表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/137

アドバイス

 雪菜が訪れたRINのルームは、優七が使用していたルームとは大きく様相が違っていた。

 場所は草原でも森でもなく――島。といってもそこそこの規模はあり、海沿いに優七達のルームと同様ログハウスが存在。そこから外に出ると、目の前には白い砂浜と綺麗な海が見える――それが、彼女のルームだった。


「ゲーム上では泳ぐのにもスキルがいるんだけど……現実になって以後は、その必要もなくなっちゃった」


 RINはウキウキとしながら雪菜に告げる。格好はパーカーにジーンズとラフな格好。ただ女性向けにデザインされた物で、ブランド物なのだろうと雪菜はなんとなく予想をつける。

 一方の雪菜はセーターにスカート――ただ気温が春先くらいになっているので、コートは脱いでいる。


「水中呼吸の魔法なんかもあるから、溺れる心配もないんだよね……あ、雪菜ちゃんはそういうスキルを持っているの?」

「えっと……わかりません」

「そっか。もし所持していないなら憶えてもいいかもしれないね。あって困るようなものでもないから」


 雪菜は名を呼ばれることにくすぐったさを覚えつつ、「はい」と返事を行った。

 ここを訪れて会話を始めたが、緊張がまったく抜けなかった。その所作をRINも感じているようで、時折苦笑が顔に浮かぶ。


 とはいえ、真正面にある非現実的とさえ言える青い海を見ると、少しずつ緊張も――しかし、代わりに不思議な気持ちとなる。


「雪菜ちゃんは、実際に泳げるの?」


 問い掛けに、雪菜は首を左右に振った。


「そっか……まあ泳ぐにしても気温設定が低いし、それはまた今度ということで」


 今度があるのかと雪菜は気になりつつも、頷いた。

 そこから白い砂浜を歩きながら二人は話をする。内容は、戦いに関すること。


「私は広報課で……プレイヤーは大人になっていない人が多いから、そういった人達を束ねる役目も一応ある。けどまあ、プレイヤーの統制はゲーム上で有名だったプレイヤーが大体している……だから私は、一般の人を安心させるべく宣伝するのを主な仕事としている感じかな」

「宣伝?」

「ほら、警察の交通安全のポスターとか、有名人が広告塔になったりするでしょ? 私はそういった役目。多くの人が知っているから、わかりやすいみたい」

「そうなんですか」

「……興味ある? 雪菜ちゃんだったら、ポスターになっても映えると思うけど」


 首を勢いよくブンブンと振る。その所作にRINは笑い――付け加える。


「さて、そろそろ緊張は解けたかな?」


 言われ、雪菜は小さく頷いた。


「よし……なら、ちょっとだけ小難しい話をしてもいい?」

「はい」


 改まってなんだろうと思いつつ雪菜は言葉を待つ。

 RINは顔を引き締め、重大な話をするかのように視線をじっと合わせる。


「……まだ、戦う意志はあるの?」


 問い掛けに――雪菜は、返答に窮した。

 それは、雪菜自身結論の出ていないことだった。


「……わかった」


 RINは答えを聞かず質問を差し止める。雪菜の抱いている結論を予想できたらしい。


「私は、戦って欲しいとは言わないよ。ただもし迷っているのなら、色々とアドバイスをしておこうと思って」

「アドバイス、ですか?」

「そう……」


 空を見上げる。仮想世界の空はひどく澄んでいて、現実になったとは思えないくらい。


「私は広報課だけど、プレイヤー達の所を訪ねて士気を上げるというようなことをする時もあるんだけど……その中で、戦いをやめてしまった人もいるの」

「やめてしまった……」

「政府側は何も言わないけど、私にそうした人達の発破をかけてくれ、なんて思っているのかもしれないね」


 RINはそこで苦笑する。彼女なりに思う所があるのだろう。


「それで……戦わなくなった人にも色々と理由がある。恐怖があって戦えないというのも、理由の一つにはあるんだけど……その中で、プレッシャーに押しつぶされたという人も結構たくさんいた」

