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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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彼の告白

 やっぱり――雪菜は自分の推測が正しかったのだと確信し、さらに言葉を紡ぐ。


「もしかして、そういうことで何かあったの?」

「……俺自身、雪菜に直接訊いたわけじゃないし……話して、いいのか?」

「今の優七君は、その点についてすごく悩んでいるように見える」


 雪菜の言葉に、優七はまたも押し黙った。


「本当は私、ここに色々と相談しに来たんだけど……優七君の顔を見ていて、何かすごく悩んでいるような気がしたから……」

「……ごめん」


 優七は突然謝罪。それに雪菜は目を白黒させた。


「どうして、謝るの?」

「雪菜の方が、大変なのはわかっている……それなのに」

「ううん、いいの……それに、相談は私が失った記憶についてだから……優七君が話してくれるなら、少しは進展するかもしれない」

「……わかった」


 絞り出すような声。そこから優七はゆっくりと語りだした。

 とある作戦の終わり唐突に告白され――デートしていた時、事件に巻き込まれた。その事件により、記憶が――大筋を聞いた段階で、雪菜は胸の痛みと共に一つの推測を導き出した。


「後悔、しているの?」

「……後悔、なのかな」


 優七は悩ましげな顔つき。


「記憶を失わせたことは、責任があると思っている……それに俺は、記憶を失う前の雪菜に返事もできていない」


 返事――その言葉に、一際大きな痛みが走った。

 それは、優七の答えがどのようなものなのか予測し、なおかつ返事が悪い方向にいくとわかっているから――そんな風に雪菜は感じる。


「俺なりに、どう応じようか考えていたんだ。でも……」

「そっか」


 そっけない返事。雪菜としてはそれ以上訊くことを、躊躇った。

 いや、より正確に言えば不安に襲われた。どういう回答なのか聞いてはいない。けれど、心の内には不安しかなかった。


 もしかして記憶が無いにしても、叶わないのだと認識しているのかもしれない。


(私は……)


 優七を見据え、雪菜は考える。


 記憶を失くす前の自分は、目の前にいる人が――同時に胸が軋む。記憶があった時、同じように思っていたのだろうか。

 体だけが憶えているらしく、雪菜としては生み出される感情に戸惑う他ない――けれど、


(私は……)


 今の自分はどう思っているのか――思案し始めようとした直後、優七が改めて口を開いた。


「答えについては、その――」

「待って」


 雪菜は彼の言葉を止める。


「色々と話してくれてありがとう。けど、今の私にとっては全てが唐突で、判断しようがないから……」

「……そっか。そうだよな」


 優七は一度ふう、と息を吐いた後、再度口を開く。


「記憶が戻るかどうかわからないけど……答えについては、しばらく胸の中にしまっておくよ」

「うん」


 頷きはしたが――やはり雪菜の胸中には不安が留まる。


 形容しがたい感情だった。漠然としているのは、優七に関する記憶が今の自分にないからだろうか。それでいて彼が言及するたびに体は何かしら反応する。これが奇怪かつ、不思議だった。

 これを打破するにはどうすればいいのだろうか――とはいえ、その答えを直接訊くのは躊躇われた。


「……何か、質問とかある?」


 優七が問い掛ける。雪菜はそれに首を振り「ありがとう」と言った。


「十分……とりあえず、色々知れたから」

「そっか……もし何かあったら、相談に乗るから」


 温かい言葉。雪菜は感謝しつつも――彼の現状を思い返す。

 長谷から多少なりとも聞いている。彼自身かなり重要な立場であり――余計な心労を与えるべきではないと心の中で思う。


「うん、わかった」


 そう口では言いながら、おそらくこうやって相談するのは最初で最後だろうと思った。


「あの、それじゃあこれで――」

「え? もう帰るの?」


 優七からの質問。それに雪菜は目をしばたたかせた。


「え、もうって――」

「ほら、せっかくルームの中に来たんだからさ……そういえば雪菜は記憶を失う前でもこのルームの中を歩き回ったりはしなかったし、家の中を見て回るようなこともなかった。この際だから、ルーム内を紹介するけど?」


 提案に、雪菜は驚いた。まさかこんな展開になるとは思わなかった。

 けれど、そう言ってもらえるのも実際の所嬉しかった。だから雪菜は承諾する。


「う、うん」

「よし、それじゃあ案内するよ。あ、それとコートを出すよ。このルームは現実世界の季節と同期しているから」


 優七は言った後席を立ち、早足で二階へ。少し待っていると、藍色のコートを持ってきた。


「ほら」

「……ありがとう」


 礼を言いつつ雪菜は受け取る。優七が先んじて羽織ると、合わせるように雪菜も羽織る。

 これは間違いなく、現実世界のものではなくゲーム上のアイテムなのだろう――効果のほどはわからなかったが、なんとなくコートの中が暖かいような気がした。


 それから二人して外に出る。風が少しばかり吹いていたのだが、それでも顔に当たる時多少冷たいくらいで、体の方はまったく寒さを感じない。


「さて、それじゃあ案内するよ……といっても、そんなに広くないからあっという間に終わっちゃうけど」


 前置きして、優七はルームの中を説明し始めた。

 その間にルームの中でも日が沈んでいく。彼の話によると季節によって日の出日の入りの時間は決まっているらしい。


「だから、ルームの世界で陽が沈むよりも、今の季節だと現実世界で沈む方が早いかな」

「そっか……」


 返事をした後、雪菜は正面を見る。そこには、赤く染まろうとしている湖。

 とても幻想的な光景だった。ゲームの世界でこういう景色はごくありふれたものだったのかもしれないが、雪菜にとっては新鮮に映る。


「……ねえ、優七君」

「何?」

「私は……ゲームの中では、色んな人と共に戦っていたんだよね?」

「ああ、そうだな」

「でも、そういう人達の記憶もない……正直、私はなぜ戦わなければならないのか、戸惑うこともある」


 そこまで言うと、雪菜は優七に視線を送る。


「もちろん、現実世界のためだというのは理解している……けど、なにもかも記憶がなくなってしまった私にとって、今の世界はすごく非現実的な世界で――」

「まあ、そうだと思う」


 同意する優七。それに雪菜は自嘲的な笑みを浮かべる。


「ゲームをやり始める前の私……つまり今の私は、何のとりえもない中学生。クラスのみんなと一緒に学校生活を送って、テレビの奥にいる芸能人とか歌手とかに憧れて……けど、そういう世界が今は一変していて、戦うことを迫られている」

「……不安?」


 優七の問いに、雪菜は頷いた。


「それ、長谷さんには言った?」

「ううん……きっと、長谷さんもわかっていると思うけど」

「不安は、きちんと言った方がいいと思う。確かに雪菜は能力面は戦力だけど、だからといって無理強いしようという意思は、政府にはないよ」


 優七はそこで湖に目を移す。


「実際、戦いたくないと拒否する人も多くいる……皆、最初に事件をどこかで恐怖しているんだ。俺も色々あったけど……その中で、他の人を同じような目に遭わせてはいけないと思って、戦っている」


 強い、と雪菜は思った。彼はその強い意志から今も戦っているし、事件の時魔王を倒した。


「……雪菜も、戸惑うのはよくわかる。けど焦らず、結論を導き出すまで、今の雪菜が納得いくまで考えるのもいいんじゃないかな」

「そう、かな」


 そんな悠長でいいのだろうか――不安もあったが、優七は深く頷いた。


「さっきも言ったけど、もし何かあったら相談に乗るよ」

「……ありがとう」

「それじゃあ、そろそろ戻ろうか」


 そう告げ、雪菜は優七と共に歩き出した。


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