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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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最悪の選択

「――駄目だ!」


 包囲しようとする周囲のプレイヤーに対し、優七が叫ぶ。近づくなという意味合いらしい。

 熊型の魔物はグラウンド中央付近にいる優七と対峙をすると、動きを止める。どうやらプレイヤー達に囲まれているため警戒しているらしく、優七の様子を窺っているような形。


 それに対し、優七は剣を構える。よくよく見ると剣がホーリーシルフに変わっている。その武器の能力から改めて上級プレイヤーなのだと二宮は認識すると共に、周囲に指示を出す。


「全員、魔物を遠巻きにして――」

「二宮!?」

「集中攻撃で一気に片を付けた方がいいだろ」


 二宮の言葉に合わせるように、周囲の面々は動き始める。言動については優七の言葉よりも二宮の指示を周囲の面々が聞くのは必定で――

 優七は険しい顔と共に剣を構えた状態でメニュー画面を呼び出す。そしていくつか操作をした後、


「見てくれ!」


 それは、眼前にいる魔物のステータス。それを一瞥した二宮は、


「……っ!?」


 その魔物が最上級ランクに属する魔物だと気付き、呻く。

 この防御能力だと、おそらく周囲の面々の攻撃は蚊に刺された程度だろう――そう認識した二宮は即座に指示を出そうとした。


 しかし、今度は魔物の動きが先だった。突如前足を振り上げると、二宮達目掛けて振り払うような一撃を見舞う。


「っ……!」


 優七は即座に回避に移る。次いで二宮も剣で防御しながらそれを弾こうと試みる。

 結果、優七は敏捷性を頼りに攻撃をかわし、二宮は剣で受け流すことになった。けれど腕に触れた剣が予想以上に持っていかれ、一瞬バランスを崩す。


「ぐっ……!」


 ダメージはないが、あやうく転倒しそうになる。対する優七は即座に姿勢を戻し、剣を振る。

 放ったのは――おそらく『エアブレイド』。基本技の一つは魔物の腕によってあっさりと弾かれる。


 その回避行動を見て、二宮は学習能力が働いているのだと悟った。攻撃を見極め回避する手段というのは魔物の特性の一つ。ただ目の前にいるような動物系の魔物は本来そうした能力が低めに設定されているはずなのだが――上級の魔物は異なるらしく、目の前の魔物は容易に技を学習できるレベルのようだった。


「なるほどな……」


 二宮は納得の声を上げる。ステータスを確認し、広い場所が必要だと断じた優七はここに誘導した。そして政府関係者に連絡しろと指示をした。

 優七としては本来なら自分で連絡したいところだろう。けれど通信を行う場合は戦闘態勢に入っていないということで、技や魔法が使えない。だからこそ二宮に依頼したのだろう。


 状況を理解した二宮は、思案する。このまま退いて連絡するのが本来正しいのだが――


「高崎!」


 呼び掛ける。それに彼は視線を変えず反応。


「二宮……すぐに連絡を!」

「お前ならこの魔物と戦えるのか?」

「悠長に会話をしている場合じゃ――」


 告げた瞬間、優七を狙った一撃。それを彼は再度回避する。

 ここに至り、グラウンドにプレイヤー達が集まり始めていた。なおかつ魔物を遠巻きにして魔法を撃つ体勢を整えている。おそらく二宮が号令を掛ければいつでも攻撃し始めるのは間違いない。


 けれど――集中砲火を浴びせ倒れなかった場合、魔物は無作為にプレイヤー達を狙い始める可能性がある。先ほどの能力を勘案すれば、倒せない可能性が高い。そして目の前の魔物に対して確実なダメージリソースを持つのは優七と、二宮くらい。


 二宮はなおも考える。ここで優七が立ち回り目前の魔物を倒せば――どうなってしまうのか。


「二宮!」


 苛立って声を掛ける優七。そして再度攻撃を回避する。本来なら全力で反撃したいところだが、ダメージを与え続けると思考パターンが切り替わるため、迂闊に攻撃できないのだろう。


