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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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祭りの始まり

「……さて」


 パソコンと睨み合いを続ける牛谷が呟いた時、突如部屋の扉が開く。


「牛谷、経過はどう?」

「……ノックくらいしろ」


 影名だった。警告した後、牛谷はパソコンから目を離し向き直る。


 かくまわれた屋敷の中の一室だった。それなりの広さがあるはずなのだが、所狭しとパソコンを始めとした情報機器が存在しているため、かなり狭く感じられる。

 そうした中、トレーナーにジーンズ姿の影名に対し、牛谷はよれたカッターシャツを正しながら語る。


「ひとまず、システムの設計は完了だ。結果の確認については現地に飛ぶわけにもいかないため、掲示板からの連絡を待つしかない」

「政府が動いている以上、少しくらいは情報統制するんじゃないの?」

「さすがにこのシステムが稼働したら多少なりとも混乱するだろう。いくら政府でもプレイヤー達の質問まで妨げるわけにもいかないし、掲示板を完全に管理できているわけでもないはず……ま、確認の方は容易にできるだろう」


 呟きながら牛谷はキーボードの近くに置いてある缶コーヒーを手に取った。


「さて、一通り作業は終了したため、とりあえず仕事は一区切りだ」

「お疲れ……で、これが成功したら本格的にアップデート作業?」

「ああ。だがそれをするにしてもまだ準備は必要だ。今回の作業の結果を確認した後、さらに外に出ずひたすらモニターと向かいあう日々だ。影名、手伝えよ」

「ええ、いいわよ……けど、今回の『祭り』参加者は不憫よね」


 そう言うと影名は突如笑い出す。


「これからの展開を考えると、当事者達はたまったものではないわね」

「まだ極端な変化ではないため、場の混乱が極まるなどということはないだろうが……影名、政府は私達がやったという可能性を必ず考慮するだろうから、ここからは時間との勝負になるぞ」

「わかっているわよ……一応確認しておくけど、ここが見つかる可能性はないのよね?」

「私達が車でこうして来ている以上、証拠はそれなりに残していると思うが……まあ、無人の道を駆け抜けてきた以上、確率は限りなく低いだろう」

「そう……言っておくけど、犠牲になるような真似は遠慮するからね」


 見捨てようとした点を指摘しているのだろう。途端、牛谷は苦笑する。


「わかっているさ……さて、そろそろここの主とも話をしないといけないな」

「話?」

「アップデートの内容だよ。あの人にはある程度概要を話しているが、今回の件が片付いたらより詳しく教えろと言われている」

「場合によっては、要望でも出されるんじゃない?」

「むしろその可能性の方が高いだろうな……では行くか」


 牛谷は席を立ち部屋を出る。それに影名もついてくる。


「お前は来なくていいぞ」

「気になるのよ」

「アップデートの内容が?」

「ええ。それに私だけ手伝いながら蚊帳の外というのも癇に障るわね」

「……作業を手伝う以上、これから嫌という程見ることになると思うのだが」


 再度苦笑した牛谷は、ある程度廊下を進むと立ち止まる。目の前には一枚の赤い扉。主の部屋だ。

 そこへまずはノックする。反応はないが、規則正しい生活をしている主は、この部屋にいることを牛谷は把握していた。


「牛谷です、失礼します」


 反応がないのもいつものこと。牛谷は扉の前で声を発した後、扉を開ける。

 中は壁際が本棚で埋められた大きな書斎。そして、牛谷の目に主の姿が飛び込んできた――



 * * *



「――スタートだ」


 二宮が宣言した直後、中学校のグラウンドにいたプレイヤー達がにわかに警戒を始める。


「わかっていると思うが『祭り』は一度に同時発生じゃなくて、断続的に出てくる。イベント終了時刻までは、警戒を怠らないようにしてくれ!」


 さらに二宮は指示を出し、全員が動き出す。集められたプレイヤー達は一度点呼をとったあと持ち場へと移動する。優七もそれに合わせて歩き始めた。


「えっと、場所は……」

「あ、高崎君」


 女子の声。首を向けると、制服かつお下げの女の子が一人。


「雨内さん……そっか、俺とペアか」

「う、うん」


 頷く彼女――名は雨内(あまうち)時子(ときこ)といい、優七のクラスメイトでもある。


「高崎君と組んでくれって二宮君が」

「わかった。それじゃあ持ち場に行こう」


 優七は彼女のプレイヤーレベルを思い出しながら提案。能力としてはメンバーの中でも中ぐらいかつ、ソーサラーであったはず。

 雨内は「よろしく」と告げると、隣同士で移動を開始。他の面々が緊張を伴った表情で移動する中、優七は別のことを考える。


(ここでイベントが起きなかった場合は……まあ、どこか危なかったら連絡が入るか)


