表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/137

新種の存在

「まずい……!」


 新種の魔物に近づくプレイヤー達に、優七は呻く。魔物はどの程度の能力なのかわからない。けれどクリムゾンベアと同じような体格を持っている以上、高レベルである可能性も否定できない。


 熊型の魔物は声に反応したはずだが――あくまで専守防衛のつもりか、動かない。それを幸いとばかりに、優七は思考する。


 この周辺で優七を除いてレベルの高いのは二宮。けれど彼の装備や能力を勘案した場合、あの魔物がクリムゾンベアと同等レベルの能力とするなら、連続攻撃を受ければ沈む可能性が高い。


 ならば――優七はまず雨内に声を掛ける。


「すぐにグラウンドまで戻って!」

「え……でも……」

「いいから!」


 強い言葉であったためか、雨内は目を白黒させつつ――やがて小さく頷くと、元来た道を戻り始める。

 その間に他の面々が魔物の様子を窺うべく動き始める。見た所直接攻撃系の能力者ばかりであり、優七は遠距離攻撃しないでくれと内心祈りながらメニューを開く。


(貴重なアイテムだけど……)


 優七は即座にルーペのアイコンをアイテムとして使用する。よく使用するのは魔物の体力だけを表示させるものなのだが、今回は違った。

 レアリティが高く、優七自身一つしか持っていない貴重品――それを使用すると、魔物のステータスが表示された。


『シルバーフォトンベア』


 そう名がつけられた魔物であり、ステータスを確認すると、クリムゾンベアよりは劣るが、それでも二宮が戦えるかどうか微妙なラインだった。


「いや……ちょっと待て」


 優七は再度呻く、クリムゾンベアと比べて大きく異なるのは、その敏捷性。他の能力値は劣っているが、明らかにそのステータスだけが高い。


「攻撃力が低いが、その分敏捷性が上がっている……?」


 クリムゾンベアも瞬間的な攻撃速度はかなりのもの。しかし通常の移動は緩慢で、だからこそ付け入る隙がある。だが、もし通常の移動も俊敏となれば――


「まずい……」


 ますます攻撃を仕掛けようとするプレイヤー達に勝ち目がない――視線を送るとまだ逡巡しているのか剣や槍を向けた状態のまま待機している状況。


 仕掛けるなら、今しかないと優七は思いつつ――なおも考える。このまま攻撃を仕掛け、一騎打ちで勝てるだろうか。ステータスを見る限り攻撃力的には防御さえしっかりしていれば十分対応できるレベルではある。けれど――


 これ以上考えている暇はなかった。今にも一団が攻撃を仕掛けようとしている。もしこの俊敏性で攻撃が行われた場合――

 逃げずに戦う気であるということは、間違いなくステータスを確認するアイテムなどを彼らは持っていないはず。優七はここで覚悟を決め、メニュー画面を開いた。


 次いで素早く装備している武器を変更し、ホーリーシルフに切り替える。持ち替えた直後メニューを消し、すぐさま向き直る。

 まだ一団は攻撃を開始していない。今しかない――優七は決心し、


 剣を振る。同時に『エアブレイド』を魔物へと射出した。


 結果、魔物に技が直撃する――それにより魔物は咆哮を上げ、優七の方へと走り出した。

 クリムゾンと比べれば恐ろしい程速い。優七はあちらのプレイヤーに行かなくて良かったと心底思いつつ、再度『エアブレイド』を放つ。


 だが――走りながら魔物はそれを前足で弾いた。学習能力だと思いつつ優七は走り出す。

 クリムゾンベアであれば相手から逃げることはそれほど難しくなかった。しかし、目の前の魔物に対しては、通常では追いつかれる。


 優七は速力を強化し飛び跳ねるように移動し距離を置く。魔物は相変わらず突き進んでくる。周囲の木々や雑草をものともせず一直線に向かってくる様は、恐怖以外の何物でもない。


