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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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敵の目的

 事後処理を全て終了した二宮は、RINが去っていく姿を見送り――内心、歯噛みしたくなった。


 優七が正体をバラすこと自体、自分の失態だった。いや、あの魔物を食い止めることのできる人物はあの場において優七くらいしかいなかった以上、いずれバレてしまっていたと考えるべきかもしれない。しかし、その後彼女の出現――優七が彼女と対等に話している光景は誰もが見ていた。明日以降、『ロスト・フロンティア』に関することの中心は、彼になってしまうかもしれない。


「……俺は」


 ふいに呟く。優七自身、ああした結末を望んでいなかったのは間違いない。しかし躊躇したため優七は名乗り出た。そしてギリギリの所で犠牲者を出さず、事を収めた。

 二宮は拳を握りしめる。懸念していたことがこのイベントにより噴出してしまった。


 一人、帰り道を歩きつつ今後どうするか考える。優七に対してはどう足掻いても現状で勝つことはできない。しかし、彼を崩さない限り自分が中心となっている世界が再びやってくることはない。


「俺は……」


 さらに強く拳を握りしめる。絶対に認めたくなかった。認められるはずがなかった。

 奴が来なければ――そんな風に考えつつも、それを外部に吐露すれば自分に味方をしている面々がオセロのように白から黒になるだろうと予想はついた。あいつは優七に嫉妬しているんだ。ああやって戦う優七に――


 もし今剣を手にしていたら、わけもなく振り回していたことだろう。怒りにも似たやり場のない気持ちが心の中で膨れ上がり、二宮の胸を大きく焦がす。


 優七に勝つためにはどうすればいいのか――彼自身、生半可な場所に身を置いているわけではないだろう。時には強力な魔物がいる最前線で戦っていることは間違いなく、今のようにレベルを上げ続けていても追いつく事すらできないと思う。


 ならば、どうすればいいか――その時、携帯電話が鳴った。

 着信を確認すると、同級生。狩場を見つけた人物。


「はい」

『あ、二宮か? ちょっと話があるんだが……』

「今日の件か? それとも狩場のことか?」

『狩場の方だよ。行きたいという面子は集まったんだが……どうする?』

「行くさ。予定は?」

『メンバーに確認するけど……そうだな、さすがに授業のある日は難しいから、次の土曜日にしよう』

「わかった。それまでに準備しておくように指示しておいてくれ」

『おう』


 電話が切れる。二宮は携帯電話をポケットにしまいながら、短く呟く。


「俺が……必ず」


 そう強い決心を抱き、帰り道を歩く――いつのまにかその顔には、不気味な笑みが零れていた。



 * * *



 優七は自宅へ帰り、利奈へひとまず大丈夫だったと告げた後、自室に戻り江口へ連絡。すると「ルームで説明する」とのことだったので、優七はゲートを開き自身のルームへと入った。


 澄み渡る草原には誰もいなかったのだが、ログハウスに入ると桜と麻子が椅子に座り茶を飲んでいた。


「お疲れ様、優七君」

「大変だったでしょ?」


 顔つきから事情を察していると理解した優七は、小さく「まあね」と答えた後、桜の隣に座る。

 そして麻子から茶が渡され――その時、手に書類を持った江口がログハウスへと入って来た。


「お疲れ……特に優七君は大変だっただろう」

「ひとまず何事もなかったのが幸いです」

「そうか……では、現状わかっていることについて説明させてもらう」


 江口は麻子との隣に座ると、報告を始めた。


「まず、イベント直後は特段問題もなく、従来通りのイベントが発動していた……異変が生じたのは少ししてから。新種の魔物が出現したと報告を受け、調査を開始。そこで、数体の新種が報告された。そのステータスがこれだ」


 言いながら江口は書類を優七達へ渡す。確認すると、その中には優七も戦った魔物も含まれていた。


(能力は……魔王城到達一歩手前という感じで統一されているな)


