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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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一つの結末と彼らの目的

 連絡を受けた優七は、拓馬と別れルームの中へ。そして桜達と合流し、大久保の案内により、病院へ向かった。

 この時点で時刻は既に六時を回っていた。けれど優七は病室で眠る雪菜を見て、とても帰る気になれなかった。


「……他の人は?」

「まだ、目覚めていません」


 椅子に腰かけ雪菜の顔を窺う間に、後方で麻子と大久保が会話を行う。病室は個室であり、この場にいるのは優七と桜。そして麻子と大久保の四人。拓馬はルームに戻った時点で帰宅している。


「命に別状がないのは間違いないと思いますが、一向に目覚めないのは……」

「少し様子を見ましょう。不可解な現象だし、どのようになるのか一両日は見ないとわからない……ところで、親族に連絡は?」


 麻子が問う――優七の頭の中には、もしこのまま目覚めなければ、という怖い想像がよぎる。


「最初の女性は無理ですが、他のお二方については連絡しています。けれど困惑しないよう、今の所少ししたら目覚めると言ってあるのですが」

「そうなることを祈るしかないわね……」


 優七は会話を耳に挟みながら、雪菜の顔を見る。ただ眠っているだけにしか見えない。けれど、


(考えるな……)


 首を小さく振った。ネガティブなことばかりが頭に浮かび、それを振り払おうとする。


「優七君」


 そこへ、桜が呼び掛ける。視線を移すと、優七の横に立ち心配そうな顔をしていた。


「その、城藤さんは助かったんだし、優七君も自分に責任があると思いつめないで」

「……わかってる。けど……」


 後悔ばかりが埋め尽くされる。十分勝てる相手だった。けれど小さな判断ミスが重なり、こういう結果となった。だからこそ、頭に色々と浮かんでしまう。


「何か飲み物でも買ってくるよ。優七君は何がいい?」


 ふいに桜が提案。それに優七は少し考え、


「……お茶を」

「わかった」


 桜は承諾し、優七の背後で麻子と会話を行い、部屋を出た。

 麻子と大久保は外で話をするつもりなのか、桜に続いて部屋を出る。残された優七は一人、無音に近い部屋の中でただ茫然と眠る雪菜を眺める。


 生きていたのは単純に嬉しかった。けれど次に生まれたのは、後悔。同じ志を持つ仲間であり、さらに、自分を――


「……俺は」


 優七はふと、デートが有耶無耶となり、好きになった経緯や自分が何一つ答えを提示していないことに気付き、


「雪菜は……桜さんが好きなのを知って、俺に告白したんだよな?」


 返ってこないと思いつつ口に出す。その時の彼女の心情は、如何ほどのものだったのか。


「……きちんと、言わないといけないよな」


 そこで優七は決断する――共に戦う仲間である以上。そして、好いてくれた人物である以上、真剣に向き合わないといけないと思った。


「……雪菜。落ち着いたら、きちんと話すよ」


 眠ったままの彼女に表明をした、その時――背後、閉められた扉の奥で、話し声が聞こえた。

 内容までは聞き取れなかったが、どうやら看護師らしい。それを聞いた大久保が「本当ですか?」と聞き返し、足早に廊下を歩く音が聞こえた。


「何が……?」


 呟いた直後、扉が開き麻子が顔を覗かせる。


「優七君、あなた達が探していた男の子が目覚めたみたいなの。様子を見に行ってくる!」

「本当に……!? それじゃあ、俺は――」

「雪菜の様子を見ていて!」


 麻子は言い残すと扉を閉め、彼女もまた足音を立て去った。残された優七は、いてもたってもいられず立ち上がり、


「雪菜……」


 おそらく目覚める――雪菜の顔を見ながら確信を抱いた。


 そして、次の瞬間、


「ん……」


 雪菜の目が、僅かに開いた。

 優七は途端に叫びそうになった。けれどそれをどうにか抑え、改めて椅子に座り、


「……大丈夫か? 気分は?」


 優しく声を掛けた。すると雪菜は気付き、首を向ける。

 目が合うと、雪菜は眉をひそめた。優七の顔を見て、なんだか困惑している様子でもあったが、


「ここは病院だよ。白い光に飲み込まれて、現実世界に戻ってきた所を桜さん達に助けられたんだ」


 説明したのだが、反応が鈍い。さらに困惑の強さは増し、優七としてはなぜか不安になる。


