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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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一つの悲劇

 デュエルが始まったと同時に二宮は剣を体に対し水平に構え――それで、どういう技を放つ気なのか桜は理解した。


(確実に大技……!)


 そういう予測を立てたと同時に、桜は左手を前に突き出した。同時に生じたのは結界――二宮は、それに一撃叩き込む。


「おらっ――!」


 二宮が声と共に放った剣戟は、結界と衝突しせめぎ合う――桜はそれを、横一文字に斬る単発技『アークスラッシュ』だと断定する。


(一撃入れれば良いとくれば、彼は力押しで突き進む気なのかも)


 桜は頭でそう断じつつ、結界を解除し後退する。一報二宮はさらに足を前に出し、追撃を行う。

 またも同じ技――桜はそれをまたも結界で防ぐ。立て続けに同じ戦法とは、何かの策なのか、それとも――


(え……?)


 その時、桜は彼と目を合わせ何かに気付く。瞳の奥、その光の中に、焦燥に近い感情が宿っている気がした。

 そうした感情を抱くことに驚きつつも、桜は別のことも気に掛かった。


(なんでこんなことに気付けるんだろ……?)


 疑問に思ったのだが――これもまた、ゲームによる影響だと思い、


(余計なことは考えず、今は目の前の相手に集中――)


 桜は気を取り直し、剣戟を完全に防ぎ切る。それに苛立ったのは攻撃している二宮。自分の技が通用しないためか、険しい顔を見せた。

 どうするか――桜はそこで思案する。防戦ばかりしていては当然勝てないが、剣技だけの勝負である以上、桜自身も攻撃するのに多少リスクがいる。


 けど、負けるわけにはいかないと思い――桜は、一転して足を前に出した。刹那二宮は大きく警戒し、剣をかざし防御の姿勢を取る。


(なら――!)


 桜はそこでどのような技を使うのか決め――放ったのは、風の力を利用した神速突き。

 ――名を『シルフレイ』といい、剣の先端が魔力により発光するというエフェクトの、単発技だった。


 瞬間、二宮は目を見張った。突きの速度が予想以上だったためか、動揺したらしい。

 けれど彼は瞬間的に体勢を立て直し、紙一重で避けた。対する桜はすぐさま剣を引き戻し、次の攻撃に移る。


 今度放つのは連撃技――そう頭の中で決め、桜は攻撃を行う。魔法剣がまっすぐ二宮へ向かい、彼はどうにかそれを捌く。

 すると――二宮は弾くと共に呻いた。どうやら力のパラメーターに差があるらしく、彼にとっては重い一撃らしい。たまらず彼は後退し、どうにか桜と距離を置いた。


「くそっ……」


 そして告げられたのは悪態。桜はそこで立ち止まり、相手を観察。


(力に差はあるみたいだから……このまま、押し切れる?)


 自問しながら次の一手をどうするか思案する。能力的に有利だが、迂闊に近づけば一撃もらう可能性が高い。ここはカウンター狙いで攻撃をするべきか――


「……一つ、いいか?」


 その時、ふいに二宮が声を上げた。何か訊きたい様子だったため、桜は頷こうとして――


「……その前に、二人」


 次いで、彼は背後にいる男女二人に声を掛けた。


「魔物も出ないようだし、戻っていいぞ」

「え……? でも……?」

「大丈夫だ。さっさと決着をつける」


 有無も言わせぬような雰囲気――男女が気配の呑まれ慌ててこの場を後にし始めた。おそらく二人は、二宮が怒っていると思い、退散を決めたのだろう。


「……それで、質問は何?」


 二人がいなくなった直後、桜は問い掛ける。すると二宮は動きが止まる。そればかりか、口に出すのを躊躇っているのか、無言となった。

 対する桜は、待つことを選択する。そして、


「……政府の人間だと、言ったな?」

「ええ」

「そして、お前達は政府の人間でも上級レベルのプレイヤーなのか?」


 質問の意図がわからず、桜は目を細め相手を見た。その瞳には相変わらず焦燥に近い感情が宿り、桜は尋ねた理由を探ろうとする。


「……逆に訊くけど、そっちはどう思っているの?」


 そこで桜ではなく麻子が質問を行った。二宮は視線をそちらに移すと、難しい顔をする。


「レベルとしては高いとは思っている……もしそうだと答えたなら、他にも質問がある」


 桜としては、どう答えるか迷った。このまま違うと答えれば、デュエルを再開するだけになるが、質問に応じた場合は――


「一応、精鋭に区分されているね」


 答えたのは、浦津――桜が視線を移すと、浦津はどこか誇らしげに語っていた。


「魔王とも戦えるレベルだと思ってもらえればいいよ」

「……そうか」


 やや沈黙を置いて、二宮は応じる。桜はなぜ浦津がすぐに答えたのか一瞬疑問に思い――牽制的な意味合いなのだろうと見当をつけた。

 実際、二宮の表情がさらに硬くなり、警戒の度合いも上がっている。けれど瞳の色に負けるかもしれないという不安が表れ始め、桜達の空気に当てられ怯み始めているようにも見えた。


