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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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祭りの日

 翌日、優七は制服姿で学校へ向かうために準備を行う。江口からは待機と言われてもいたのだが、とりあえず学校に応援へ行こうと決めていた。

 休日だというのにこういう形で武器を握ることは多くのプレイヤーにとって不本意かもしれない。けれど今の優七は休みも戦うケースが多く、最早慣れっこと言ってもよかった。


「そう考えると、結構頑張って働いて、いるよな?」


 なんとなく呟いてみるが、自室であるために当然誰も応えるようなこともない。やがて部屋を出て優七はリビングへ。昼食は先ほど食べ終え、義理の叔母である利奈が後片付けをしていた。


「あの……行ってきます」


 優七が彼女へ呼び掛けると、利奈は突如水道を止めた。


「あ、ちょっと待って」


 そしてパタパタとスリッパの音を響かせて近寄ってくる。そしてポケットから何かを取り出し、


「はい、これ」


 と、唐突に優七へと差し出した。

 それを確認すると、小瓶だった。


「これは……?」

「補助アイテムね。よかったら使って」


 唐突な言葉に、優七は面食らう。


「突然どうしたの?」

「ほら、イベントだし色々あるかなと思って、優七君にアイテムを渡そうかと。けど私は経験値稼ぎしているわけでもないから、所持していたアイテムを集めてこのくらいしか作れなかったけど」


 彼女は再度小瓶を差し出す。優七は多少驚きつつそれを受け取り、


「……ちなみに、効果は?」

「一定時間、防御力が二倍」

「すごい性能だ……」


 倍、という数値をアイテムで出すにはかなり高価な物を使わないといけない。加え調合スキルもかなりのレベルでなければならない。


「結構、貴重だよね」

「気にしないで……私は戦闘能力も高くないし今回出番がなくて、このくらいしかできないから」


 そう言うと利奈は苦笑する。


「こういうことくらいしかできなくてごめんね。気を付けて」


 彼女は優しく言う。それに優七はなおも驚きつつ、


「……うん。大切に使わせてもらうよ」


 優七が言うと、利奈は嬉しそうに笑う。それに優七は笑い返しつつ、


「それじゃあ……いってきます」


 メニュー画面を開き小瓶をしまいつつ優七は歩き出す。それに利奈は満面に笑みで応じ、

 やがて優七は、家を出た。外は荒涼とした空気に包まれ、息が白くなる。


「よし、行くか」


 けれど優七はあまり気にならないまま、学校へと歩き出す。


 ただ懸念がないわけではなかった。一番危惧しているのは、二宮と出会うこと。桜達と出会って以降まともな会話をしていないが、今日ばかりはさすがにそうもいかない。


「どうなるかな……」


 不安しか感じない中、優七はひたすら歩む。そして住宅街を出ようとした矢先、


「高崎」


 後方から聞き覚えのある声。間違いない。二宮だった。


「あ……と」


 少し狼狽えながら振り返ると、既に剣を握った制服姿の二宮がいた。


「よう」


 淡々とした口調で挨拶する彼。優七は頷き返すと歩調を緩め、彼が隣に来る。


「今日はよろしく」

「……う、うん」


 平常通りの会話。けれどそれが優七を不安にさせる。


「何だ? 緊張でもしているのか?」


 あくまで平常通りに二宮は問い掛けてくる。それはものすごく自然であり、まるで桜達と出会わず、さらに会話をしなかったという期間がなかったのではないかと思うくらい前と同じ雰囲気であり、


「――でもさ」


 しかし、彼の声音が僅かに変化する。


「常日頃戦っている高崎にしてみれば、何程のことでもないだろ?」


 ――優七は、僅かに呼吸が止まる。


 どう返答していいのかわからなかった。肯定するべきなのか、それとも否定するべきなのか。


「……どうした?」


 けれど二宮はいつもの調子で問い掛ける。それにどう応じるべきか優七は悩み、


「そういえば、その辺のこときちんと話しておくべきだよな」


 さらに彼は語る――どうやら、一連のことについてここで決着をつける肚らしい。


「高崎は、事情をどこまで知っている?」

「……巣が、あったことくらいまでは」


 その点について、優七は特に言及しようとは思わなかった。甘いかもしれないが、被害が出なかったことを考えれば良かったのではと思う。そしてもし自分が二宮の立場なら、残しておくなどという行為をやる可能性を捨てきれなかった。


「それから話さないといけないよな」


 二宮は歩きながら優七へ視線を送る。一瞬だけ目の合った彼は、何か思案しているようにも見え、


「まず……そうだな、迷惑かけたことは謝らないといけない」


 そういう言葉が、二宮の口から漏れた。


「仲間内で経験値稼ぎのために残しておこうという決定をしたんだけど、最終決定をしたのは俺だし責任はある」

「……きっと、政府に関わる大半の人は烈火のごとく怒るのかもしれないけど」


 優七は彼の口上を聞いた後、口を開く。


「俺は、犠牲者がいなかったことだし、特に咎めるつもりもないよ」

「そっか……悪いな」


 もう一度謝り、二宮は笑う。それで硬質だった空気が幾分和らぎ、優七も内心安堵する。

 事実を咎められることを危惧していたのだろうと優七は予想する。とはいえこうしてある程度解消したのだから、関係が変化することを懸念しなくてもいいかもしれない。


「それで……俺は今日、どうすれば?」

「既に配置は決まっているよ。あまり参加しなかった高崎には悪いが、いなくても問題ないポイントに設置している。場合によっては政府の仕事を優先してもらっていい」

「そっか。わかったよ」

「……そこで、一つだけ訊きたい」

「何?」


 優七が聞き返すと、二宮は少し窺うように視線を送りながら、告げた。


「優七はその、政府関係の人間だろ? だからもしもの際魔物と戦うための戦力として俺は内心計算しているんだが……」

「ああ、うん」

「レベルはそれなりに高いんだろ? 隠そうとしているのは政府関係で仕事をしているからって解釈でいいのか?」


 ――優七としては肯定も否定も難しい。ただ間違っていると断言もできない。


 レベルが高いことで変に目立つのを避けたいということもある。政府関係者だと知られれば、そのレベルの高さだって知られてしまうだろう。だからこそ両方黙っていたわけだ。

 認知されればどういう結果を呼び込むことになるのか――不確定な部分もあるが、優七としてはあまりよいものではないと思っている。


 なので、二宮が質問する点もあながち違うとも言い切れない――なので、


「あ、うん。実はそうなんだ」


 優七は同意の言葉を告げた。


「ほら、政府の人間として働いているって言うと、嫌な顔をする人もいるじゃないか」

「確かにああいった人から色々言われているから、そう思う人もいるだろうな……今回の『祭り』に対しても、同じようにバレないよう行動する、ということでいいのか?」

「そのつもりでお願い」


 優七が要求すると二宮は一度大きく頷き、


「ま、さっきも言った通り戦力としては計算しているから、もしもの時は」

「う、うん」

「なければそれに越したことはないけどな……で、だ。本題はここから。ほら、高崎は自身のステータスを見せたことってなかったじゃないか」


 ――そういうことかと、優七は内心思いながら二宮を凝視した。


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