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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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相談者

 優七の一連の説明により、ひとまず教室内は落ち着きを取り戻す――が、それはほんの僅かな時間で崩れ去った。


 質問の内容としては、昨日のイベントのこと。新種の魔物に関することや、RINについて――様々な質問の応酬に優七はひとまず当たり障りのない返答で応じた。

 ひとまず政府の活動として支障がないように――そういう考えと共に、二宮のことが気になった。


 彼は休憩時間の度に外に出ており、今も隣の席にはいない。周囲を見回してもやはり姿は見えず、この状況をどう思っているのか不安になった。

 そんな中さらに質問が続く――気付けば昼休み終了間際になっていた。優七はそこで弁当すら食べていないことに気付き、慌てて全員に今日はこの辺りでと話を打ち切った。


 その後どうにか食事は済ませ、午後の授業が始まる。その後は短い休憩時間の間でも質問が来る――そんな調子で放課後を迎えた時、優七はこのまま帰れるか不安になったのだが、


「高崎」


 遠藤が声を掛けた。その隣には、雨内の姿も。


「ちょっと話したいことがあるんだが、いいか?」

「話したいこと?」

「今後の方針だよ……プレイヤー達について」


 その目がひどく真剣であったため、優七も話を聞かずにはいられなくなる。

 とはいえ、教室ではまずいということで移動を開始。色々な人からの質問を避けつつ学校を出ると、下校方向とは逆側の道に入った。


「どこに行くんだ?」


 優七が問い掛けると遠藤は一度視線を送り、


「少し先に公園がある」


 それだけだったが、言わんとしていることはわかったため優七は以後彼に追随。そして公園に到着した。

 最低限の遊具が一応ある、それほど大きくない公園。人気はなく、なんだかもの寂しい印象を与える場所だった。


「……さて、と」


 遠藤は公園に入った直後、ポケットから財布を取り出した。


「自販機あるからジュースおごるよ」

「え? いや、別に――」

「いいって。ほら、昨日のイベントでお疲れ様ってことで。何がいい?」


 優七はそれから数度断ったが、最終的に遠藤に押し切られる形で暖かいお茶を要求。さらに雨内も同じ物を頼み、優七達は先んじて近くにあるベンチに腰掛ける。

 遠藤はお茶を二つ買ってきて、優七達に渡す。自分用にはコーラを握り締めており、プルを開けた後、彼は立ったまま話し出す。


「話というのは……高崎に相談なんだが」

「相談?」

「ああ。二宮のことも関係する」


 彼の名前が出てきて、優七は僅かに体を強張らせる。結局彼とは今日、一度も話をしていない。


「その……二宮自身はきちんと仕事をしているし、誰にだって優しい。リーダーをやるならあいつしかいないというのもわかるんだが……」

「まさか俺にリーダーやれって?」


 能力を考えれば、そういう考えになるのも無理はないと優七は思ったが、


「けど俺は、政府関係の仕事があるから――」

「わかってる。俺もそこまで頼んでいるわけじゃない。現状二宮が中心にいることでプレイヤー達も納得しているし……ただ」


 そこで、遠藤は目を細める。


「高崎の存在が公になった以上、今までみたいに二宮が中心に立っていることを良しとしないプレイヤーも出てくるんじゃないかと」


 ――優七自身、それについて大いに懸念していた。


 二宮自身プレイヤー達をまとめ上げる能力はかなりのものだったし、その点については優七よりずっと上なのは間違いない。しかし、


「……高崎もわかっていると思うけどさ、あいつは、その……恨みとまではいかないまでも、色々と人から陰口叩かれるようなケースもあるからさ」


 それは紛れもなく妬みというもの。中心に立っているが故に、生じるひずみ。


「もちろんそれだけじゃない……嫌な話もある」

「嫌な話?」

「ああ。二宮は何かコソコソと動いている……推測だけど、高崎に対抗するために経験値稼ぎでもする気なんじゃないか?」


 その言葉に、優七は言葉を失くす。


「あいつは今まで能力的な面でも人の中心に立っているような状況で、周りも納得していた。で、本人もそれを強く望んでいた節がある……だが高崎という存在が出現したことにより、優位が崩れた。それを打開するにはどうすればいいか……一番の方法は、高崎に勝てる能力を得ることだろう」

「俺を……」


 優七はお茶を握り締めながら俯く。ここで思い出すのは、二宮が魔物の発生源を放置していたこと。


「高崎にはあんまり言わなかったけどさ、二宮は経験値できる場所として、魔物の発生源なんかを意図的に封鎖しないようにもしていた……そういう点から不審に思うプレイヤーだって多少いるんだ。そして政府関係者の高崎の存在……あいつがリーダーの立ち位置を追われる可能性もあるんじゃないかと思う」

「……今日話をするのは、それに関することか?」

「そうだ」


 優七の問いに、遠藤は頷く。


「といっても、今すぐ何かをしてくれなんて話じゃない……二宮が何らかの形でリーダーを辞めた場合の話だ。それが起こった時に備え、一応確認しておこうと思って」


 遠藤には考えがあるらしい――二宮を除けば彼の能力はプレイヤーの中でもトップクラス。彼自身、矢面に立つ可能性を考慮しているのかもしれない。


「で、俺は何をすれば? 再度言うけど、俺は政府関係の仕事があるから――」

「わかってる……もし何かが起きて別のリーダーが必要になった場合、それについては高崎以外で誰かにするかは決める。ただしその場合、指導役というか、ゲームの知識が豊富な人間が欲しい」

「指導役?」


 聞き返すと遠藤は深く頷く。


「高崎はレベルを考えると、昨日発生した新種は別にして、ゲーム上に出現した全ての魔物と戦った経験はあるんだろ?」

「それは……まあ。レア系の魔物は例外だけど」

「それは少数だから気にしなくてもいいはず……で、俺達は強力な魔物と遭遇した場合の対応ができない……データでは知っているけど、どういう挙動をするのかはやっぱり直接見なければわからないことも多いから」


 なるほどと、優七は胸中思う。つまり二宮以外のリーダーを決める場合、戦闘経験的にどうしても劣ってしまう。だからこそ、そうした知識がいる人間が欲しいということだ。


「本来はこういう可能性を考えなくてもいい状況が望ましいんだろうけどさ、俺としては今日二宮の姿を見て、不安に思った。だから相談しようと思ったんだが……」

「昼休み話しかけたのは、その要因もあるのか?」

「そんな感じ」

「ねえ、一ついい?」


 そこで、雨内が声を上げる。


「何で私まで連れてきたの?」

「……もし俺がリーダーやる場合、補佐役として雨内を推薦しようかと」

「えっ!?」


 寝耳に水だったらしく、雨内は声を上げる。


「わ、私!?」

「戦う場合、二宮みたいに全体的な視野とか俺にはないからさ……後衛の人間が必要だと思って」


 そう言うと、遠藤は再度優七に視線を向ける。


「そういえば高崎……俺は、前々から高崎が結構なレベルなんじゃないかと思っていた」

「……どうして?」

「二宮を先頭にして戦っていた時、密かに全員が無事なよう援護していただろ?」


 優七はそれに黙する。けれど顔が硬直したのが自分でもわかったため、遠藤も態度を見て図星だと理解したようだった。


「ま、自分の手柄にするような人間じゃなかったから、俺もこうして提案できたんだ。二宮みたいに自分中心だとこうはいかないと思うから」

「……そう、かな」


 優七はそう返しつつ、頬をかいた時――


 突如、指輪から光。通信だった。


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