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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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有名プレイヤーと、記憶

「あ、えっと」


 指輪の光により連絡だと気付いた時、優七は遠藤と雨内を見た。


「……あっちで少し打ち合わせでもするよ」


 遠藤は言うと、雨内に視線を送る。彼女も察しベンチから立ち上がると、優七から離れた。

 それに少しばかり申し訳ない気持ちになりつつ、優七は通信を開く。


『お疲れ、優七君』


 出たのは江口――だったのだが、優七の背景を見たためか眉をひそめた。


『まだ外なのか?』

「はい、そうです」

『そうか……すまない。本来なら折り返してくれと言いたい所なのだが、今日はちょっとばかり別の人がいる。もしよければそのまま話をしてもらえないか?』

「大丈夫ですけど……」


 何かあったのだろうか。優七が疑問に思う間に江口がさらに言う。


『先日のイベントについて、調査をするメンバーを選定し早速調べてもらっているのだが……君から話を聞きたいと言う人がいて、私が通信を仲介しているんだ』

「聞きたい、ですか……俺に?」

『上級プレイヤーから色々話を聞いているようだし、君だけではないよ』


 魔物と出会い戦ったことを聞かせて欲しいのかもしれない――優七は理解し、承諾の返事をする。


「わかりました」

『なら、頼む』


 江口が言う。そして画面に新たな人物が出現し、


『よおっ! 初めましてだな! 以前からちゃんと話したいとは思っていたんだ!』


 ――あまりの大音量に、優七は思わず顔をしかめた。さらに距離を置いた遠藤達も何事かと反応を示すのがわかった。


「……あの、すいません。少し音量を落として――」


 そこまで言った時、遠藤が優七を見ながら話を始めた。

 優七は内心しくじったと思った。これはあまりにもまずい展開――大声を張り上げた相手を見ながら、思った。


「……どうもです、エルドーさん」

『今は尾野田(おのだ)宗一(そういち)だよ。そっちの名前で呼んでくれると嬉しい』

「……では、尾野田さん」

『宗一でいいぞ』

「……宗一さん」


 優七はやり取りにため息をつきたくなりつつ、相手を見据えた。


 尾野田宗一という名はそれほど知られていないが、エルドーという名前は非常に有名――ロスト・フロンティアのプレイヤーなのだが、事件前トップクラスに名が知られていた、有名プレイヤーの一人であった。


 彼はゲーム内に存在する記録装置――いわゆるカメラのようなものを用いて、実況プレイを動画サイトに投稿していた。高難度のダンジョンを相当な縛りプレイをしたり、果ては一からキャラを作り直してレベル一から実況プレイを行ったりと、やっていたことは様々。そして動画自体ネタ要素が多く含まれ、相当な人気だった。


 優七自身もその動画を見たことがある。こういう実況者として宿命でもあるのか神がかったドロップや、何でもないことをきっかけにしてパーティーが全滅したりと、様々な笑いを提供してくれた。

 プレイヤーだけに限って言えば、その知名度は有名人であるRINと肩を並べる程。実際彼はロスト・フロンティア関連のイベントに引っ張りだこだった。よって政府も事件後彼の存在を非常に重要視して、プレイヤー統率の役割の一端を担わせるに至っている。


