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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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彼の功績

 朝食後、優七は見回りをするために家を出た。学校に向かうと、遠藤や雨内が他のプレイヤーを引きつれて準備しているところだった。


「遠藤」


 声をかけると、遠藤達は優七に気付き挨拶する。


「おはよう高崎……悪いな」

「いいって。それにこういう仕事だって重要だよ」

「そうか。どうやら二宮達は出発してしまったらしんだが……」


 そこで間を置きつつ、遠藤は問う。


「ちなみに修行場所は……わからなかったよな?」

「ああ、結局どこに行ったのかは不明だよ」

「仕方がないか……俺達はできることをやろう」


 彼の言葉に優七は首肯しつつ、簡単な打ち合わせの後プレイヤー達は各々行動を開始。とはいえ、予想以上に人がいない。通常集合うる時と比べ、半分程度だろうか。


「遠藤、人数が少ないのは――」

「俺と雨内でできるだけ声を掛けたんだが……それでもこれが限界だったんだよ」


 嘆息する遠藤。その表情には、どこか悔いるような感情が乗っている。


「プレイヤーを集めるにしても、基本二宮が号令をかけて行っていたからな……他のプレイヤー達も二宮の行動には従い、誰が誰に連絡するのかなど暗黙の了解ながらしっかりと連携していたらしい」

「けど、今回二宮はいない……」

「連絡しようにも携帯の番号やゲーム機能の連絡先に入っていない人間もいるくらいだ……なおかつ今回の事は俺や雨内が私的に注意を払う、という形になっているため、連絡しても来ない人間だっていた」

「そっか……」

「まあそれでも、半分というのは大分健闘したと思うぞ」


 自嘲的な笑みを伴い、遠藤は言う。


「正直、二宮がいなくなればどういうことになるのか……こういう面でも、まずいことは認識できた。予想以上に俺達は、二宮に頼っていたというわけだ」


 ――逆を言えば、それだけ彼を必要としている。


 それはおそらく政府組織で活動する優七でも決してできないことだろう。彼らが暗黙の内に行動するのはひとえに二宮の信頼があってこその事。そういった活動は二宮が率先してリーダーとして行動してきたことによるものであり、唯一無二であると言っても過言ではないはずだ。


 だが――


「……二宮は、単純な力比べで俺に対抗意識を燃やしている」

「あいつの考えはひどくシンプルだ。強さがなければ、優位に立てない……いや、自分が先頭に立つからこそ、誰にも負けてはならないなんて考えているのかもしれない」


 遠藤は腕を組み、小さく息を漏らす。


「あいつは、自分がどうやって信頼を勝ち得てきたのかよくわかっていないんだよ」

「よくわかってない?」

「強かったから……誰よりも強かったからリーダーをやっていると考えているんだ。そうでなければ高崎に剣を向けるなんて真似はしないだろ?」

「皆がついていく本当の理由は、別にあると?」

「どういう理由であれ、あいつは事件の時この町のために戦った……だからこそ、誰もが二宮の言葉を聞くんだよ」


 そこで、遠藤は天を仰ぐ。


「そのことを何度も話したんだけどな……結局、聞く耳を持たなかった」

「遠藤……」

「ま、その辺りの事を今更悔いても仕方がない」


 遠藤はさっぱりした口調で言うと、わざとらしく声を張り上げ優七に背を向けた。


「俺も見回りをするさ……何かあったら連絡してくれ」

「ああ」


 遠藤と雨内はこの場を去る。それを見送りながら、優七は小さく息をついた。

 二宮がこの町にしてきた貢献は、それこそ多大なものであるのは間違いないだろう――だからこそ誰からも信用され、また彼もそれを受容し戦い続けていた。


 変化が起きたのは優七が現れてから。それまで誰も敵わなかった二宮が、初めてステータスで負ける相手が出現した。けれどそれまでに培ってきた信頼があれば、優七の消極的な性格もあってステータスを見せたとしても優位なんて崩れなかっただろう。


