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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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降魔祭

 夕方、制服に着替え時間通りに優七はルームを訪れる。

 この場所は相変わらず非現実的な景色を優七に見せつけ、慣れた風景であるにも関わらず心が洗われるものだった。そして次に思い出すのは、このルームと共に過ごしたゲーム時代のこと。


 ほんの数ヶ月前の出来事にも関わらず、何年も前のことのように優七は思えた。それほど事件以後の状況が濃く、また戦い続けるという日々だったためであり、その中で優七自身ゲーム時代のパーティーと異なるメンバーと共に戦っていた。


 その中の一人が雪菜。彼女の高圧的な態度を思い出すと、少なからず胸に痛みが走る。

 そうした全てを、自分自身が――仲間の誰もが「優七のせいではない」と擁護するが、自身はそう思っていなかった。


 ともあれ、一度景色を見回した後優七は真顔で真正面にあるログハウスへ向かう。そこもまた思い出がつまった場所であり、事件以後転戦した中で数度、江口や雪菜と共に食事をしたこともある。

 当時はなんだか自分の家に踏み込まれる思いで少しウザったく思ったのだが、そうした感情も今となっては後悔を増幅させる要因となる。


「……仕事だし、沈んでいても仕方ないな」


 気付けばまた雪菜のことを考えていた――優七は頭を切り替えることにして、ログハウスの中へ入り、


 目で先客の存在を認めた。


「お疲れ、優七君」

「お疲れ……桜さん」


 制服姿の桜だった。それに優七は小さく頭を下げる。その隣には麻子の姿。優七はこれでメンバー全員であるのを思い出す。


「江口さんは?」

「ここだ」


 問い掛けた直後、横から声。彼はキッチンから水らしきものが入ったビンを手にしながら歩み寄ってくる。


「さて、話をすることにしようか……今日守山さんは休みだから、全員楽にしていいぞ」


 江口は言うと、椅子には座らず壁にもたれかかって話を始める。優七は桜と麻子に対し、向かい合う席に座り彼の言葉を待つ。


「白い光の騒動が終わって、引き続きで申し訳ないが……さすがに『祭り』が起きる以上、警戒をしなければならない」


 ――ロスト・フロンティアには突発的な魔物の出現イベントがいくつかあるが、その中で特に規模の大きいものが、通称『祭り』と呼ばれる――正式名『降魔祭』という名のイベントである。


 内容は、一定地域において魔物の出現数が増加し、しかもその場所で見られないようなエンカウントが発生する――なおかつ、場所によってはエンカウントポイントが街に入る可能性すら存在する。


 大きな問題としては、出現ポイントの拡大場所――どんな魔物が現れるのかがわからず、全てランダムである点。これが現実世界で発動した場合、普段見られない場所から魔物が出現する可能性があり、政府は注意を呼び掛けているような状況。


 幸いなのが、このイベントでは魔物がNPCに対し攻撃を仕掛けることがないということ――より正確に言うならば、イベント発生中の魔物達は専守防衛型となり、武器を持って攻撃を仕掛けない限りは襲い掛かってこないようになる。ただし、イベントが終了しても魔物は残ったままになるため、駆除する必要がある。


「NPC……つまり、プレイヤーでない人々が襲われる可能性は低い……が、出現ポイントが広がった場所に関しては、避難を行う必要がある」


 江口が解説する間に、優七は思考する――イベントによって出現する魔物のレベルもまたランダムなのだが、あくまでフィールド上に出てくる魔物に限定される。そのため優七達のレベルともなればさして苦労する相手ではないのだが――守る人間がいるとなれば話は別だ。


「この場にいる三人はわかっているはずだが、どこでどのようにイベントが始まるのかは不明瞭……よって、各地にいるプレイヤーと連携して対処することになる。もし魔物の行動範囲が増えている場所を発見したのなら、本部から連絡を入れる」

「本部は連絡役ですか。大変ですね……」


 桜が感想を述べる。それに江口は頷き、


「気付いたのが一週間前ということで、そこからひたすら下準備ばかりだよ……とはいえまだ完全ではないし、この後もまだ仕事があるが」

「お疲れ様です」


 優七が言うと、江口は「どうも」とだけ答えた。


「というわけで、私は明日本部とプレイヤー達のつなぎ役をやることになるから戦いには参加できない。よって、君達に頑張ってもらう」

「配置はどうするんですか?」


 問い掛けたのは麻子。江口はそこで優七達を見回した後、


「イベントが発動するまで待機で構わない。そもそも自分達の暮らす場所でイベントが発生する可能性もあるから、そちらの援護に回ってもいいな……それに、この場にいる面々はルームが使えるし、ある程度移動には融通が効くから問題ない……イベント開始時間はいつからだったか憶えているかい?」

「確か、昼の一時ですよね」


 優七が言うと、江口はしっかりと頷いた。


「そういうことだ。明日は十三時までに食事をとるなどして万全の体勢を整えておいてくれ」

「……江口さん、戦いに参加する場合は他のプレイヤーも同じような対応を?」


 さらに優七が質問すると、彼は首を左右に振った。


「管理本部直属の君達は臨機応変に対応するが、それ以外の面々は基本元々暮らす場所周辺を警備することになるだろうな」


 ――優七の胸中に、二宮の顔が浮かぶ。さらに桜の顔が、少しばかり曇った。


 白い光に関する事件により、優七は桜から二宮と接触したことを聞かされていた。以降なんだか敬遠しているため学校でも会話がない状態。とはいえ、さすがに地元でイベントが発動したら、連携しなければならないだろう。


(レベルはそれなりに高いし、フィールド上の魔物が出てきても対応できるはず……基本二宮がプレイヤーを仕切っているし、彼に任せていても大丈夫かな)


「優七君は地元も気になるだろうけど、もし別所に行く必要になったら、頼むぞ」


 江口が言う。それは紛れもない、信頼の言葉。


「……はい」


 そして優七は頷き――別の質問を行う。


「あの、それで……今回のイベントについて、雪菜は?」

「……レベルはそのままだから戦うことも可能だが、場を仕切る能力もないし、今回は余程の事態とならなければ戦わないということにした。彼女の能力なら『レーヴェハウリング』を連発するだけでも相当な戦力になるのだが……まだ訓練も途上である以上、無理に戦わせたくない」

「そうですか……」


 優七としては内心安堵する。


「そうだ、優七君のことも少し言及していたよ……色々気になったことがあるそうだ」

「……気になったこと?」

「ああ」


 頷く江口。それがどういう意図なのかわからなかったが――優七は、


「俺はいつでも話ができると伝えておいてください」

「わかった……では、話はこれで終了だ」


 江口がまとめ、優七達は立ち上がる。そしてログハウスの外へ出ようとした時、


「優七君。もしでいいんだが、城藤君と話をするか?」

「……できるんですか?」

「ああ。今日はまだ本部の訓練場にいるはずだ。そろそろ終わる時刻だとは思うが……」

「わかりました」


 ――頷いた優七は、江口と共にルームを出る。そして会うのは目覚めた時以来だと、今更ながら気付くこととなった。


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