「プレッシャー?」


 聞き返した雪菜に対し、RINは視線を重ね問い掛ける。


「雪菜ちゃんは……レベルが高いよね?」

「そう、みたいですね」

「政府にそう言われ、戦う意志を見せた……だから、政府側も訓練を行う。けど、心のどこかで焦っていない?」


 ドキリとした。確かに雪菜の中には、そういう気持ちも少なからずあった。


「能力の高い人は、高レベルの魔物とも戦うことになる……事件後数ヶ月経った今でもそうした人達に頼らざるを得ない状況であり、そのプレッシャーに押しつぶされてしまうの」


 ――雪菜としては、その心情はわからなくもなかった。自分が人々を守る――そういう自覚が、確かにプレッシャーとなっているのも事実。


「そういう人をたくさん見てきて……政府としては戦ってほしいと強く思っているはずだし、私に説得して欲しかったのかもしれない。けど、何も言えなかった」

「RINさん……」

「雪菜ちゃんもきっと、同じ風に思っているんでしょ?」


 問い掛けに、雪菜も頷くしかなかった。


「やっぱり……きっと、戦わなければならないっていうのが脅迫観念のようになって、雪菜ちゃんを苦しめているんじゃないかな」


 優しく微笑むRIN。表情と話が、雪菜の心に入り込みじわりと響く。


「私は……政府の人がすごく大変なことはわかっているけど……もし戦いたくないのなら、決心がつかないのなら、武器を握るべきじゃないと思う」


 その言葉に、雪菜は無言で佇むことしかできない。


「死ぬかもしれない戦場だから、強い決心がある人こそが、私は戦うべきだと思う……悩んでいる人がその気持ちを抱えて戦場に出て死んでしまったら……」


 その先は何も言わなかった。代わりに、RINは悲しげに空を見上げる。


「ごめん、なんだか抽象的で」

「いえ、その……ありがとうございます」


 頭を下げる雪菜――その時、

 突如、通信が。RINの方からだ。


「ごめん、ちょっと待っていて」


 少し距離を置き通信を開始するRIN。そこで雪菜は小さく息を吐き、自分がどうするべきか考えようとした。


「――え!? そんな……!?」


 だが、それをRINの言葉が遮った。雪菜は不安を抱き――彼女を注視することとなった。



 * * *



 二宮達は高レベルの地帯に足を踏み入れ、何度か危ない状況に陥ったりもしたが、どうにか対応できていた。それにより多少ながら自信もつき、また同行したメンバーもずいぶんと満足げな表情だった。


「俺達、結構強くなっていたんだな」


 誰かがそう口にする――連携が必須とはいえ、ゲーム上でも高いレベルである魔物と相対できるということは、二宮としても良い経験だった。


(まだあいつの背中は遠いが……これを、何度も続ければ……!)


 いずれ――そういう考えが頭をよぎり、ほくそ笑む。


「なあ二宮。とはいえ次からもここを利用できるかどうかは微妙なところだよなぁ」


 この場所に案内した人物が告げる。二宮もまたそれを認識していた――というより、懸念といってもいい。


「ああ……先ほど政府の人間と遭遇したからな。この場所は警戒しているということだろう。魔物のレベルも高いから」

「だよな……次からは、もう少しやり方を変えるか」

「ああ」


 二宮は返事をした後、他のメンバーから魔物が近くにいると報告を受ける。すぐに戦闘態勢に入るよう指示を行い、正面からその魔物の姿を捉える。


 白銀の鎧を持つ騎士――だがその顔は、ゾンビのようになっている。

 さらにその後ろには全身を黒いローブで身を包んだ魔物。上級レベルの魔物だが、先ほども遭遇した。二人一組の魔物であり、二宮達にも十分対処できる。


 ――ここで、相手の魔物が二体だと判断した二宮は正面にいる魔物の存在に気を取られ、レーダーなどで周囲の状況を確認しなかった。

 そして、二宮は号令を掛け――最後まで、前方の魔物に隠れて存在する、血の涙を流す道化の存在に気付くことができなかった――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