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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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その変化

 明日『祭り』が行われるという情報を聞き、二宮は入念な準備をしていた。


「二宮君、配置はこれでいいのかい?」


 警官のプレイヤーが二宮に恭しく問い掛ける。


「……はい、これで大丈夫なはずです。ありがとうございます」


 丁寧な返事を行うと、警官は微笑みその場を去る。

 場所は中学校のグラウンド……明日の『祭り』に備え、連携の確認を行っている途中。


 この場でイベントが始まる可能性は、低い――のだが、しっかりと準備しておかなければという自覚はあり、この地域で高レベルプレイヤーの二宮が、必然的に中心となって警備プランを構築していた。

 二宮は一切感情を表に出していないが、時折「中学生だというのに、すごい」という称賛の言葉や、二宮自身を褒めそやす声が聞こえ、それに内心優越感を感じている次第だった。


 けれど、恐怖している事もある――その原因は、優七にある。


 彼がこの陣頭指揮をとればどうなるのか――無論新参者の彼が信用されないという可能性はある。けれど彼は政府関係者であり、おそらく彼の身分を証明しただけで多くの人に信頼されることになるだろう。

 二宮としては、そこが何よりの危惧だった――そもそもなぜ優七が自らの姿を隠そうとするのかという疑問がないわけではなかった。けれどそれ以上にこのままでは自分の立ち位置が奪われるのではないか、という気持ちが先走り理由について知ろうとは思わなかった。


 だからこそ、二宮はどう立ち回るべきかをひたすら思案し――至った結論は、自分よりも彼が弱いことを誇示すれば一番なのだということ。

 けれど、彼に果たして勝てるのか――勝算があるのかどうか、把握しなければならない。


「……そうだ」


 ふいに、誰にも聞き咎められない声量で二宮は呟いた。疑問に感じながら訊く気はなかった、目立とうとしない事実。それを利用すれば、能力を把握できるのではないか。


 それ以上に、優七がどういった身分なのか把握できる口実となるかもしれない――なおかつ、話し掛ける理由としては以前出会った三人組も件がある。


「これなら、いけるな」


 二宮は胸中で算段を立てつつ改めて呟いた。敵を把握するためには、まず能力について深く理解する必要がある。そのためには、本人から上手く情報を抜き出すことが何より有効な策。


「とはいえ、魔物の巣を残しておいた理由くらいは語らないといけないな……」


 そこは言ってみれば落ち度と言える部分。だからこそ二宮はそれらしい理由を頭の中で考え――


「二宮」


 後方から男子生徒の声。見ずともわかっていた。先日良い修行場所を見つけたと言った彼だ。


「ん、どうした?」

「経験値稼ぎについてだが……」

「準備が完了したのか?」


 問い掛けると、彼は頷いた。それに二宮は満足したような表情を浮かべる。


「わかったよ。とりあえず今回の『祭り』が終わったら行くとしよう」

「わかった……他に誰か誘ったのか?」

「俺は誰もいない。むしろ低レベルの奴らは足手まといじゃないのか?」

「そうかもしれないな……」


 と、男子生徒はそこで複雑な顔をした。それを、二宮はすぐさま見咎める。


「どうした?」

「いや……お前、なんか変わったか?」

「変わった? 何が?」


 聞き返した二宮だったが、男子生徒はやがて諦めて――仕方なく、頷いた。


「了解。ただ人数いた方がいいのは事実だから、こちらで勝手に用意させてもらっていいのか?」

「いいぞ。ただ人選はしてくれよ。大人数となれば、俺だって守るのに限界が出る」

「わかっているさ……じゃあな」


 男子生徒は承諾の声と共にその場を離れ、二宮は一人呟く。


「……さて、やるか」


 全ては滞りなく進んでいる――それが何物にも替え難い感情を二宮に与えつつ、改めて優七に勝つ方策を考え始めた。



 * * *



 政府管理の訓練場というのは、系統として二つ存在する。


 一つは政府所属の人間が提供したルーム内での訓練。そこには無論ダンジョンなども完備されており、なおかつルールで死なないように設定が成されている。こういう設定を行った場合、リスクが低いということで得られる経験値が通常と比べ六割にまで減少してしまうのだが、実際に死ぬリスクを考えれば、如何ほどのこともない。