「どうする……?」


 雑木林の近くまで到達した時、優七は呟く。このままの速度を維持すれば撒くことはできる。けれどそれをすれば魔物は動きを止め、他のプレイヤーを狙うだろう。

 あれだけの速さを持っている以上、他のプレイヤーは逃げられない可能性が高い――優七は出口付近から学校を一瞥する。


 どのような攻撃をするかわからないが、少なくともあの魔物と相対するためには、広い場所が必要だということ。

 だがそれは、同時に優七の存在を露見する意味でもある。


 その時、魔物の咆哮――優七はそれによって、決断した。


「……やるしか、ないよな」


 優七は呟き、走ってくる魔物を見据える。そして再度身体強化を用い、移動を開始した。



 * * *



 二宮が異常に気付いたのは、学校のグラウンドに戻って来た時。優七と共に行動していたはずの雨内がやってきて、状況を聞いた。

 内容は、熊型の魔物が森の中にいたということ。彼女は見たことがないというものであったため、二宮は少し訝しんだ。


 『祭り』で生じる魔物のレベルはそれほど高くないため、二宮や雨内だって見たことのある魔物ばかりのはずだった。けれど雨内は見たことが無い。これは一体何を意味するのか。


「今、高崎は?」


 問い掛けるが、彼女は首を左右に振る。一度様子を見に行った方が良いのではないかと思い、足を動かそうとした。

 その時――魔物の咆哮が聞こえた。やや遠くではあったのだが、その声にグラウンドにいたプレイヤー達がざわつき始める。


「……好戦的な魔物のようですね」


 近くにいた警官のプレイヤーが告げる。二宮は頷きつつ、


「ここで待機していてください! 俺が様子を見てきます!」


 グラウンドの面々に呼び掛け、走り出す。

 さすがに優七が負けるとは思っていない。ただヘマをやらかしたという可能性はあり、だからこそ二宮としては少し興味が湧いた。


 足早にグラウンドを出て、確認する。そして見えたのは、こちらへと疾駆してくる優七と――


「グラウンドの中央を開けてくれ!」


 優七が叫ぶ――二宮の視線は、彼の奥にいる見覚えの無い魔物に注がれる。

 知識に一切ない魔物だった。上級レベルの魔物なのかと思い、なおかつ慌てる優七の様子がずいぶんと印象的に見える。


「二宮!」


 反応が無かったためか再度叫ぶ優七。そこで二宮は我に返り、優七へ告げる。


「――わかった!」


 驀進(ばくしん)する魔物を見て危険だと思い――二宮はグラウンドへ戻り、


「全員、グラウンドの中央を開けてくれ!」


 すぐさま指示を送る。最初プレイヤー達は戸惑った様子だったが、魔物の咆哮を聞くと行動を開始する。

 同時に二宮はどうするべきか思案する。優七が魔物を見て戦える場所に誘導したのは理解できる。けれど彼のステータスを考えれば、その場で倒すことだってできるのではないか。


 あるいは、わざと目立とうとして――と考えたがそれはないと二宮は思った。基本的に自分のことを隠そうとしていた彼の姿を見れば、その行動が矛盾しているのはすぐに理解できる。


 考える間に優七がグラウンドへ入ってくる。二宮は剣を握り――次いで魔物がグラウンドへ登場する。


 銀色の体毛を持った熊型の魔物――こうした魔物の中で最上級なのはクリムゾンベアなのだが、優七はこの魔物をそれに近い能力だと思っているのだろうか。けれど本来そのレベルの魔物が『祭り』で出現することはない。だからこそ杞憂だと二宮は思ったのだが、


「二宮!」


 優七は中央付近に辿り着くと足を止め、魔物を見据えながら一方的に話を始める。


「緊急事態だ。あの魔物をどうにかするから、政府関係に連絡をしてくれ」

「は? 連絡?」

「新種の魔物なんだよ。どう考えても理屈に合わないけど……とにかく、この『祭り』でおかしなことが起こっている」


 新種――なるほど、確かにそれならと二宮も合点がいく。


 だが、その新種を警戒してここまでここまで戻ってきたのはなぜなのか――それを問おうとして、

 再度魔物の咆哮。それにより周囲のプレイヤー達が魔物を囲み始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