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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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中心に立つ存在

 彼はなぜ、自分がこの世界の中心にいるのか深く考えたことはなかった。

 無論それは勘違いであり――彼もある時気付くのだが、その時まで彼はずっと、自分が世界の中心にいると信じていた。


 それは家族と夕食を楽しんでいる時もそうだったし、学校に通っている時もそうだった。おどけて見せれば誰もが笑い、テストの点が良くて周りから持てはやされ、運動神経も良かったので誰からも羨ましがられた。きっとやっかみの一つでも言われているだろうと思いつつ、彼は歯牙にもかけなかった。


 そんなことを、気にすることもなかった。なぜなら、自分がこの世界の中心だから。


 それはゲームの世界でも同じだった。流行に沿ってロスト・フロンティアを始め、すぐに彼はゲーム上でも活躍することとなった。やり始めた時期が遅かったため勇者ジェイルが魔王に挑んだ時レベルが足りず参戦しなかったが、もし討伐に参加していれば自分が中心にいたはず――そう、彼は自認していた。


 そして、悲劇が起きる――遠方であったため魔王との戦いに参加できなかったが、彼は周辺に出現した魔物に対し、大きな活躍を見せた。気付けば自分の暮らす周辺で戦う中心人物となっており、人々に信頼されながら魔物を倒し続けた。


 しかし――魔王との戦いが終わり、状況は一変する。影の英雄の登場だ。


 勇者ジェイルでも勝てなかった存在を打ち破った『死天の剣』を所持の、魔王とも戦えるレベルのプレイヤー。その言葉が話題に上り始めた時、彼は自分が中心に立っていないと気付いた。


 そこで、彼はどうすればいいのか考えた――どうやれば、再び世界の中心に立つことができるのか。

 おかしな話だが、彼は影の英雄に中心を取られたと考えていた。冷静な思考に立ってみればそれ以前の問題とわかるのだが、彼は今まで全てが自分中心だったと考えていた。だからこそ、暴走するような思考を止めることは決してなかった。


 だから彼は必死に努力をした――けれど、そんな姿を誰かに見られたくなかった。だからこそ魔物の巣の存在を公にせず、時には遠方を訪ね修行に明け暮れた。

 少しは、影の英雄のレベルに近づけただろうかなどと考えつつ――彼は、いつか英雄を倒そうと考えていた。ひたすら魔物を狩り続けた理由は、それだった。


 けれど、一つ違和感を覚える相手がいた。それが――高崎優七。


「――二宮?」


 ふいに、呼び掛けられた。顔を上げると、そこには彼――二宮忠志が率いている同学年のプレイヤー達。

 目の前には、倒し光となって消えていく魔物の姿。


「あ、ああ。ごめん。考え事をしていたんだ」


 二宮は気を取り直して言うと、剣を掲げた。


「とりあえず今日はこれで終了だな……解散」


 声と共に、全員が帰宅を始める。それと共に、二宮は周囲を見回す。

 見慣れた田園風景。冬なので田んぼは土しか見えないが、これもまた数えきれないほど見てきた、故郷の姿。


 本来なら、こういう光景を守るために戦う――というのが正当かもしれない。けれど、今の二宮は違っていた。


「……あいつは」


 単純に、恐怖していた。


 優七は今日来なかった。最近忙しいということで討伐にも参加していない。それを多くのプレイヤーは「きっと怖くなったんだ」と解釈した。実際戦うのが嫌で逃げ出した人物もいる。そうした人を腰抜けなどと呼ぶことはしなかったが、二宮としては内心侮蔑したこともあった。


