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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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彼の決断

 二宮が先の事件に関する話題を口にした理由。それは紛れもなく、自身のステータスを参照したいという目論見があるのだろう。


 戦力として計算する以上、どういった能力なのか知りたいと思うのは一理ある。今回の『祭り』に対し色々と考慮するのは当然のことであり、万全を期すためには優七の戦力も勘定に入れて考えるべきだというのは、間違いない。


 しかし、問題が起こる可能性が――ステータスはさすがに誤魔化せない。その能力を一目見れば、二宮どう反応するのか不安だった。


 優七は以前、転校してからロスト・フロンティアのプレイヤーだと説明してから二宮のステータスを見る機会は二度あった。ただしそれは彼が見せつけたわけではなく、メニュー操作をしている時に偶然見た程度ではあった。そこから考えるに、自身よりレベルが低いのは確定している。


 この場所でリーダーとして戦っている二宮が優七のステータスを見てどう考えるのか――そこが、たまらなく不安。


「どうした?」


 問う二宮。小首を傾げた彼に対し、優七は慌てて口を開く。


「ああ、えっと……別に、いいよ」


 拒否する理由も思いつかず、流れでそう答えてしまう。途端、優七は少なからず後悔する。

 果たして大丈夫なのか。けれど答えてしまった以上見せるしかない。


「よし、じゃあ頼む」


 気軽に言う二宮。それに対しやや逡巡する優七。


 これは大丈夫なのかと優七は疑問抱くが、歩を進めながら催促する二宮に対し、とうとうメニュー画面を開くしかなかった。


(……よくよく考えたら、桜さんと戦っている以上、当たりはつけているのかもしれないな)


 そんな希望的な予測を立てつつ、二宮にステータスを見せる。そして、

 彼の言葉が、止まった。画面を凝視し、表情も固まる。


(うわ……)


 一瞬、引かれたのかと思ったのだが、やがて彼は声を上げ、


「お、おう……なるほど」


 そう呟いてまたも沈黙。予想以上だったらしい。


 こうなると、優七はどうフォローを入れるべきか考えなければならない。二宮はこの街でプレイヤーとして中心に立つ人物。変にステータスを誇示すると余計な角が立つ必要もある。


 だからこそ、優七は思い浮かんだ言葉を口にする。


「……ほら、レベルは高いけどさ、俺は政府関係で色々と土日回らなきゃならないし……」


 この街の警備をするのは難しい――と言うつもりだった。二宮は意を介したらしく「わかった」と告げ、


「でも、こんな能力なら何で隠そうとしているんだ?」

「それは……」


 さらに言葉を濁す。それを説明するにはおそらく優七自身が『影の英雄』であることを話す必要性が出てくるかもしれない。

 それだけは避けなければならない――そうした見解が優七の頭に生まれ、


「その……話せないけど、色々事情があって」


 曖昧な表現で逃げるしか方法がなかった。


「だけど、ほら……今回は『祭り』で色々と問題が起きるかもしれないから特別ということで……けど、できるだけ秘密に」

「わかったよ」


 二宮は頷き、視線を戻す。優七は最初以降あまり反応していないため内心ほっとしていたのだが、


(この戦いで……俺のことがバレて、もし二宮の立ち位置に変化があったとしたら――)


 相当厄介なことになってしまうはず――そうならないことを内心祈りながら、優七は学校へと歩き続けた。



 * * *



 能力を見た時、自身と優七の間に隔絶とした差があることを二宮は認識する。

 隣にその相手がいるため、二宮は内心の心情を押し隠してはいる。けれど、その心の内には危惧しかなかった。


(こいつには、力がある)


 自分のやってきたことを、全てかっさらうだけの力が――もし目立とうとすれば、自分など蚊帳の外に置かれてしまうだろう。


 そうはさせない――二宮は固く決意すると共に、心情を露見しないように努める。


 さらに思うのは、やはりレベルアップが必要だということ。政府の人間として戦っているのなら、当然相手をする魔物の質も高いはず。つまり得られる経験値なども二宮より多いはずであり、そうした人物に勝つためには、量だけでなく質も確実に増やさなければならない。


 やはり稼ぎ場所を探させてよかったと二宮は思う。それらしい場所というのがどの程度のレベルかはわからないが、二宮自身腕に自信もあったし、何より過去の経験に裏打ちされている。

 自身のレベルでも、連携を駆使してではあったが――最上級クラスの魔物と戦ったことがある。仲間内で行けば十分に戦えると二宮自身思っている。


 本来はもしもの時に――という心積もりだった。けれど優七のステータスを見て、一刻の余裕もないのだと悟る。


 現状やるべきことは決まった。まずは目先の『祭り』を片付けた後、経験値稼ぎを始める。そして横にいる相手と戦えるレベルに達したら、改めて――


(こいつには、負けられない)


 一方的な感情であることは紛れもない事実で、なおかつ優七には戦意がない――けれど、二宮は彼をただ敵としか思えなかった。


 同時に無策のまま戦っても勝てないことは認識する。あのステータスを考えれば、おそらく魔王と戦う面々と互角だったはず。いや、あるいはロスト・フロンティアの世界が現実化した時、最前線で戦っていたのかもしれない。その功績から、政府の人間として色々と動き回っているのかもしれない。


 そう考えると、合点がいった。それならば『影の英雄』クラスに匹敵する相手かもしれない。


(ならば、なおさら負けられない)


 心の中で二宮が断じた時、前方に遠目ながら学校が見えた。『祭り』まで、もうあまり時間もない。


「よし、行くぞ」


 二宮が先導して進む。それに優七は黙ったまま追随し、


(……絶対に、勝つ)


 強い決心と共に、二宮は歩き続けた。


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