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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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一騎打ち

 振り下ろされた前足を回避しつつ、優七はどう動くか算段を立てる。


 鶴の一声により、少なくとも警官は動き出している。おそらくこれで周囲の面々が不用意に手出しをすることはないだろう――優七は後のことが気にかかったが、それを押し殺し目前の相手を見据える。


 問題は、思考パターンがどういう風に変わるかということだった。利奈からもらった薬を使えばおそらくダメージを最小限にして戦うことは可能。けれどもし攻撃し、パターンが変化した時に無差別攻撃をするようになってしまったら、収拾がつかなくなる。

 そういう魔物もゲーム上には多少ながらいた――けれど終盤の敵にはいなかったはずなのだが、相手は新種。どう動くかまったくわからない。


 魔物が爪を振り下ろす。優七はそれを回避しつつも――再度魔物が吠えるのを見て、懸念を抱いた。

 戦いが長引けば長引く程、魔物は狡猾になっていく。これは思考パターンの変化というより学習能力の部類に入るもの。消極的な攻めの場合は一転して魔物が攻勢に出る。


 このまま膠着状態に陥れば、ターゲットを変えるかもしれない――ひいてはそれによって犠牲者が出る可能性もある。


(ある程度距離を置きながら、断続的に攻撃を仕掛けるか)


 剣を持ち替えた優七は剣から炎を生み出す。それに反応した魔物は、牙を剥き攻撃しようと前足をかざす。

 優七はそれを回避しながら――反撃に炎をお見舞いする。範囲型の攻撃であるため魔物も対応しきれず、攻撃は命中。魔物は呻くと同時に距離を置く。


(魔法に対し少なからず警戒する思考ルーチンみたいだな……)


 ならば、それを利用し――などと思った直後、魔物が牙を剥いた。


 刹那、優七の体に悪寒が走る。同時に足に力を込め、一気に横へと跳んだ。

 同時に生じたのは、魔物の突進。これまでと異なるような俊敏さで、もし悪寒により跳ばなければ直撃していたかもしれなかった。


(危ない……!)


 一撃でやられるという可能性は低いと思ったが、さすがにダメージを受ければ守勢に回らざるを得ない。それに加え回復のためには魔物と距離を置く必要があるのを考えれば、時間が多少なりともかかる。薬一つ飲む時間くらいは大丈夫なはずだが、そこに消極的な動きを見せることになれば――退避する生徒達に矛先が向かわないとも限らない。


 魔物がさらに攻撃を仕掛ける。先ほどと同様の突進であり、今度は優七も見極めて対処し、


「ふっ!」


 横ではなく、上へと跳んだ。身体強化によって常人とは比べ物にならない跳躍力を見せ、魔物の頭上を飛び越える。

 対する魔物は、前足を上へと薙ごうとした。しかし攻撃しようとした瞬間、優七は空中で足を蹴り、再度跳躍する――『紅の紋章剣』は様々な能力が存在しているが、その中でも大きな特徴がこの、二段ジャンプだった。


 巨体を飛び越え、背後に回る。途端、魔物はターゲットが視界から消えたためか動きが大きく鈍った。

 直後、優七は『セイントエッジ』を起動。リーチを伸ばした剣で、魔物へ襲い掛かる――


「おおっ――!」


 声と共に横薙ぎ。それにより大きく魔物のHPを減らす。体勢を立て直す間に、さらに連撃を重ねる。

 防御的な数値から、一撃で予想以上にHPが減少する。優七はここで選択に迫られた。このまま押し切るか、それとも先ほど立てた作戦通りいくのか――


 魔物が吠える。優七は思考パターンが変わったと断じ、まだ体勢を整えていない魔物を見て、押し切ることを決意する。

 さらに連撃。魔物はそこでようやく体を反転させ、優七へ襲い掛かるべく突撃の構えを見せた。しかし、優七は攻勢の手を緩めず、そのまま剣戟を叩き込んだ。


 さらにHPが大きく減少する。しかし、まだ消滅には至らず――


「くっ!」


 魔物の突進。それに対し反射的に右へ逃れると、今度こそトドメを刺すべく剣を振り抜いた。

 巨体が大きく傾き、一時横倒しになる。それでもまだHPがゼロにはならず、魔物は吠える。


 ダメージを確実に与えている以上、一人でも倒せる可能性が出てきた。とはいえ思考パターンの変化により、逃げる可能性だってある。


(そうなると危険だけど……でも、トドメを刺すにしても特攻は危険――)


