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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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イベント翌日

 イベントが終了し、雪菜は何事もなく家へと戻る。結局駆り出されることもなく、一日中槍を振っていただけだった。


 情報によると、新たな魔物が出現したらしく政府の方はてんてこ舞いになっているらしい。もっとも雪菜としては遠い国の話のように非現実的で、今回のイベントも知らない内に終わっていた、という感じしか残らなかった。

 なんとなく、このままじゃいけないとは思っている。けれど、打開策があるかと言えばそうでもなかった。


 閉塞感が心の内に溜まり、袋小路へと入り込んでいく。とはいえ記憶が無い以上どうすることもできず、さらにストレスが増す。

 どうすればいいのか――雪菜は小さく息をつき、自室で一人天井を見上げる。


 その時、指輪に通信が入った。確認すると、江口。

 拙いメニュー操作で通信画面を開くと、彼の姿が一人映った。


「お疲れ様です」

『ああ、お疲れ様』


 定型句のやり取りを交わした後、彼からいくつか報告を聞く。

 内容は今後の方針。相手はどうやらアップデートをしようとしているため、政府はいち早く今回の魔物を出現させた人物を探し逮捕する。加え、プレイヤー達は何かおかしなことがあれば些細なことでも報告する。


『対応が後手に回ってしまい申し訳なく思っているが……城藤君にもいずれ戦ってもらう可能性があるから、心しておいてくれ』

「……はい」


 躊躇いがちに承諾。まだまだ武器の扱いなども慣れていないため、あとどれくらい修練を重ねれば実戦に出られるのか――


『……何やら、考えていることがあるようだね』


 江口が言う。図星であったため、雪菜は少し考えた後、頷いた。


「その……なんというか、今の状況に……」

『言いたいことはわかる。鬱屈としたものを抱えているわけだな。無理もないさ』


 と、江口は肩をすくめた。


『とはいえ君自身もわかっているはずだが、一朝一夕で解決できる問題でもない。失くした記憶については今度どうなるのかもわからない以上……色々と不満はあるだろうが、今はできることをやって欲しい』

「……はい」


 全てを飲み込み、雪菜は頷いた。すると江口は笑い掛け、


『……そういえば、城藤君は確かルームに入る権限があったな』

「……ルーム?」

『高崎君のルームだよ』


 その言葉に、ほんの僅かだが心臓が跳ねた。雪菜としては日記を見て以降変に自覚してしまい、少しばかり慌てさせる。


『必要ならば、高崎君を含め相談してみるといい……訓練だって同じようにしているばかりではなく、彼らに色々と訊いてみると良いかもしれない』

「……ありがとう、ございます」


 それだけ言うと、江口からの通信は切れた。


「……高崎君、か」


 意識しているのだが――本当に雪菜自身が思っている通りなのかはわからない。

 そもそも彼が日記の上で確認できた相手なのかもわからない。けれどその真相が気になって仕方がないのもまた事実。かといって確かめる勇気が無い上訊いても答えてくれるかどうか。


「相談……か」


 訓練に付き合ってもらっている長谷は年齢も離れている上、政府関係者であるためどうしても相談できない。ならばクラスメイト――といっても、記憶を失くした状況で腫物のように扱われているのも事実だし、何よりゲーム上のことをあまり話していなかったらしく、とてもじゃないが相談できない。

 となれば、頼れるのは必然的にゲームをしていた時のメンバーなのだが――記憶が無い以上、頼ろうにも難しい。


「……でも」


 現状では何一つ解決できない。そして、前に進むためには勇気が必要だった。

 拒絶されるかもしれない――そんな風に胸中思いながらも、雪菜は一つ決心しメニュー画面を開く。


 ルームの項目には、確かに優七のルームを知らせる箇所があった。これを選択すればルームが開き、中に入ることができるはず。

 雪菜は一度深呼吸をする。さすがに今日はまずい。とはいえ、このまま引き伸ばせばどこまでもいくのが自分でもよくわかっている。


「……明日」


 そう呟き、雪菜はメニューを閉じる。そう、明日――ルームの中に入り、話をする。



 * * *



 翌日、優七は戦々恐々としながら登校した。


 あの後まともに誰かと話したわけでもなかったため、自分がどういう状況にいるのかもわからないまま登校することになった。利奈に見送られ一人通学路を歩くのだが――二宮と遭遇することも無かった。

 というより、今日は時間ギリギリ。朝のHR前に質問攻めされたくないからだった。


(どうしようか……)


 憂鬱な思考が頭の中を支配する。あれだけイベントで立ち回った挙句、歌手のRINと話をしていたわけで――あまり良い結末が浮かばない。

 だからといって学校を休むわけにもいかないので、こうして時間ギリギリに――到着したのは予鈴寸前。そこに至り優七はダッシュし、チャイムと同時に教室に入った。


 後ろ側から入ったため、あまり視線を集めることもなく――優七は自身の席である一番後ろの列、左から二番目の席に座った。

 チャイムが鳴り響く中、鞄を机の横にあるフックに引っ掛け、HRを待つ。優七はあまり視線を合わせないよう予習代わりに国語の教科書を引っ張り出そうとする。


 だがその時、優七は視線を感じ取る。それも一つや二つではない。


(う……)


 どうしようか考える間に担任の教師が教室内へと入ってくる。視線もそこで途切れたため優七は一安心した。

 そこから先日の事件について担任は説明を始めた――優七としては再度緊張する事態となったが、内容はイベントに関する簡単な詳細と、注意。そこで時間を食ってしまい、結果的に空き時間が生じることなく一時間目の数学の授業となった。


(問題は休憩時間だよな……)


 さすがに逃亡するわけにもいかず――優七はここで覚悟を決める。そこからいつも以上に授業に集中しひとまず色々なことを忘れ、やがて最初の授業が終わりを迎える。


 チャイムと同時に教室内に話し声が聞こえ始める。優七はさすがに自ら話し出す勇気はなかったが、さあ来いなどと考えつつ次の授業の準備を行う。

 視線が再度注がれる。しかし、誰も話しかけてこない。


 視線の感じる方向に目を向ければ何か反応の一つもありそうだったが、優七はなんとなく躊躇った。よって、授業の準備といういつもならやっていないことに集中する。

 いつもと行動が変わっていることは、クラス内でそれなりに話している面々なら気付いているはずだ。とはいえなぜか喋りかけてこない。これは――


(もしかして、様子を窺っている?)


 優七が政府関係者だと知り、色々と考えた――視線があるので無視というわけではなさそうだし、訊きたそうな気配もなんとなく伝わってくる。

 しかし、政府関係者だからこそ迂闊に訊くこともできないのでは――そんな風に優七が推測した時、二限目開始のチャイムが鳴った。


 この状況は、もしかして昼休みまで続くかもしれない――授業の間に挟まれている短時間の休憩ではおそらく話し掛けるタイミングが無い。となれば当然、会話が成されるとしたら昼休みしかない。


 その後も優七の予想通り休憩時間となっても視線だけで話しかけてくることはなかった。なんだか針の莚の上にいるような気がしないでもなかったが――優七はひとまず耐えた。


 ただ、気になる点もある。休憩時間になるごとに視線が増えている気がした。もしかすると今学校内で自身のことがさらに噂になっているのでは――優七自身その推測は視線により正しいと思っていたが、さすがに尋ねることはできず無言を維持。


 そして――とうとう四限目の授業が終わり、昼休みが訪れた。


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