「えっと……大丈夫?」


 再確認する優七。そして雪菜は、


「……あなたは、誰?」


 予想できなかった質問を、優七に向けた――



 * * *



 広々としたリビングで、暖房が効いてむしろ熱いくらいの中、牛谷はソファに座りノートパソコンを眺めている。


「ふむ……白い光に関する結果が、出た」


 断定した口調。それに応じたのは反対側のソファに座りお茶を飲んでいる影名。


「結果? どういうこと?」

「これはロスト・フロンティアで生じたバグが現実世界に発生したものであり……なおかつ、白い光に飲み込まれた結果どうなるか、情報が出ている」


 牛谷のパソコンには、そうした報告書が出ていた――これはハッキングして取得した物なのだが、牛谷としてはリスクがあるため今回限りにしようと心に決めていた。


「どういう結果となるの?」


 影名が問う。それに牛谷は、一拍置いて返答した。


「飲み込まれた後……白い空間をしばらくたゆたい、後に白い塊に飲み込まれ、外に放出されるらしい」

「転移魔法みたいなもの?」

「ああ……ただ」


 と、牛谷は笑みを浮かべる。


「どうやら記憶を、奪われるらしい」

「記憶?」

「ああ、そうだ……いくつかある報告書を統合すると、どうやらロスト・フロンティアに関わる記憶が、頭の中からなくなるらしいな」

「……それ、理屈で説明することできる?」


 影名の質問に、牛谷はしばし思考してから答える。


「もしかすると、データをリセットするプログラムなどが白い光の中に入っているのかもしれない……正直光の中に入り込まないことには判断できないのだが、調べるわけにもいかないしな」

「そうね……でも、記憶がなくなるんでしょ? なぜ光に飲み込まれた後の情報があるの?」

「プレイヤーの一人が状況を書き起こしたらしい」

「誰?」

「城藤雪菜……プレイヤー名はスノウ。聞き覚えがあるな」

「ああ。あの高飛車な槍使い」


 思い出したように、影名は述べた。


「魔王にも対抗できる実力者の一人だったわね……そう、あの子が。飲み込まれても存外冷静だったのね」

「これは彼女の功績と考えてよいのだろうな。ちなみに記憶の消去については、彼女自身どんどん記憶がなくなるのを体感したようで、メモ帳にもその過程が記されていたらしい」

「はあ、そこまでやったとなると、あっぱれね」


 雪菜を称賛した影名は、腕を組みさらに牛谷へ尋ねる。


「とはいえ、記憶は失ったんでしょう?」

「ああ。ただ能力値などに変化は無いらしく、引き続き戦うことは可能だそうだ……が、ゲームの記憶が全て吹き飛んでいる以上、訓練は必要だろうな」

「訓練?」

「武器などを扱う訓練だよ。どれだけレベルが高かろうとも、ゲーム上の戦い方がわからなければ、足手まといになるだけだ」

「なるほど、それを教え込む訓練か」

「レベルは変わらないのだから、実戦で戦えるようになるまでにはすぐだと思うが……とりあえず、報告は終わりだな」


 そう言って、牛谷はノートパソコンをシャットダウンさせた。


「さて……いよいよ、本腰で取り組むとしようか」

「機材の搬入も完了したし、ここからが本番というわけね……でも、大丈夫なの? その作業中に勘付かれたりでもしたら」

「覚悟の上だよ。そもそも色々と実証実験を行わなければならないしな。こちらの動きがバレるのは、予定に組み込んでいる」

「実験……?」

「ああ。そろそろなんだよ。『祭り』が」


 祭り――その言葉を聞いて、影名は苦笑した。


「はあ、なるほど……祭りね。よくそんなこと憶えているわね」

「まあな。祭りの時に、いくつか実験を行う。ここに来てロスト・フロンティアの調査も進んだ……目的を実行できる足がかりをつかんだ。影名、多少は手伝ってもらうぞ」

「わかっているよ……しっかし、ここの主人も頓狂なことを考えるわねぇ」


 嘆息する影名。けれど瞳は、好奇に満ちていた。


「だが、面白いと思わないか?」


 牛谷が問う。それに影名は、頷いた。


「ええ、まあね……見てみたい気持ちはあるわ。何せ――」


 と、影名は笑みを浮かべる。


「――現実世界でロスト・フロンティアをアップデートしたら……それこそ、この世界がファンタジー世界そのものになりそう」

「だな……それでは、作業を始めよう」


 牛谷は述べると立ち上がる。影名もそれに従い立ち上がり――


 二人は、行動を開始した。


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