちゃいました。
「やっとエリザベートもバカが取れて、アルデール家の娘としての自覚ができたか!」
おお、私の名字はアルデールなのね。エリザベート・アルデール。
って、お兄様、バカバカしつこいよ。あ、前がひどすぎたのか。
「もう1人の娘も自覚を持って欲しいものだ」
お父様が苦虫をかみつぶした顔で言う。
あら、お姉様もバカなの? そんな感じはしなかったけど。
噂をすれば影とはよく言ったもので、ビアンカお姉様が入ってきた。