「見てもらってわかると思うが、能力的に高い……しかし連携できれば、優七君達にとっては倒すのはそう難しくない……が、今回かなり苦しい戦いになった。犠牲者は魔物の思考ルーチンが専守防衛なこともあってか、ゼロとの報告が上がっているが……まだ確定しているわけではないため、もしかすると被害が出ている可能性もある」

「この魔物、牛谷の一行が仕掛けたということでいいのよね?」


 麻子が問う。それは優七も訊きたかった部分であり、江口は小さく頷いた。


「その可能性が極めて濃厚だという結論に至った……ゲームの開発者の中で、デザイナーやグラフィック担当などに確認した所、作成した記憶があったそうだ」

「となると、相手は何かしらシステムに介入できる術を手に入れたというわけか」


 麻子の言葉に優七と桜は厳しい顔を見せる――その時、


「だが話は、これで終わりではない」


 江口が続ける。それに優七は顔を彼へと戻し、


「まだ何かあるんですか?」

「実は今回登場した魔物は……いずれ、ゲーム上に出現させる予定であったらしい」

「予定だった?」


 優七は驚きつつも、そこまで予定があったからこそああして魔物をシステムに組み込めたのだと認識する。


「システムに介入したばかりでなく、挙動上は何の問題もない魔物をこうして生み出した……つまりそれは、システムに組み込む準備が整っていたからだ」

「事件前には発表されていなかったはずですが、アップデートが予定されていたということですか?」


 桜が問い掛ける。それに江口は首肯し、


「ああ……それも、相当大規模なアップデートが予定されていた。発表は事件発生時から見て、一週間後を予定していた。サプライズで発表する予定だったらしく、アップデートシステムに関わっていない開発メンバーにも明かしていなかったそうだ」

「なるほど。どうりで私が知らないわけだ」


 システムの末端に携わっていた麻子が呟く。


「アップデートに関わる問題については、その後やるつもりだったのかしら……どっちにしろ、そこから仕事は地獄だったでしょうね」

「かもしれない……ともかく、基本設計についてはできていた。よって、こうして今回、新種の魔物として出現した」

「……すると、敵は」


 桜が零す。江口は同調するように再度頷き、


「相手は現実世界に顕現した『ロスト・フロンティア』の世界を、アップデートしようとしている」

「何のために……?」

「そこまではわからない。今後政府としては牛谷達の行方を継続して追うと共に、どういった変化が見られるか注視していくことになった」


 江口の言葉は重い。そして優七達も沈黙する。


(一体、何の目的で……?)


 優七は胸中で呟く。牛谷はアップデートをすることで、何かしら利益を得ることができるのだろうか。


「それと牛谷の動向についてだが、現在もまだ不明であり……システムに介入した以上、痕跡を発見できれば、もしかすると――」

「ま、期待はしないでおきましょう」


 麻子がバッサリと斬った。すると江口は苦笑し、


「まあ、尽力するとだけ言っておく……それと、問題はもう一つある。今後断続的にアップデートされ続ければ、今回以上の異変が起きる可能性がある」

「現実世界にさらに侵食してくるというわけですか」


 優七の言葉に江口は「そうだ」と同意を行う。


「さらにゲームと現実の境がなくなるのではと、開発していた面々は言っていたよ」

「それほど大規模なアップデートだったんですか?」

「魔物や武器の大きな追加に加え、新たに踏み入れることのできるマップの拡張などが予定されていた……世界観自体も少しばかり広がるらしく、和風系の職業も予定されていたらしい」

「和風?」

「忍者や侍とかだな」

「……ゲームとは別に、どんなアップデートだったのか気になるな」


 優七の呟きに江口は苦笑。


「まあ、その辺りは抑えてくれ……ひとまず今日のイベントによって生じた事件については以上だ。何か質問は?」


 優七達は何も答えず――ひとまず、ここで話し合いは終了した。


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