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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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教室内で

 昼休みと同時に優七は鞄から弁当を取り出す。無心で食べようとした矢先、とうとう優七に声を掛ける者が現れた。


「高崎」


 どこか機嫌を窺うような声音。弁当箱から視線を変えると、そこにはクラスメイトの、


「……遠藤」

「ああ」


 遠藤公洋(きみひろ)という、ツリ目が特徴的な人物。表情が常に小難しく不良か何かだと勘違いされることもあるらしいが、学校の成績的に言えば同学年で五十位以内に入るくらいで、優七にとって羨ましい人物。


 彼もプレイヤーであり、二宮を除けば学校内でトップクラスのレベル。


「……どうした?」

「話がある」


 そう言って前の席にある椅子を優七に向け、座る。加え彼は弁当箱を優七の机の上に置いた。


 ――こうして遠藤と話をすることはかつてなかった。優七自身彼とは多少ながら話してはいるし、プレイヤー同士ということでクラスメイト以上に関わってはいるのだが、こうして面と向かい合って昼食をとるなんてことはしない。

 そもそも優七は一人で弁当を食べるのが常だった――同時に、優七自身教室の至る所から視線を感じ取る。


(遠藤が呼び水となる……か?)


 そんな風に推測しつつ言葉を待っていると、遠藤は弁当箱を開きながら問い掛ける。


「……昨日のイベントで、高崎のことは見ていたけどさ」

「あ、ああ……」


 ぎこちない会話。だがそれによって周囲の空気がざわつくのが優七には明確にわかった。

 やはり全員がそれを訊きたくて見ていたのだろう。優七はどんな質問が来るか肩に力を入れながら待っていると、


「何で、政府関係者だって言わなかったんだ?」


 最初の質問そのものが、核心部分だった。


 優七はゴクリと唾を飲む。ここで変な回答をしてしまえば、おそらく学校で今後言われることになるかもしれない。


「……その、あれだよ。プレイヤーの中には政府関係者を目の敵みたいにしている人もいるだろ?」


 優七はゆっくりと言葉を紡ぐ。対する遠藤はそれをじっと聞き続ける。


「だから、その……俺としてはあんまり事を荒立てたくなかったんだ。もし強力な魔物……昨日の場合とかそうだけど、ああいう場で戦う時になった場合だけど……普段から政府組織だと言い回っていたとしたら、指示に従うのが嫌な人とかが反発するかもしれないだろ?」

「まあ、な」


 遠藤は頷く。それに優七はこれ幸いとばかりにさらに告げる。


「で、そういう反発があった結果、犠牲者が出るかもしれない……そういうことを考えた結果、隠していたんだ。まあ立ち返って見れば、『祭り』で俺が政府関係者だと先に伝えておけば、もうちょっとあの場で円滑に対処できたのかもしれないけど――」

「何だよ、高崎」


 そこへ、別の男子生徒。体格の大きいクラスメイトであり、優七は威圧感を覚える。


「つまり、変に反発されるといけないから黙っていたということか?」

「まあ、そうだよ」


 優七は小さく頷く。これが遠藤の質問に対し答えることができる限界だった。

 実際、その辺りのことは決して間違ってはいない。本質的な理由としては自身のステータスなどを見られて厄介だろうということや、二宮のこともあった――そういった理由全てを押し殺し、言えることとしたらその辺りだった。


「なるほど、な」


 遠藤は声を上げる。納得の声のようだったが、無表情で本当に理解しているのかどうかわからない。

 頼む――優七は胸中祈るような気持ちで事の推移を見守った。そして、


「……なんだか、水臭いな」

「へ?」


 遠藤の言葉に優七は聞き返す。すると、


「そうだぜ、何で遠慮してたんだよ?」


 同調するように、迫って来たクラスメイトが言う。


「実はあの後、高崎が戦った魔物のステータスを見たんだけどよ。それ見てびっくりしたよ。あれって完全に、最高クラスの魔物だろ?」


(うげ……)


 優七はまずいと思った。ステータスまで理解されているとなると――


「ってことは、高崎はそいつをソロで倒すことのできる能力を持っているわけだ……そのステータス見せれば、政府関係者とか関係ないと思うぞ?」

「い、いや……あの……」


 優七は内心悪い方向に話が進んでいると思い、声を上げる。しかし、


「そうだよ、きちんと話してくれていても良かったよ」


 今度はイベントで共に行動していた雨内が声を上げた。それと共にクラスメイト達が優七へ近づく。


「い、いや、でも……その、政府からはあんまり派手な行動するなと言っていたし――」

「別にステータス見せたからと言って派手ってわけじゃないだろ?」


 遠藤が言う。するとその言葉に合わせ、クラスメイト、特にプレイヤーの面々が優七へさらに近づいてくる。

 果ては教室内の様子に気付いた他のクラスの面々まで来る始末――目的は、優七にもしっかりと理解できていた。


「え、っと……それで……?」

「頼む、高崎」


 パン、と手を合わせ拝むように遠藤は乞う。


「ステータスを見せてくれ」


 途端、クラスメイトの視線がさらに強まる――そうか、これが目的だったのか。

 優七としては別に見せても構わないと思っている。元々隠すようなものでもない。さすがに所持品などを見られるのは『死天の剣』のこともあるので避けたいが、ステータスならば別に問題ない。


 だが――それをするとここでリーダーをやっている二宮は――


「頼むよ。一度だけ」


 期待する素振り。優七としてはできれば拒否したかったが、周囲から延々と放たれる無言の視線が、とうとう優七に一つの選択をもたらす。

 ゆっくりと腕を振り、メニュー画面を呼び出す。反応に対し正直恐怖しかなかったのだが――優七は、全員に画面を見せた。


 それにより反応――まずは「おおお」という興奮するような声だった。


「おい、何だよこれ! というか完全に魔王城到達レベルじゃん!」

「ねえ、もしかして事件の日魔王城を攻略していたメンバーとかだったの!?」

「おい、それより政府関係者なら『影の英雄』について何か知っていないのか!?」


 混沌が訪れた。優七としては質問攻めに対し落ち着いてくれと言わんばかりに力なく手で制することしかできない。

 けれど質問は止まない――だから優七は一度全員を落ち着かせるべく話を行う。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! えっと、訊きたいことはなんとなくわかったから、とりあえず説明する!」


 声に、生徒達の声が一度収まる。気付けば下級生や上級生らしき人物もいた。これは間違いなく、ある程度筋の通った説明をしなければ収まらないだろう。


「えっと……まず、謝っておきたいんだけど、『影の英雄』については何も知らない。俺は、会ったこともないんだ」


 その言葉に、質問を行った人物を含め数人が残念そうな顔をする。


「けど……その……確かに俺は、事件前魔王城の攻略メンバーとして色々やっていた」


 そして次の言葉でさらなる歓声が上がる。それを優七は緊張を伴い受け止めつつ、さらに言葉を紡ぐ。


「で、事件発生後戦っていたのも事実だけど……その、俺としては無我夢中で迫ってくる敵を倒していただけで、気付いたら終わってたというレベルだった。その後政府組織に加わって……あんな悲劇が起こらないように戦っているんだ」


 言葉に、さらに歓声が上がる。何事かと優七は思ったが、どうやら「正義感が強い」という見方をされているのだと直感した。


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