 そして素顔についてはイベントなどで割れているため、彼は事件前から顔や声を知られている――だから、


「た……高崎!」


 声を聞いて遠藤などが反応し近づいてくる。優七は今度こそため息をつき、彼へ首を向ける。


「ああ、えっと……」

「話しているのエルドーさんだよな!?」

「そうなの!? やっぱりそうなの!?」


 雨内まで興奮している。優七は小さく頷きつつ、一応捕捉しておく。


「えっと……その、俺自身は彼と話をするのは初めてで――」

『確かに、今まで遭遇することはなかったよな』


 言って、笑い声をあげる宗一。


『まあそっちも忙しかったんだよな』

「まあ、そうですね……」


 優七は返答しつつ用件を訊き出そうと口を開こうとする。だが、


『で、俺としてはこういった仕事抜きで話をしたかったなぁ……『影の英雄』と』


 硬直。かつ絶句。


 画面の向こう、後方にいる江口が頭を抱えた。次いで宗一が我に返ったか、しまったという顔をする。


「あ、と……」


 そして口ごもる。最悪だと優七は心の底から思いつつ、遠藤達へ視線を送る。

 彼らの目は、今や優七へ向けられていた。さすがに有名人から出た言葉。その信頼性は高いと判断したに違いなかった。


「え……?」


 信じられないという面持ちで遠藤は呟く。さらに雨内もゴクリとつばを飲み込み、優七を見る。

 そこで優七が選択したのは――彼らに対し、頭を下げ手を拝むように合わせ懇願することだった。


「お願い、黙っていてください」


 さらに敬語。それに対する返答がなかったので顔を上げた。二人はなおも呆然としていたが、少しして、


「……何で、隠しているんだ?」


 英雄なのに――という問い掛けが遠藤からもたらされる。これについては色々と理由はあった。

 ただ、その中で――彼らに対し有効な理由としては、これしかないと思い口を開く。


「……正直、荷が重すぎたというのもあるけど……何より、その名を口にされるたびに、あの戦いのことを思い出す」

「それは……」

「皆にとっては事件を解決した輝かしい功績に見えるかもしれない……けど、俺からすれば、最前線で戦ってた俺からすれば、悲惨な戦いなんだ」


 ――両親がいなくなった。当時のクラスメイトも消えた。勇者も消えてしまった。


 この目で多くの人が消えてしまった光景は今もまぶたの裏に残っている。だからこそ、優七はあまり蒸し返して欲しくなかった。


「……ごめん、これ以上は――」

「わかった。ごめん。そうだよな」


 遠藤が理解した様子で声を出す。それは雨内も同じようで、悲しげな表情を浮かべ首肯した。


「わかった……高崎としては苦しいことなんだな? なら、何も言わないよ」

「助かるよ」

「……政府関係みたいだから、俺達はここにいない方がよさそうだな。ひとまず相談したいことは片付いたから立ち去るよ」

「わかった……」


 優七が言うと遠藤は雨内に目配せをして――二人はその場を立ち去った。


 二人を見送った後、優七は息をついて宗一と向かい合う。

『……すまん』

「貸し、一つということで」


 優七が言うと彼は神妙な顔つきで首肯。


『もちろんだ……本当にすまなかった。で、本題なんだが……』


 先ほどまでの明るい表情とは一変して彼は話し始める。おそらく優七の言葉を聞いて色々と考えた結果だろう。

 そこからは昨日の祭りについて質問を受け――時間にして二十分程経過した後、通信が終わった。


「……やれやれ」


 優七はため息をつきつつ、ベンチに座る。そこでふと寒さが身に染みた。色々とイベントに遭遇したせいで、寒さも忘れていた。


「……帰るか」


 優七は呟きつつ、歩き出す。一瞬ルーム経由で帰ろうかと頭がチラついたが、見られている可能性もあるため、使わないようにして歩く。

 公園を出て、通学路へ。その道中昼間のことと、遠藤達のことを思い返す。さすがに釘を刺した以上彼らが話す可能性はないと思いたいが、もう一度話しておく必要があるとは思った。


「とりあえず、明日もう一度遠藤達に念を押しておこう」


 結論を出した後、無言で帰宅。利奈に「遅かったね」と言われ、友人と話し込んでいたと理由をつけつつ部屋へ。


 そこでなんとなく、ルームに入ろうと思った。部屋にいるよりログハウスの中でゴロゴロした方が精神的な疲れも取れるか、と思ったためだ。

 だから優七は着替え――人がいる可能性を考慮してコートを羽織り、ルームに入る。


 もし誰かいたら雑談にでも興じれば――そう思い入った時、先客がいた。


 優七は小さく呻く――相手は、雪菜だった。


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