 二宮はなおも逡巡する。魔法を撃って相手を怯ませつつ倒す――というのは、そもそもあの防御力である以上難しい。かといってこのまま優七の指示に従えば――


 優七はなおも声を上げようとした時――今度は、警官服の人物が割って入った。


「二人とも! 一体何を――」


 告げた直後、魔物が咆哮を上げ前足を横に薙いだ。それに優七は再度回避。そして腕は、二宮達へと迫る。


「っ……!?」


 慌てて回避。警官も驚き回避したが――その衣服に、攻撃が掠った。


「うっ……!?」


 同時に、声。見ると彼のHPバーがおよそ三割ほど減少していた。


 ――彼の能力は今グラウンドにいる面々でもそう悪くは無い。その彼が攻撃を掠めただけで三割となると、およそ壁役にもなれない。


「……に、二宮君! どうする!?」


 ダメージに警官は呻き、呼び掛ける。それに二宮は再度逡巡した。この期に及んで、まだ様々な感情が――


「――くそっ!」


 途端、優七が声を上げた。同時に彼は魔物と距離を取ると剣を一時手放し制服のポケットに手を突っ込んだ。

 何をするのかと二宮が疑問に感じた時――悟った。そして、


 二宮は逡巡が、最悪の選択であったことを認識する。


 優七は再度放たれた魔物の攻撃を避けると、ポケットから取り出した何かを警官へ投げた。

 警官は驚きつつ投げられたそれを手に取る――手帳だった。


 しかもただの手帳ではない。警察手帳にも類似した――ロスト・フロンティアのロゴマークである剣の印が刻印され、なおかつ『LF対策本部』の文字が。

 それを見た瞬間、警官の目の色が変わる。


「LF対策本部討伐課第二班所属の、高崎優七です! 討伐課権限により一時的にこの場の指揮権を接収します!」


 ――その口上はひどく洗練されたもので、おそらくもしもの場合言うよう政府から言い渡されていたのだと二宮は認識する。


「まずこの場にいる面々にお伝えします! 目の前にいる魔物は魔王城にいる魔物に匹敵する存在であり、この場にいるプレイヤーのほとんどは一撃死するレベルです! すぐに退避してください! もし同様の魔物を見かけた場合、すぐに政府と連絡を取り退避してください!」


 さらなる呼び掛けに周囲の面々は沈黙する。その間に優七は二宮へ視線を送り、


「……頼む、二宮。連絡と、この場にいる面々の退避と、政府に連絡を――」


 その目が、ひどく懇願しているものであったため、二宮は何が言いたいのか察する。

 犠牲を一人も出したくない――そう強く願っているのは、政府系組織に所属しているだけでなく、あの魔王との戦いを強く胸に刻んでいるためなのだろう。


「……わかった」


 二宮は承諾し、同時に自分がとんでもない悪手を選んだことを悟る。逡巡しなければあの手帳が出ることはなかっただろう。優七は煮え切らない二宮の態度を見て、周囲に呼び掛けることを選択した。政府系組織所属の人間だと言われ皆は戸惑ったが、一時的に動きを止めた。


「――全員! 魔物から退避!」


 二宮は叫ぶ。そして、誰もが魔物から距離を置き始めた。


「……高崎、お前は」

「俺は戦う」


 決然とした言葉。


「ソロで倒せるかはわからない……けど、援護が来るまで時間を稼ぐ」


 その声音は強い意志を秘めており、隠したかった事実を押し殺し――政府の人間として役目を全うする気なのだと二宮は深く理解する。

 判断が遅れた自身の立ち回りに後悔しながら、二宮は行動を開始。同時に魔物を見据え――どう足掻いても自分では勝てない相手だと知り、小さく身震いをする。


「おい、二宮!」


 そこへ、様子を窺う男子生徒の一人が声を上げる。二宮はそちらへ駆け寄りメニュー画面を呼び出し、


「高崎って……政府の人間だったのか!?」

「今はそんなこと話している場合じゃない。理由は後で聞こう」


 二宮の顔つきに相手はそれ以上語らず、小さく頷くに留めた。

 ふと視線を優七へ贈ると、魔物を目の前にして剣を構える姿が見える。よくよく見ると使用する剣がいつのまにか変わっていた。あれは――


(紅の……紋章剣?)


 胸中で疑問が頭をもたげた瞬間――魔物が、咆哮を上げ優七に攻撃を開始した。


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