8 婚約者はめんくい
「ありがとうございます。アルベルト様」
微笑みながら、ソファに座っているアルベルト様の横に座る。
「次にお会いするときは、頂いた宝石をつけたいと思います」
そう言って彼の目を見つめてみた。ああ、きれいな瞳。やさしそうな瞳。ヴァイオレットアイって、初めて見た。情熱的に見つめられたい、、、、また鼻血がでたらヤバいから、妄想やめよう。
「あ、ああ」
アルベルト様が驚いてる。なんで。エリザベートって普通に会話すらしてなかったのか?
「今日はアルベルト様は何をしてらしたんですの?」
ですのっだって。ぷっ。自分でも笑い出しちゃいそうだ。いやいや、一応貴族のご令嬢だしね。ご令嬢。ぷぷっ。笑い出しちゃいそう。
「今日はとてもご機嫌がよろしいのですね。あなたが微笑みかけてくれる」
嬉しそうにアルベルト様がにっこりと笑う。うっおーーーーー! ハートが揺さぶられる。やばい。
あれ、でもそう言われちゃうほど、エリザベートはニコリともしなかったわけなんだ。
「いつもなら、私が王都に来るのは10日に一度ですが」
それ私に会いにですか。すみません。本当すみません。
「エリザベート殿のお具合が悪いとお聞きしてから、一昨日王都まで飛んできました」
・・・っ! ハートがキュンってした! 今キュンって!
「毎日お見舞いに来ましたが、会ってはいただけませんでしたので」
ごめん。意識なかったのよね。それで中身が他人と入れかわりました。なーんて言えないし。
「その間、当家が懇意にしている商会を尋ねたり、運営している孤児院を視察したり」
慈善事業できるんだ。お金持ちなのね。
「私はあまり王都に滞在しないので、なかなかできない事をしていました」
「そうですの。今度ご一緒してもいいでしょうか? 特に孤児院に行ってみたいです」
・・・・・・・とんでもなく、とーーーんでもなく、びっくりされた。えええーーーー。
「あ、あなたが孤児院に興味を持たれたのは初めてですね。どうされたんでしょうか。でも嬉しいです」
そう言ってにっこりと笑うアルベルト様。うわーん。かっこよすぎ。
エリザベートがこれだけ毛嫌いするから、名前だけのビンボーなのかと思ったんだけど違うみたいだし、外見はスペシャルすてきだし、何が不満なわけ。
「ご存知のように、普段王都には父がおり、政治に関することや外国との折衝を行っています。
私は基本自分の領地で管理していますので、なかなかエリザベート殿とお会いする時間がとれません。
あまりお好きではないようですが、よかったら今度領地へ遊びに来てくれませんか。
王都育ちのあなたには田舎すぎて退屈かもしれませんが、私が普段どのような仕事をしているか見ていただきたいのです」
これか。理由はこれだ。エリザベートは田舎嫌いなんじゃない?
結婚したら当然アルベルト様と一緒にいるわけだから、彼の領地に住むことになる。だから嫌がってるんじゃないかなー。
それにしても領地を管理してるって、すごいなあ。年はわからないけど、20歳くらい? つまりは県知事みたいなもんよね。この若さですごい。
で、お父様は東京事務所在住の職員みたいなもん? 身分はぜんぜん違うだろうけども。
「ええ、ぜひ行きたいです。アルベルト様のご領地はどんなところなのでしょうか」
笑顔で承諾しちゃいます。どんなところで育ったのかなー。小さい頃のエピソードとか、写真みたいなー。あっ、写真ないか。
「・・・・・・・・・・・・・。今まで何度もお誘いしていて、やっと承諾いただけましたね」
BINGO! エリザベートは田舎嫌い。
あらっ、アルベルト様から笑顔が消えた。困った。今までと態度が違いすぎるから?
ちょっと待って。
アルベルト様がものすごい私の好みで舞い上がってたけど。
アルベルト様が好きなのはエリザベート。私じゃない。
これって、ダメなんじゃない。黙ってたらいけないんじゃない。好きな人じゃなくなってるなんて。
・・・・・でもさ、エリザベートのどこがいいんだろう。
「アルベルト様、私たちは今婚約しています。そして結婚します。
結婚相手のことを知りたいと思うのは普通でしょう?
私は、結婚する前にたくさんたくさんアルベルト様の事が知りたいです。
今は1つだけ教えてください」
アルベルト様の目を見つめて言ってみた。
お、ちょっと嬉しそうな顔。笑顔ってほどじゃないけど、嬉しそう。
「私のどこがお好きなんでしょうか」
外見は、エリザベートはものすごい美人だと思うよ? 出てるところはバーーーーンとでてるしさあ。多分Fカップはあるんじゃない。うらやましいぜ、こんちくしょう。ウエストは細いし。足は長いし。
でもさ、掛け算もできないバカだよ。しかももらった宝石他の男に貢いじゃうバカだよ。
とんでもない条件付けて婚約者に会おうとしない嫌なヤツだよ。
どこがいいの?
私が言ったとたん、アルベルト様の顔が凍りついた。そして歪んだ。
「はっ、そういうことですか。はははは」
自嘲気味に笑い、突然ソファから立ち上がる。
ど、どうしたの?
「私のことをお好きでないのを知っていました。私のことを知ろうともしなかった。
どんなに嫌なことをされても、婚約を解消しないから、手法を変えたんですね?
私があなたを嫌うように?
どこがいいかですって? 全てですよ、エリザベート。全てです。
初めて会ったのは、あなたが6歳で、私が11歳でしたね。
それ以来、私の全てはあなたのものです!
あなたがどんなに嫌がろうとあなたを手放しませんよ」
私を見下ろしながら、苦しそうにアルベルト様が私に告白した。
とても苦しそうに。
「・・・・・・今日はもう失礼します。次にお会いできるのは10日後ですね」
そう言って、足を引きずりながらドアに向かう。部屋をでようとして、振り向いた。
「思いだませんか、、、、。私たちが初めて会った日を」
そう小さくつぶやいて部屋から出て行った。
コリーナがあわててお見送りに出て行く。
アルベルト様、本当にエリザベートのことが好きなのね。一目ぼれなのね。
あれ? ちょっと待って。
という事は、外見が好きだってことだから、中身がかわってもいいんじゃないかっ!?
私でもいいんじゃない!?
多少強引だけど、そう思うことにしよう。
エリザベートより、アルベルト様とラブラブな生活を送る自信はあるっ!
結婚したらアルベルト様が幸せになるかわからないけど、私は絶対幸せになれる!
エリザベートよりずっと!
エリザベートは16歳だから、出会って10年か。
そんなに長い間、片思いなのね。
すごいなー。
時間もすごいけど、そんなに長い間、嫌がられても嫌がられても好きでいられる気持ちを保てる事がすごい。
どんだけ、エリザベートはアルベルト様好みの外見なんだろう。
アルベルト様、すっごい面食いなんだな。うん。