 その時、脳裏に利奈の顔が浮かんだ。そしてもらった薬を思い出し、


「それしか、ないか!」


 優七は一度魔物から距離を置いた。次いでメニューからアイテム――利奈から受け取った、防御能力を倍増する薬を出現させる。

 唐突な後退により魔物は一時動きを止め――やがて、周囲に目を向けようとする。この時点で多くの人は運動場を脱していたが、事情もわからずやって来た人間も存在し、そちらへ襲い掛かりそうな所作も見せる。


 優七は急いで小瓶の蓋を開け薬を飲む。そして効果が発揮されると共に、地を蹴った。

 魔物もそれに反応。すぐさま視線を優七へ戻し、爪を向ける。


 攻撃に対し優七は、よけなかった。振り下ろされた攻撃に構わず前進し、ダメージを追いながら接近する。


「――おあああっ!」


 雄叫びと共に、優七は『セイントエッジ』発動中の剣を叩き込む。連撃技である『クロスブレイド』を叩き込んだ後、流れるように剣を振り――そして、


 魔物が断末魔を上げた。どうにか、魔物を倒すことができた。


(やった……)


 優七は胸中で呟きながら、肩にのしかかるような疲労を感じた。気付けば汗が噴き出し、息もずいぶんと荒くなっている。


(大丈夫だと思っていても、特攻するのは怖いな……)


 優七自身、ソロで戦うのも久しぶりだったということもある。仲間との連携も無く、死ぬ可能性は当然高く――そうした状況下で戦ったことはずいぶんと久しぶりであったため、こうして疲労が一気に押し寄せた。


 今回も、薬による強化によりマージンは十分に取っていたはずだった。HPを確認しても、それほど減ってはいない。しかし、相手の攻撃が運悪くクリティカルすれば――たった一発で死は無いにしてもそこから立て続けに攻撃を食らい続ければ死ぬ可能性はゼロではなかった。


(……もし、これが何かの計略として行われたのだとしたら、今後こういう戦いを覚悟しないといけないのかな)


 優七は息を小さく漏らし、メニュー画面を開く。状況を確認するべく江口へ連絡を行おうとした時、


「――高崎君!」


 警官の声。振り向くと、走ってくる彼の姿。


「どうしました?」

「避難は完了したんだが……魔物は倒したから、こちらに戻って来てもいいのかい?」

「え、あ、そうですね……それを確認しに?」

「増援の人が現れて……ちょっと収拾がつかなくなったというか」

「収拾?」

「だからとりあえずここに連れてきていいかい? ひとまず優七君と引き合わせた方がいいと思うんだけど」

「……誰が来たんですか?」


 興味本位で尋ねると、警官は身振り手振りを交え、


「その――歌手の、RINさんが――」

(……えっ!?)


 聞いた直後、優七の胸中は驚愕で満ちることとなった。



 * * *



 桜達は江口からの要請を受けて新種の魔物と交戦を行い――それを終え一度ルームへと戻った。

 そこで江口から報告を聞き、優七達の暮らす場所に魔物が現れたと報告を受けた。


「優七君は大丈夫なんですか?」

『ああ。どうにかね』


 桜の問いに江口は歎息を交え答える。


『増援を送ったんだが、その人物が到達する前に倒したようだ』

「ということは、一人で?」

『まあ、日夜戦っている以上、レベルも多少ながら上がっていたのだろう。とはいえ今回の魔物はかなり強力だった……犠牲者が今の所出ていないのは正直、奇跡としか言いようがないな』

「それは何よりです……それで、優七君についてですけど――」

『どうも一時的に指揮権を接収したらしい』

「え――」


 それは――おそらく優七自身が望んでいない結末のはず。けれど彼は、犠牲を出さないために動いた。


『それにより、どうにか対応した……のだが、別の問題があってね。これは、私達の過失だ』

「何が、起こったんですか?」


 問いに、江口は渋い顔をした。


『――すぐに対応できる人物ということで連絡した結果、増援はRINさんだったんだが』

「……うわ」


 隣で聞いていた麻子が声を上げる。


 桜も思う――それは、余計に話を複雑にしてしまうだろう、と。


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