 そうした中で優七は違うと思った。以前出会い、巣を潰した見慣れない面々――デュエルを行い、単純に強かった。はっきりと勝てないと思った。

 けれどああした相手が現れれば――自分はこの場所ですら中心に立つことができなくなる。


「……あいつは、足がかりだ」


 影の英雄を倒すための――そう頭の中で思いながら、二宮は地面に置いてあった鞄を拾い上げ、帰宅の途につく。


「……二宮」


 その折、一人の男性生徒が。返事をすると、彼は嬉しそうに呼び掛けた。


「掲示板で探っていたら、中々レベルの高い魔物がいる場所を見つけたよ」

「……本当か?」

「ああ。もし良ければ……」


 危険だと、政府の人間がいたなら警告したかもしれない。けれど、二宮の答えは決まっていた。


「いいぞ……準備に時間掛かるかもしれないけど、予定を決めてそこへ行こう」



 * * *



『これほどまでに事態が立て込んでしまったのは申し訳ないと思っているよ』

「いえ……」


 自室で江口と連絡を取り合い、そう述べられて優七は言葉を濁した。

 白い光の件から二週間が経ち、それに関する調査もある程度終わりそうな状況。その中で優七は政府の人間として何度か仕事をこなし、表面上は何事もなく続いていた。


『白い光に関する調査は、以上となる……取りこまれた面々の人数は合計五人だが、これはまだ少なかったという見解で良いだろうな』

「です、ね……」


 優七は頷きつつ、深刻な顔で江口と目を合わせる。


 記憶を失う――その情報を失くした一人である雪菜のメモからわかり、すぐさまプレイヤー達に伝えられた。さすがにそういう状況になるのは勘弁だと思ったか、連絡以後同様の問題は発見されておらず、ひとまず事なきを得ている。


「江口さん、白い光自体を消すことは、現状できないということでいいんですか?」

『解析はできたし、あれがバグの一種であることもわかったのだが……ロスト。フロンティアのデータに干渉できないため、無理だと報告が来ている』


 その言葉に、優七は顔をしかめる他なかった。


 ――以前、牛谷との戦いの折、現実世界で稼働しているロスト・フロンティアに干渉できるデータを見つけた。それの解析が進み、現時点では多少ながら干渉できる範囲が多くなっているのは確か。

 けれどそれはほんの僅かであり、ましてや下手に変えると何が起こるかわからないという状況であるため、現時点ではあくまで解析に留め具体的に変更したわけではない。


『解析は進んでいるが牛歩という状況であり、より干渉するためにはさらにデータが必要となるだろう』

「となれば、牛谷という人物を捕まえることが……」

『そうだ。とはいえ行方不明なのは君もわかっているはず。おそらく牛谷はどこかに転がり込んで潜伏していると思われるのだが……』


 と、そこで江口は肩をすくめた。


『交友関係を当たってみたが、彼の姿は影も形も無い。会社関係を調べても成果は出ていない……とはいえ必ず捕まえて見せる。優七君は、これからも私達に協力してくれ』

「もちろんです」


 二つ返事の優七――ただ、一つ質問をする。


「あの、雪菜は……?」

『現在、戦い方の指導を受けているような状況だ……記憶を失って以後も戦う気はあるようだが、ゲーム内の経験が抜け落ちているというのはかなり厄介でな。私達も苦慮している』


 そう述べた江口に対し、優七はどうするべきなのか考える。病院から、優七は一度として雪菜に会っていない。

 理由としては――色々と複雑な関係ではあったが、本質的に優七と雪菜は仕事の同僚という関係であり、共に戦わなくなれば必然的に会う機会も消滅する。


 あの病院で抱いた結論を優七自身果たせないため多少なりとも不満は残る。けれど現在の雪菜にそれを伝えても何一つ意味が無い。


『……今日の夕方、ルームの中で話があるのは憶えているかい?』


 ふいに江口が問う。優七は即座に頷き、


「確か『祭り』に対する最終確認でしたよね?」

『そうだ……既に他の面々にも情報が行き渡っているのだが……優七君は、暮らしている場所を守るということだったか?』

「はい……」


 頷く優七――同時に、顔つきを険しいものにする。


『……雪菜君に関することを含め話すことにするから、時間を間違いないでくれ』

「はい」


 返事をした後、通信が途切れる。そして優七はメニュー画面を見据え、


「……雪菜」


 悔いるように、ポツリと彼女の名を零した。


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