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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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有名人

 プレイ人口の多かった『ロスト・フロンティア』は、有名人にも少なからずプレイヤーが存在している。


 その中には廃人級のプレイヤーもいた上、顔の広さからプレイヤー達を統制するのにも一役買っており、政府と強い結びつきがある面々であるのは紛れもない事実。

 その中でも筆頭と言えるのが、RINという名の歌手。路上ライブからスカウトされ活動を始めた女性シンガーであり、事件前までティーン層に絶大な影響を与えていた人物だった。


 事件当時彼女はレコーディングをしており、指輪を携帯していなかった。けれどどうにか難を逃れ――以後彼女は、テレビに出る時はギター。そしてプレイヤーとしてはゲーム上で使用していた剣を握り締め前線で戦っている。

 レベルについては事件前の段階で魔王に挑めるレベル一歩手前という感じだった。だからこそ彼女は今回の『祭り』に対して救援役を担っていて――


「……どうしよう」


 優七は人に囲まれながらグラウンドへ向かうRINを見ながら呆然と呟く。

 増援が来たのは、ありがたいとは思っている。ああした魔物が他にいないとも限らないため、もし現れたのなら連携できる相手が欲しかった。しかし、政府関係者だという素性をバラした上で彼女の登場――


 やがて、グラウンド中央にいる優七へRINが近づく。プレイヤー名はリンでそのままだったななどと胸中優七は思いつつ――対峙する。


「……ご苦労様です」

「お疲れ様」


 苦笑しながら相手が応じる。


 肩にかかる程度の髪は綺麗に染め上げられ、コートにジーンズ姿。さすがは有名人なのか、優しげな瞳に鼻筋が綺麗に整っており、醸し出す雰囲気が「オーラが出ている」と表現しても良かった。


 とはいえ、現在の優七にはあまり効果がない。むしろ胸中厄介だと思い、


(ついでに言えば、事情を知らずに英雄について言及された日には……)


 有名人である彼女にはおそらく色々と情報網があるはずで、優七のことを知っている可能性が高い。『影の英雄』についての言及はまずいので、優七はそれが出ないようどうにか声を出そうとしたのだが、


「ごめんなさい、来るのが遅れて」


 言いながら、彼女は手を差し出した。


「LF対策本部広報課、有村燐ありむらりんといいます」

「……LF対策本部討伐課第二班、高崎優七です」


 名乗りながら握手を交わす。そして、一言。


「……RINって、本名なんですね」

「それ、よく言われます」


 苦笑を交え語った彼女は、周囲の取り巻きを一瞥し、


「それと、ごめんなさい。私が来る予定はなかったんだけど、人員が足りなくて……」


(……こういうところは、お役所仕事って感じがするな)


 足りない戦力事情を考えれば仕方がないのだが――余っていたから彼女を派遣しようという適当加減を、優七はなんとなく察することができた。


「それで、ひとまず魔物は倒したんだよね?」

「あ、はい。そうです」

「それなら、待機ってことでいいかな? この騒動をまとめないといけないし」

「ええ……どうぞ」


 逆に面倒なことになったのではと優七は胸中改めて思ったが、言わないでおいた。

 ただ、一つ――英雄云々については言わないでおくよう婉曲的に言っておかなければ――


「あ、それとだけど」


 と、彼女は周囲へ告げる。


「私はあくまでここで援護に来ただけだから、政府の活動についてなどは語れないので……」


 ――それは、優七を配慮した言葉なのかもしれなかった。


 優七はその言動から見て話すことはないだろうと内心思い、口を挟むことをやめにした。


 ――それから場を収拾するまではたっぷり一時間を要した。そこに至りイベントも終了し、後はイベントで出現し街に踏み込んでくる魔物を倒す段階となり、ようやく状況が落ち着き始める。

 その中で優七は待機を命じられた――というのも、先ほどの魔物がまた出てこないとも限らないため、グラウンドで即対応できるように言い渡されていた。


 よって、グラウンドと教室を繋ぐ階段に座っている。


「楽でいいけどさ……」


 RINが色々と話し込んでいるため、逆に優七に近づく者は皆無だった。とはいえ、明日以降色々と話をする羽目になるのは間違いないだろう。どう説明するか考えておく必要がある。


(レベルを誤魔化すことはできるのか……いや、俺がRINさんと話してなおかつ政府組織に所属していると認識した以上、誤魔化し続けるのも変か)


 活動内容の関係上あまり地元に関わることができず、さらに目立つのが嫌だったから――色々と理由を考えていると、グラウンドの外からわだかまっていた面々へ人が接触。そして散開した。魔物が現れたらしい。

