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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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調査の終結

 ――雪菜が白い光に飲み込まれた姿を見て、優七はただ茫然と、光を見ながら膝を屈した。


「そん……な……」


 剣を取り落とし、呟く優七。その間に、拓馬は別の場所へと目を向けた。


「こんな状況下で、レアドロップか……まったく、ふざけたゲームだ」


 拓馬の視線の先には、ガイアウルフを倒したことによって一本の剣が出現していた。希少性の高い魔法剣であり、ガイアウルフが装備していた物と同じ剣――


「……俺はこの剣持っているから、優七にやるよ……って、そんなことを話している場合じゃないか」


 拓馬は歎息すると、白い光へ視線を移す。


「……彼女を、呼び戻す方法はないのか?」

「……わからない」


 優七は力なく首を振る。江口に報告しなければならないと思ったのだが――体が、動かない。

 もしこの状況で魔物が現れれば、自分は死ぬかもしれない――どこか客観的に考えていた時、後方から足音が聞こえた。


「……来たか」


 拓馬が怒りに近い声音で呟いた。優七は硬直が解け振り向くと、そこにはスーツの上にコートを羽織った一団が。


「……高崎、優七君か?」


 先頭を歩いていた中年の男性が問い掛ける。優七が頷き返すと、彼は一礼した。


「遅れてすまない、解析班だが……その目の前にあるのが、報告にあった白い光かい?」

「そう……です」


 かろうじて優七は答えることができた。すると男性は様子がおかしいと思ったのか、眉をひそめた。


「どうした……? そういえば、もう一人いたはず――」


 言及し、男性は悟った。


「まさか……」


 そして白い光へ視線を送り、


「……ひとまず、事情は後で訊こう。今は解析を優先する」


 告げた男性は後方にいる一団に手を振る。直後、解析班の面々がさっと散らばり、白い光を包囲し始めた。


「周辺に魔物がいないかを確認し、作業に当たれ!」


 指示を飛ばす間に拓馬が優七へと近づく。


「大丈夫か?」


 問いに、優七は拓馬を見返し……少しして、静かに立ち上がった。


「とにかく、今はこの人達が良い情報を手に入れることを期待するしかないよな」

「……うん」


 優七は俯きながら同意した――自分が何もできないという無力さが、身にしみる。


「優七」


 そんな中で拓馬はさらに声を掛ける。


「報告は、した方がいいんじゃないか?」

「……わかってる」


 優七はゆっくりと顔を上げ、一度深呼吸をした。そしてひとまず心を落ち着かせようと、周囲を見た。

 解析班の面々は白い光を取り囲んでメニュー画面を呼び出している――優七の記憶では、彼らはゲーム自体を解析するツールを開発。それを使ってどのような挙動をしているのかを確認する。


「ああ、それと優七」


 そこで再び拓馬の声。首を向けると、剣を一本差し出している姿。


「もらっとけよ」

「……ありがとう」


 ガイアウルフの剣――名は確か、紅の紋章剣――を受け取り、優七はそれをしまう。

 同時にようやく頭が冴えだして、江口を呼び出そうとした。しかし、


「ん?」


 先に、通信。その相手は、呼び出そうとしていた江口。


「何か、あったのか……?」


 優七が通信許可のボタンを押すと、そこには江口一人だけが映った。


『優七君……すまない、現状報告をしようと思い城藤君に連絡を行ったのだが……エラーで返された。何かあったのか?』


 ――その声は、優七の顔色を窺う様子を見せていた。あるいは、どういった現象に陥ったのか、江口は半ば理解しているのかもしれない。


「……雪菜は」


 そうして話し始める。白い光に飲み込まれたことを知り、江口は目を細めた。


『そうか……私達は行方不明になった面々を含め、彼女を救い出すために動きことになるな』

「すいません……」

『謝る必要はない……優七君、城藤君を助けるには解析班の情報が必要不可欠だ。彼らを、守ってくれ』

「わかり、ました」


 優七が承諾した時、ふいに携帯電話の着信音が生じた。けれどそれは優七達が発したものではなく、通信の奥にいる江口からのもの。


『すまない、少し待ってくれ』


 江口は通信を切ることなく電話に出る。


『私だ……ああ、どうした?』


 会話をする間に優七は周囲を再度見回す。解析班が作業をしている間、白い光は変化が起きず停滞している。もう魔物は出ないと考えてよいかもしれない――


『……何? 本当か!?』


 そして、画面奥の江口が驚愕の声を発した。


『ああ、そうか……わかった。それでは、もう少し調査を続けてくれ』


 江口は電話を切る。そして、優七へ視線を送り、


『もう一人、同行者がいたはずだね?』

「俺ですか」


 拓馬が横に来る。彼と視線を合わせた江口は、難しい顔をして彼に告げる。


『一つ、情報が出た……それは、君に関することだ』


 そう前置きをして、江口は優七達に話し始めた――



 * * *



 魔物の巣における戦いは、桜達が優勢だった。魔物のレベルがそれほど高くないことに加え、三人の力量は魔王にも対抗できる――勝敗は、火を見るより明らかだった。


「ふっ!」


 麻子が矢を放ち、魔物の巣である青い光の塊を貫いた。それによりあっさりと巣は消滅。これで残りは、周囲に出現した少数の魔物だけとなる。


「これで、魔物の数も減るでしょう。後は、白い光の調査ね」


 麻子は断じつつ、一番近くにいたオーク型の魔物へ向かって矢を放ち、倒した。

 桜もまた魔法を使用し迎撃。浦津は近づいてきた魔物を片っ端から斬り数を減らす。


「森の敷地は広そうですから、今日で終わるのは難しいかもしれませんね」


 浦津は言いながら接近してきた狼を倒す。桜は内心同意しつつ、さらに魔法により魔物を倒す。

 残りほんの僅か――それらを麻子や浦津が倒しているのを見て、桜は息をついた。


 優七のことが気に掛かった。先ほど遭遇した二宮という人物は優七の知り合いであり、間違いなく確執を生む結果となってしまった。


(浦津さんが話し出したのが決定打となったかもしれない……)