 ただ連絡を取れば、政府関係者であることがペアを組む彼女に露見してしまう。そうなった場合どう話すか考えながら、優七はグラウンドを出た。

 持ち場は校庭近くの雑木林。学校に対し北側に存在する場所だが、グラウンドから近い。優七は来るかどうかもわからなかったため、グラウンドにいる人間が対処できる場所に配置したのだろう。


「……高崎君、大丈夫?」


 ふいに雨内が問い掛けてくる。それに優七は首を傾げ、


「大丈夫、って?」

「最近、二宮君が呼び掛けても集まることもなかったから……」


 怖くなったのではないか――そういう可能性を考えていたらしい。優七はそれにどう返答しようか多少考え、


「……以前、暮らしていた場所の人間から協力を仰がれて」

「あ、そうなんだ」

「本当はその場所にいる人達で対処すべきなんだろうけど、人手が足りなくて俺が頼まれたんだ。ま、魔物のレベルもそう高くないから、俺がいなくてもどうにかなったわけじゃないと思うけど」


 そんな曖昧な表現でまとめる。対する雨内は納得した顔を見せつつ、さらに質問を行う。


「そっか……その人達は、強いの?」

「まあ、そうだな……俺と似たりよったりかな」


 桜達のことを思い出しつつ優七は言及。決して間違ってはいない。


 ともあれ、嘘であることに変わりはなく、優七としては多少良心が痛む。ただ何事もなく暮らす上で政府の人間であることは伏せた方がいいのは自明の理であり、だからこそこうして嘘を――


「……ん?」


 正面方向から気配。視線を移すとフィールドに出てくる低級の狼が優七達に視線を送っていた。


「……『祭り』の魔物じゃないみたいだな。通常のエンカウントか」

「私が倒すよ」


 提案した雨内は、優七の答えを待たずにメニュー画面を開き、手に杖を装備する。

 そうして放ったのは火球――威力はそれなりだが狼には致命傷だったようで、直撃すると小さな煙と共に光となって消える。


(ひとまず、イベント開始直後からこの場所に変化はないみたいだな)


 優七は心の中で呟きつつ、このイベントがどこまでの範囲で、さらにいくつ発動するのかを考える。


 イベントの発動箇所は、ゲーム上ではいくつも数はあれど何十ヶ所とあるわけではなかった。けれどここは現実世界――『祭り』によって生じるイベントは定められた数で決まるのか、それとも街やプレイヤー人数などの割合などによって決まるのかによって、発生数が大幅に変わってくる。


 何かしらの割合だとすると、イベント発生数も膨大になる可能性がある。だからこそ優七として不安を憶えたりもしているのだが――


 ふいに、優七はメニュー画面を開く。雨内がその動きを見て首を傾げたが、無視して操作。掲示板を開いたのだが、いくつか支援要請が上がっているくらいで、その要請も全て政府関係者のアカウントによって対処されていた。


「そう数は……多くないのか?」


 優七は呟きつつメニューを閉じる。すると雨内が視線を向け、


「ここは外れかな?」

「どうかな……とりあえず、終了時間まで待機しよう」


 目的の雑木林前に到着。エンカウント範囲は既に侵入しているのだが、周囲に魔物の姿は見えない。


 優七としては出てきてほしくないと思いつつ、雨内の目もあるため中級レベルの剣を取り出し、装備。対する雨内は杖を周囲にかざしつつ警戒を始める。


 ――もし、現状でイベントが発生したら。その中で難敵が現れた場合――優七はそうした想像と共に再度メニュー画面を開き装備欄を確認する。

 現在主力武器として所有しているのは『死天の剣』と『ホーリーシルフ』と――雪菜が吸い込まれた時に手に入れたレアドロップの剣『紅の紋章剣』の三つ。最後の剣も多少なりとも使用し優七も剣固有ではあるが魔法が使えるようになっている。


 メインに使うのであればを『ホーリーシルフ』だと思ったが、支援系の魔法が使えるなど『紅の紋章剣』は有用であるため、もし立ち回るならば後者を使った方が良い可能性は高い。そして『死天の剣』は攻撃力は高いのだが影の英雄の話もあるため、使うのはまずい。となれば――


(もし強敵が出現した場合、倒せそうならその場で対処。無理そうなら……グラウンドまで後退するしかないか)


 露見しないようにするといっても、もしもの場合は別――優七は心の中で断じると、最悪な状況になっても立て直せるようなシミュレートを開始する。

 そこからは、どこからか聞こえる鳥の鳴き声を耳にしながら――来るかもわからない魔物に対し、注意を続けた。


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