 優七は歎息しながらそうした光景を眺めていると――やがてRINが警官に呼び止められ、何やら話を始める。そして二人が会話を終えると、彼女は優七へと歩み始めた。


「RINさんも、待機かな」


 優七は呟く間に彼女は前に立ち、


「隣、いい?」

「どうぞ。RINさんも待機ですか?」

「そういうこと……なんだか救援に来たのに申し訳ない」


 苦笑し、彼女は優七の隣に座る。この状況、まずいのではと優七は一時思ったが、最早関係ないかと考え直す。


「あ、言っておくけれど、影の英雄について話すようなことはしないから」

「……ありがとうございます」

「目立とうとしないのはよく理解できるよ。私も、色々とストレスたまる事もあるから」

「歌手活動で、ですか?」


 問い掛けに、RINは深く頷く。


「歌を歌うのはもちろん好きだし、これからもずっと歌っていきたいと思っているけどね、有名になるということはそれだけ色々あるってこと」


 有名税というやつなのだろうと優七は思いつつ、彼女の言葉を聞く。


「高崎君のことを知っている人は少ないけど、もしバレたらとんでもないことになるのは間違いないだろうね」

「……絶対、喋らないでくださいね?」

「もちろん」


 にっこりと語るRIN。優七はまあ大丈夫だろうと思いつつ、話を変える。


「えっと、とりあえずイベントは終了したようなので、そろそろ撤収じゃないでしょうか」

「そうね。けど連絡が来るまではここで待機する」

「……政府から何か話は聞いていますか?」

「今回の件?」

「はい」

「新種の魔物が出たとしか。理由は解析中らしいけど」

「そうですよね……」

「気になる?」


 質問に優七は深く頷き、


「これはきっと、ロスト・フロンティアのシステムをいじっているという証拠……」

「私も知っている。確かに、相手が何かをしでかしているという可能性は高い」


 言うと、RINはふうと息をついた。


「……私は、たぶんその戦いに参加することはできない。偉い人に死なれでもしたら社会的影響が大きいと釘を刺されているし。今回のことも緊急措置だから、私を派遣した人は色々と言われるんじゃないかな。フォローしないと」

「……そうですか」


 優七が返答した時、グラウンドにプレイヤー達が戻ってくる。


「終わった、かな」

「みたいね」


 RINは立ち上がり、集まりつつあるプレイヤー達の下へと急ぐ。優七もそれに合わせるように立ち上がり、警官がイベント終了と魔物の討伐が完了したことを告げた。


「これで、今回の戦いは終了となります! 解散してください!」


 声を上げ、プレイヤー達は移動し始める……が、なおもRINの下へ行こうとする人物も見られ、混乱はまだ続きそうだと優七は思った。


(俺も……帰るかな)


 彼女がいる間に引き上げる方がここで質問攻めに会うこともないだろうと思い、優七は決断する。幸い警官は二宮と話をしており、彼らから政府関連で何かしら聞かれることもなさそうな雰囲気。となれば、今の内に。


 ただ明日からの学校生活に響くことを考えると、少しばかり憂鬱となるのだが――


「ああ、高崎君」


 引き上げる寸前、優七はRINに呼び止められた。囲まれた状況で、彼女は近づく。


「ごめんなさい、一つ連絡があった。政府関係者からメモを渡すように言われていたんだけど」

「あ、はい」


 応じた優七は彼女から三つ折りにされたメモを受け取る。どういう内容なのか気にはなったが、仕事に関することのはずなのでここでは開かず、立ち去った。


 帰り道、一人優七は歩きながら明日のことを考え少しばかりブルーとなりながら、メモのことを思い出し開ける。


「緊急的なことじゃないよな。江口さんか?」


 推測しつつ折りたたまれたメモを開けると、そこにはメッセージが添えられていた。


『もし何かあったら、相談に乗ります』


 そんなことが書いてあり、さらに携帯電話番号とメールアドレス。さらにロスト・フロンティアのシステムで連絡を取るためのIDなどが記されていた。


「……は?」


 思わず、立ち止まった。


 ここで、いつのまにこんなものを準備したのかなど色々気になることはあった――が、それ以上にメモにある数字やアルファベットの羅列を見て、呆然となる。


「えっと……これって」


 呟きつつ、優七は我に返ると誰もいないのに周囲を見て、慌ててメモをポケットにしまい込んだ。


 ――何の因果か、この戦いを通し優七は、有名人とプライベートに連絡することができるようになってしまったのだった。


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