 優七自身も利用したことがある。かなり広いルームで入り浸っている人がいるくらいで、雰囲気的には本当にゲームに近い場所。とはいえ優七自身仕事で戦い続けているせいもあってか、徐々にではあるがレベルも上がっている。よって、現在はほとんど訪れていない。


 もう一方は、政府関係者が市民体育館やスポーツクラブなど、現実世界で施設を借り受けて訓練を重ねるケース。ルームというのは入るための鍵の数に限度があるため、先の訓練を全員均等に施すというのが難しい。またルームの仲では基本的に魔物との訓練を想定しているのだが、場合によっては以前の牛谷のケースのように人と戦う時もある。だからこそ政府関係者立会いのもと、所属している人間周辺のプレイヤーを集め、広い場所で訓練、場合によってルール付きではあるがデュエルを行っているというわけだ。


 今回訪れたのは、前者。優七もその場所の鍵は所持しているため(使わないため返すつもりだったのだが、江口達が持っていてくれと言われ所持)何事もなく入ることができた。


「今雪菜はどういう訓練を?」


 以前ロスト・フロンティアに存在していた中世ファンタジーの街並みを眺めつつ、優七は江口と共に進む。


「ひとまず魔物との戦いに慣れさせているところだ……魔物に恐怖してしまったらそれまでだったのだが、今の所順応している」

「となると、その内戦力として?」

「そう長くはかからないだろう。そもそも彼女のレベルは高いため経験値稼ぎの必要はない。一通り戦いの心得を学び直したら、簡単な仕事からさせてみるつもりだ」

「それに参加するメンバーは?」

「さすがに以前と異なるため、優七君と共にということはないだろう。ただ上司は私ということになっているから、もしもの場合はどうにか立ち回るさ」

「忙しいのに、すいません」

「君が謝る必要はない」


 そう言って微笑を見せる江口。


「私としては、むしろ君に心労がいってしまい申し訳ないと思っている」

「けど、雪菜がああなってしまったのは俺が――」


 反論しようとした時、正面に二人の女性が視界に入る。一方は見慣れたブラウンを基調とした制服姿の――雪菜。もう一方は紺色のスーツ姿で、黒髪ストレートの女性。


 女性の方も優七は多少見覚えがあった。ただし名前は思い出せない――


「ご苦労、長谷(はせ)


 江口が呼び掛ける。そこで優七も思い出す。長谷――長谷(はせ)郁美(いくみ)という名の女性で、江口と同様守山の部下である。


「そちらもご苦労様……優七君も」

「はい」


 長谷の言葉に優七は頷き――途端、

 彼女と隣り合って歩いていた雪菜は、ササッと彼女の後ろに隠れた。


「……本当、性格が真逆になってしまったな」


 苦笑する江口。優七もそれは同感だった。


 記憶喪失――とはいえ日常生活を送ることについては一切支障がないため、事情を説明した両親も本当にそうなのか最初疑ったのだと優七は聞いた。けれどすぐに性格の代わりようから誰もが記憶を失ったことを認識し――雪菜は、戦う道を選んだ。


 彼女によると、頭の中にぽっかりと穴が空いたような感覚なのだという。それは間違いなく、ロスト・フロンティアい内の記憶がなくなったため――優七と同等にレベルが高い以上、相応にのめり込んでいたのは想像に難くないため当然といえる。

 だからこそ雪菜自身、記憶が戻せるかもしれないと考え戦うことにしたらしい。


 その時のことを江口の上司である守山は「何か隠している雰囲気ではあった」と述べた。きっと他に彼女なりの理由があるのであり、両親も最終的に同意し、長谷と共にこうして訓練している。


 そして彼女の目は、見慣れない優七に注がれている。


「長谷、優七君と城藤君を引き合わせたいんだが」

「いいけど……」


 長谷はチラリと雪菜を見る。当の彼女はおっかなびっくり視線を送っており、優七としても戸惑う他ない。


「彼はあなたの同僚よ。高崎優七君。名前は何度か出していたから憶えがあるでしょ?」


 長谷が告げると、雪菜はコクリと頷く。その態度は、以前の高圧的な姿が完全に消滅していた。


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