(これなら……)


 力にものを言わせるという行為自体、桜は好きではないが――臆し始めた相手なら、力押しが通用するかもしれない――


「……あいつも、そうなのか?」


 そして二宮から質問が飛ぶ。抽象的な言葉だったので、桜は首を傾げ言葉を待ち、


「高崎優七……お前達が家を訪れた以上、あいつもそうなんだな?」


 ――桜は、まずい状況になってしまったのだと、心の底から確信した。



 * * *



 ロストシャドウに対する雪菜の反撃は、槍の薙ぎ払いによって行われた。

 背中をとられたため一瞬遅れてしまったが、対応はできた。腕に巻き付いた風を振り払おうと、一閃する。


「雪菜!」


 その間に優七が援護に入ろうとする。雪菜としては問題ないと応じたかったが、それより先に槍の刃先がロストシャドウに入った。

 攻撃は見事相殺――にはならなかった。相手の風が炸裂し、その中で槍が相手の体に入ったため、雪菜は風にあおられ数歩たたらを踏む。


「っと……!」


 体勢を立て直し、反撃に移ろうとした時――今度は背後から気配。唯一残っていたガイアウルフが、攻撃を仕掛けようとしている。


(避けないと……!)


 雪菜は横に跳んで回避しようとした時、背後から拓馬の声。一瞬だけ振り返って確認すると、彼がガイアウルフと対峙していた。


「こいつは俺が!」


 拓馬は叫び、相手の攻撃を受け流す。雪菜は視線を戻し――優七が横からロストシャドウに斬りかかる光景を見た。


(これで終わりね)


 そう雪菜は心の中で断じ、槍を握る力を抜いた。その時、

 優七の剣戟が、ロストシャドウにヒットした。槍の攻撃と合わせ、倒した――


 確信したと同時に、変化が起こる。ロストシャドウは優七の一撃を受けても消滅せず、逆に雪菜へ突撃を敢行した。


「しぶといわね……!」


 雪菜は言いながら再度腕に力を込めようとした。しかし、ロストシャドウの動きが予想よりも速く、完全に体勢を立て直す前に攻撃が来た。


「雪菜!」


 優七が叫ぶ――それはもしかすると、予感めいたものを感じ警告したのかもしれない。

 けれど、雪菜の対応は遅れた。風をまとわせたロストシャドウの拳が、避けられない速度で迫った。


 ここに至り、雪菜も自身の失態を認識する――優七が敵を確実に倒すという保証はどこにもなく、上級の魔物であるために油断などしてはならなかった。


 魔物の攻勢により、雪菜は対応が後手に回ってしまい守勢を強制される――けれど、これはあくまでただの失敗であって、これ以降の戦いに変化はない。槍で拳を防御し、優七がとどめの一撃を入れて、終わりだ。


 雪菜は真正面からロストシャドウの拳を受けた。威力の程はわかっている。だから風が炸裂しても、雪菜は最初慌てなかった。きちんと攻撃を受ければ、ダメージは基本無いに等しいためだ。


 しかし次の瞬間、雪菜は自分の体が浮くのを感じた。通常であれば、ロストシャドウに体を浮かせる程の威力は無い。けれど例外はある。クリティカル――

 優七もまたそれを理解したのか、驚愕しながら剣をロストシャドウに決めた。それにより敵は完全に消滅。次いでガイアウルフの断末魔も聞こえ――敵は全滅した。


 けれど、雪菜の体は吹き飛ばされ、慌てて地面に足をつける。砂埃を上げながら踏みとどまろうとするが、風に煽られ上手く止まれず、

 そこで雪菜は気付く――優七と、拓馬が目を見開き、何かを叫ぼうとしていた。


(ああ、そうか)


 雪菜はそれをどこか、傍観者的な心持ちで見ていた。指摘されなくてもわかっていた――背後には、白い光が存在する。

 最後の抵抗とばかりに必死に足で踏みとどまっては見たが、やはり止まらない。そこで雪菜は覚悟を決めた。というより感情が消え失せ、ほんの僅かだが笑みが零れ、


「――雪菜あああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 優七の絶叫を耳にした。それに応じようとした次の瞬間、


 雪菜の体は白い光に触れ、飲み込まれた。


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