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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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イベント後の初対峙

 翌日、優七は昨日以上の不安と共に登校したのだが、遠藤や雨内は「心配するな」という感じのことを耳打ちし、黙っていてくれるとわかり安堵した。

 とはいえ、昨日のように色々と質問を受けてはいる。内心二宮の心境が気になったが、昼休みなどにおいても結局彼と話すようなことがなく、放課後を迎える。


 ホームルームが終わり、優七は帰ろうと思いつつ周囲を見回す。結果、二宮が無言で去っていく姿が見えた。

 そこに、なぜか遠藤が駆け寄る姿。多少気にはなったが、優七は鞄を手に取った。歩こうとした――


「高崎君」


 そこに、雨内が声を掛けてきた。彼女は教室を出ていく遠藤達を一瞥した後、優七に声を掛ける。


「ちょっと、話したいことが」

「二宮が何か?」

「うん……二宮君は土曜日、人を集めて遠方に経験値稼ぎに行くつもりらしいんだけど……」


 遠藤からその辺りのことは聞いていたので大して驚きはしなかったのだが――問題は、ここからだった。


「その、話によると……他の町からのメンバーとかも集まってやるみたい」

「それ自体は別に不思議ではないんじゃないのか?」

「そうかもしれないけど……イベントで、少しの間は警戒しなさいって言われているし、その人数も今の段階で相当多くなったみたいだから」

「なるほど、わかった」


 人数が減れば、優七達の暮らす周辺や他所の人手が薄くなる――イベントがあった直後なので、不安はなおさらといったところだろう。


「で、遠藤がその説得を?」

「うん。それで高崎君を連れてきてほしいって」


 マイナス要素にしかならないのでは、と優七は心の中で思う。それを口にしようかとも思ったが、


「お願い。来て」


 雨内が懇願したため、優七も承諾。二人揃って廊下に出た。教室から少し離れ、窓の横で二宮と遠藤が向かい合って話をしているのが見えた。


「……どうしても、今週の土曜じゃないと無理なのか?」

「ああ、そうだ」


 二宮は頷く。それと共に優七の存在に気付き、


「……高崎を連れてきたのはなぜだ?」

「俺だけで説得しても聞かないだろうと思ってさ」


 優七は遠藤の隣に立つ。イベントが起こってから、まともに話をしたことが無い。彼がどんな風に考えているのか不安になりつつ――優七は、口を開く。


「二宮、俺は――」

「先に言っておくが、別に対抗意識を燃やしているわけじゃない」


 二宮は断言する。


「ただ、あの戦いを振り返って戦力的に……俺だってまだまだだと改めて認識しただけだ。これまで大した魔物が出てこなかったから良かったけど、ああしてまだ新種が出てきたり……あるいは、上級クラスの魔物が出てきたなら、対処できなくなる」

「それは……」

「この町は、高崎の存在もある以上安泰といっていいかもしれない……けど、政府関係の仕事をしている高崎に全てを任せることはできない。だからまずは俺が強くなって、と思ったんだ」


 内容自体は正論だった――が、ここで遠藤が反論する。


「かといって、他所のメンバーと一緒に……しかも、人数も多い」

「多少レベルの高い場所に行くんだから当然だろ。最初はもっと少なかったんだが、魔物のレベルが高いことからもう少し人数を多くして……という結論が出た結果だ」

「……それは、どこだ?」

「教えるつもりはない」


 首を振る二宮。優七が政府の人間である以上、下手に喋ると止められる危険性を考慮しているのかもしれない。


「だが、メンバー的にも十分対抗できるとは言っておく」

「……本当に、大丈夫なのか?」

「心配するなよ」


 言うと同時に二宮は背を向ける。だが遠藤の話は終わらない。


「待てって。政府から話はきているだろ? イベントが終了して一週間も経っていない。まだ町を離れるのは――」

「何かあれば連絡してもらえればいい」


 それだけだった。優七としてもこれ以上問答と続けても無意味だと思い、無言となる。

 そのままユティス達は二宮を見送る。その中で最初に声を発したのは、雨内。


「……もし危険な魔物が出たら、連絡すればいいのかな」

「おそらく、遠方に行くっていうのは誰かのルーム経由で移動するのかもしれない」


 優七のコメントに、遠藤は首を傾げる。


「チラッと経験値稼ぎに行くメンバーを聞いたが、その中にルームの所持者はいなかったはず……というより、持っているなら話に上がってもおかしくないが」

「とすると、何かあったら緊急避難系のアイテムでも使うのかな」


 優七は転移できるアイテムを思い出す。そこそこ貴重ではあるのだが、ルームを所持していないとなると、緊急時それを使うのが普通だった。

 使用方法は、まずどこにワープするかを予め設定しておき、もし危なくなったらアイテムを使用しそこに転移するというもの。とはいえ使用できるのはその一人であることに加え、アイテム自体もそこそこ貴重なので、全員分あるとは思えない。


 それに、優七自身このアイテムはあまり使っていない。実はこのアイテム、ちょっとしたバグが存在する。使用者自身に被害が無いのは幸いだが――現実でその挙動が起こるのかは検証してみないとわからない。


「一応、調べてみるか」

「ん、何かあったか?」


 遠藤が問う。優七は「何でもない」と思いつつも、バグのことが多少気になった。

 おそらく危険が迫ったらアイテムで虎口を脱するだろう。となれば、アイテムを使用し――そのバグが発生する確率を考えれば杞憂でしかないと思うのだが、優七の不安は消えない。


 これは、現実世界とゲーム世界が融合し色々と感覚に変化が訪れている影響ではないか――第六感とでも言うべきものが、優七の頭の中に警告を発している。

 しかし、だからといってそれを理由にして二宮を説得できるわけでもない。


「……もし、何かあったら」


 そこで優七は遠藤と雨内に告げる。


「俺が対処するよ」

「俺が、って……いいのか?」

「経験値稼ぎに行く、という理由を政府側に説明しても、場所がわからないと対処しようもない……」

「もしそうした場所に行くとなれば、予め用意した転移アイテムか何かで移動するんだろうな」


 遠藤が言う。それに優七は頷く。


「そうなるね……近場にそういう場所があるのかもしれないし、一応調べてみようかな」


 ――転移アイテムは、数があれば政府も利用し警戒網などを敷くのだが、あいにく数が絶対的に足りない上、現状では入手も難しい。さらに言えば個人的に所有している人物が貴重品ということで差し出すこともなく――よって、政府側も犯罪行為に使用しなければ容認せざるを得ない状況になっている。


 経験値稼ぎということは、魔物のレベルが高いということは認識しているだろうし、下見くらいはしているはず。とはいえ、ルームのように他者の転移場所に移動出来たりはできないので、彼らの行動範囲を考えれば何百キロ離れた場所、などということはないだろう。


「この周辺で魔物のレベルが高い場所を調べてみるよ……政府側にも連絡しておいた方がいいと思うし」

「そうだな……頼む」


 遠藤は優七に頼む。その表情は少なからず二宮を心配している様子。


「土曜日、一応残ったメンバーで警戒はするよ」

「わかった。俺も政府側と連絡してフリーにしておく」

「悪いな、高崎。昨日負担をかけないように動くと表明したばかりなのに――」

「大丈夫だよ。気にしないで」


 優七は言うと、遠藤達に別れを告げ、歩き出した。


(さて、と……)


 土曜日までにやることがでてきた――二宮に対する懸念を抱きつつ、優七はどうするか頭を巡らせながら、下校した。


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