 決して彼のことを恨んだわけではないが、あれが引き金を引いたのは事実。あの時誤魔化していれば、という後悔が少なからず湧き上がる。

 その時、ふと視線が直線状にいるスラッシュウルフへと向けられた。


 魔物は桜達に体を向けてはいたが、首は横にして何かを凝視している。


「あれは……?」


 その態度が気になり桜は声を上げた。それに麻子が反応し、スラッシュウルフへと弓を構える。

 そして放ったのだが、スラッシュウルフは攻撃に気付き横に跳んだ。来るか――と桜が身構えた時、魔物は突如あさっての方向へ足を向けた。


「え……?」


 横手。木々の隙間からスラッシュウルフが見えるのだが――


「他にプレイヤーがいたのかもしれないわ」


 麻子は断じると走り出した。桜と浦津もそれに追随し、魔物を後を追う。

 もし他にプレイヤーがいるなら、場合によっては援護が必要だろう――けれどもし、二宮のように優七の知り合いがいたら――さらに面倒なことになりかねない。


(だからといって、放っておくことはできないか)


 桜は心の中で思い、魔物を正面から視界に捉えた。

 そして、スラッシュウルフが二頭、何かを囲むようにして布陣しているのを見る。けれど人の姿はない。もしや、倒れているのか。


「桜!」


 麻子が叫ぶと同時に、桜は走った。プレイヤーが倒れているなら、すぐさま救出しなければ――

 桜は必死に駆け、スラッシュウルフに追いつこうとする。そこで、


 魔物達の近くに、人が倒れているのに気付く。


「――っ!!」


 遠目から顔は確認できないが、青系のコート姿なのは理解できた。桜は先ほど調査した商店街で倒れていた人物を思い出し、急ぐ。

 スキルを併用して、一気に魔物へ接近。スラッシュウルフは最初倒れている人物に目を向けていたのだが、桜の挙動を見て反応。全部で三頭の狼は、一様に桜を見た。


 気を引くことは成功――桜は断ずると共に剣を薙ぐ。一頭は接近と共に一振り。次に体当たりを仕掛けようとした二頭目を横一閃で迎撃。

 そして、三頭目は――麻子が後方から矢によって打ち抜いた。


 短い戦いが終わる。桜は息をつくと共に倒れる人物を確認し――


「――城藤さん!?」


 気絶し、優七の傍にいたはずの彼女が、そこにはいた。


「どうしたの!?」


 後方から近付いた麻子が声に反応し、倒れる人物を見る。次いで口元に手を当て、


「雪菜……!? なぜ、こんなところに!?」


 彼女が呻く間に、桜はひとまず脈を確認。正常に動いており、桜はほっと息をつく。


「と、とにかく江口さんに連絡を――」


 そこまで言った時、突如桜の指輪を介し連絡が入る。メニューを開いて確認すると、江口からだった。

 すぐさま麻子に雪菜を任せ、連絡を行う。


「江口さん……! 実は――」

『先にこちらから報告させてくれ。優七君側で、城藤君が――』

「それが……」


 と、桜は江口に雪菜が見えるよう移動する。すると、


『――城藤君!?』

「はい、なぜここに来たのかわからないのですが……」

『そうか……やはり、偶然ではなさそうだな』

「え?」


 桜が聞き返すと、江口は改めて説明を始めた。


「城藤君は、白い光に飲み込まれたんだ……そして優七君達が探していた男子についても、別所で見つかった。彼は命に別状はない」

「白い光に……ということは、これは転移装置みたいなものですか?」

『わからない……推測だが、君達が商店街で見つけた人物も、同様だったのかもしれない』

「では……ひとまず、プレイヤーが消えるという事態にはならなそうですね」

『ああ……ただ一番最初に見つけた人物も目覚めていないため、白い光に飲み込まれるとどのようなことになるのかわかっていない……解析班が白い光について調査することができたため、それに合わせ彼らに事情を訊く必要がある』

「わかりました……ひとまず、城藤さんは私達が病院に連れて行きます」

『そうしてくれ。私は優七君達に連絡しておこう』


 言い残し、彼は通信を切った。そこで桜は改めて雪菜へ視線を移す。麻子がスキルを併用して雪菜をおぶっている。


「とりあえず、病院に行くってことでいい?」

「はい……巣も潰しましたから、ここは大丈夫でしょう。白い光も別所で解析を始めたそうですから、ここでは必要ないでしょうし」


 桜は言うとルームを開く。


「白い光に関しては幸いだったわね。ただ飲み込まれた先がどこになるのかわからないのがツライけど……」


 麻子はコメントしつつルームの中へ。浦津もまたそれに従い、最後に桜が入ろうとする。

 その時、ゲート越しに視線を感じた。向くと、そこには退散したはずの二宮の姿。


 何か用なのか――桜が尋ねようと口を開きかけた時、二宮は姿を消した。桜は一瞬追おうかどうか迷ったが、雪菜のことを思い返し、押し留めた。

 不安は残る。優七がこの場所で暮らす上で、問題となるかもしれない。


「謝らないと……」


 桜は多少後悔しながら歩み、ルームの中へと入る。そうして、桜達の長かった今日の任務が――終わりを迎えた。


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