 だが、二宮は力を求めた――きっと、彼自身町の貢献などしてきたという事実に気付いていないか、それ以上に優七の存在が圧倒的なのだと認識しているのだろう。確かに二宮の見方も一理ある――だが、


「やっぱり、俺には務まらないよ」


 優七は零す。優七は最初の事件の後表に出ないという選択をして、影の英雄などと呼ばれ――それは、二宮のように先頭に立つことが怖かったという面もある。

 もちろん規模の違いはある。だが優七はこの町を守るためにリーダーをやるなんてのも、荷が重いと思った。


(二宮は……そういうことを感じていない。それは間違いなく、俺を勝ることのはずなのに)


 だが彼は納得できなかった――優七はため息をつき、やりようのない気持ちを抱きつつ歩き始める。

 その時、優七はクラスメイトの男子に声を掛けられた。


「高崎、ちょっといいか?」

「……ステータスなら見せないよ」

「いや、別にいいって……政府関係で色々と戦っているって話だけど、大変なのか?」

「興味あるの?」


 優七の問い掛けに、男子は小さく頷く。


「いや、そうなりたいって思いはないんだけどさ……」

「……正直、やることはそう変わらないよ。ただ、危険度は違うかな」

「強い敵と戦うってことか」

「うん」


 頷くと、男子は生唾を飲んだ。


「死ぬのは……怖くないのか?」

「怖いよ、もちろん……俺と一緒戦う人は皆怖いと思う」

「でも、戦っているんだよな?」

「色んな理由を持っている……俺の場合は、あの事件でたくさんの犠牲者を見てきたから……かな」

「……そっか」


 男子は申し訳なさそうな顔をした。


「ごめん、嫌なこと思い出させたか?」

「大丈夫……ただ、一つ不満を言うなら結構休みが潰れることかな」

「あ、そっか……大変だな」

「普通の日は政府が雇った大人のプレイヤーが戦うんだけどね……休みの日となると、人は色んな所にいくだろ? だから色んな場所で騒動が起きるんだよ。まあ最近は危ない場所に普通の人が近寄らなくなってきているから、初期の頃から比べてだいぶ改善したけど……」


 そこまで述べた時、男子の顔が複雑なものになっていることに優七は気付く。


「どうした?」

「いや……もし高崎がリーダーやってくれたらなーとか思っていたんだけど」

「ごめん、俺はあくまで政府関係者だから。それに、政府には俺を必要としてくれる人もいるし」

「……そうだよな」


 男子は頭をかき、優七に告げる。


「そっちも大変なんだな」

「まあね……でも、もう慣れたかな」

「俺達にできることってあるのか?」

「きちんと政府が出したルールを守ってくれれば」


 その言葉に男子は「わかった」と答えると、優七から離れた。

 それを見送りながら、優七は歎息する。


「大変……か」


 ここまでがむしゃらに戦ってきた優七にとって、肉体的には確かに疲労を感じることもあるが、精神的なものはそう大きくは無かった。むしろ二宮の件の方が心労は大きい。

 もしかすると、最初の事件以降ずっと張りつめているのかもしれない――優七は心の中でそんな風に思いつつ、見回りにいこうと歩み出す。


 その時だった。突如ゲーム機能を通じ通信が。


「……誰だ?」


 確認すると、江口だった。通話ボタンを押すと、切羽詰まった表情の彼がいた。


『優七君、今は大丈夫か?』

「はい……あの、どうしたんですか?」


 彼の顔つきにより不安を抱き優七が問うと、江口は難しい顔をしたまま話す。


『二宮君が……どこに行ったのか判明した』

「本当ですか?」

『ああ。巡回中の討伐課の人間が遭遇したよ』

「で、彼らは?」

『制止を振り切り行動している。私達としても彼らに対し無茶ができないため対応に苦慮している』


 そして、江口は最後にこう述べた。


『おそらく、誰かが遠出した時にその場所に転移ポイントを設置していたんだろう……そこは小河石君も訪れた、高レベルの魔物が出る場所だ――』


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